エンジンノイズマイクロホン 147AXを用いたエンジンノイズの測定手法|GRAS社

エンジンノイズマイクロホン 147AXを用いたエンジンノイズの測定手法|GRAS社

当ページでは、GRAS社エンジンノイズマイクロホン 147AXを用いた、自動車エンジンノイズ測定の手法をご紹介します。
この147AXを使用いただくことでエンジンノイズ測定がより正確に計測できます。

はじめに

自動車のキャビン内の音響環境は快適性の重要な指標です。内燃機関(ICE)から電動(BEV)または電動アシスト(HEV)への変更に伴い、エンジンベイ内にある従来の騒音源と新しい騒音源のキャビン内への伝達経路に焦点を当てる必要があります。
そのため、GRAS社とボルボ・カーズ社は共同で行ったエンジンノイズ低減の研究では、エンジンベイから車室内のドライバー位置への音響エネルギーの伝達に焦点を当てています(図1)。

図1:エンジンベイからの音響伝達

この音響エネルギーの伝達を研究するためには、一般的に相反性の定理を用いて、キャビン内の受信位置(一般的には座席の人間の耳位置)に音源を設置し、その結果得られるエンジンベイ内の音圧レベルを測定し、解析する伝達経路解析(TPA)があります。相反定理を使用することで、この結果からエンジンベイ内の騒音源からキャビン内への伝達の減衰量を推定することができます(図2)。

図2:相反定理を用いた分析

伝達経路解析には、エンジンベイ内に20本以上のマイクロホンを設置するのが一般的です。そのため、マイクロホンの設置は非常に面倒な作業になります。また測定結果の再現性は不十分であり、異なる音響最適化設計や吸音材の効果を定量化することは困難です。エンジンベイ内の音響伝達は、ほぼ等しく寄与する多数の異なる経路に分散するため、個々の伝達経路を低減しても、全体の伝達が大幅に低減することはできません。しかし、全体の低減するにはこれら変化を個別に調査しなければなりません。

一般的にはマイクロホンを20本以上設置し、その状態で音響伝達率を測定します。その後、全てのマイクロホンを取り外し、遮音構成に設計変更を施します。変更後、再度マイクロホンを取付け、その結果の音響伝達率の変化を測定します。しかし、この測定の再現性が2~3dBのため、その測定差分が設計変更の影響なのか、測定の不確かさに起因しているのか断定することはできません。

GRAS社では伝達経路解析をより正確に、より簡単にできるよう新しい画期的なマイクロホンを開発しました。このマイクロホンはボルボ・カーズで使用され、セットアップ時間の削減と測定精度と測定の再現性が向上することが確認されました。

自動車エンジンノイズ 従来の測定方法について

図3:従来の測定方法のマイクロホン設置

測定再現性の向上とセットアップ時間の短縮を図るため、GRAS社ではボルボ・カーズと協力し、XC90で実施した初期のプロジェクトの従来の測定手法を検証しました。試験は、高周波無指向音源を用いて行いました。音源ノズルは運転手の頭の位置に設置しました。エンジンベイ内には、指定された24箇所にマイクロホンを設置されました。マイクロホンは図3のように設置されていました。
この状態で音響伝達率を測定し、全マイクロホンの平均値を算出していました。その後、マイクロホンの取り外しと取付け、測定の手順をさらに2回繰り返していました。音響伝達減衰量は、キャビン内の基準マイクロホンで測定したレベルとエンジンベイ内で測定したレベルの平均値との差としていました。

取付けと取り外しを繰り返すことで発生する差分の一例として、3つのマイクロホンをエンジン前方下部の位置に設置し、同じ測定を3回繰り返した結果を示します(図4)。図4の結果を確認すると3つのマイクロホンの結果は高周波になるにつれ、差分が大きくなることが分かります。これらの結果から、個々のマイクロホンの位置周辺の局地的な音場とエンジンベイ内の音場全体的な変動の調査をすることができました。

図4:3つの典型的な音響透過測定

その一例として、4本のマイクロホンを15mmの間隔を空けて取り付けて、わずかな位置の違いを検証しました。図5はキャビン内で発生させて音源をエンジンベイ内の音圧レベルを間隔の狭い4本のマイクロホンで測定した例を示しています。間隔が狭い位置の測定でも、500Hzから5kHzまでの周波数範囲では、3dB以上の差が出ることが分かります。同様に、エンジンベイ内の異なるエリアの音圧レベルは、関心のある周波数範囲全体で10dB以上の差があることが分かりました。

図5:4つの近い位置で測定された音圧レベル

初期の測定手法から得られた多くの結果の中で、再現性を得るためには、マイクロホンを正確な位置への取付と配置が非常に重要であることが判明しました。また、作業員の配置決めの指示に対しての解釈が異なり、結果に差分を生じる可能性があると分かりました。

自動車エンジンノイズの新しい測定方法とその実用化

従来の測定方法の調査が示すように、マイクロホンの位置が不正確であることが主な制限要因の1つでした。従来の測定方法は汎用の測定マイクロホンを使用していました。自由音場型マイクロホンは音源や障害物から離れた自由音場条件に最適化された円筒型の機器です。自由音場型マイクロホンは反射がなく、音源が明確に1つにあるときに使用されます。これは、ほとんどスペースがなく、マイクロホンを設置する場所を探すことが難しい現代のエンジンベイ内のレイアウトとは大きく異なります。
多くの場合、マイクロホンはその場しのぎで取付けられたり、空いているスペースにテープで固定されたりします。この設置により、テストごと、作業員ごとにマイクロホンの取付位置にばらつきが発生します。またエンジンベイ内のレイアウトが変わるため、異なるモデル、異なる型式、プラットフォーム間での比較が難しくなります。従来の自由音場型マイクロホンの代わりに、構造物への取付を目的にした新しいマイクロホン 147AXを開発しました(図6)。

図6:従来の自由音場型マイクロホンと新しい圧力型マイクロホン147AX

147AXは、自動車の過酷なNVH試験環境を念頭に置いており、特別に設計されています。設計時の検証として、HALT試験(高加速度寿命試験)をマイクロホンに行っています。振動、衝撃、落下試験を与え、マイクロホンの耐久性を確認しています。ケーブルを含むマイクロホンは、125℃までの高温環境下で使用できるように設計されています。さらに、過酷な環境でも使用できるように防水・防塵仕様になっています。

多チャンネル測定の大きな問題点の1つは、チャンネルの識別と校正です。これを容易にするために、マイクロホン本体にLEDを内蔵しました。147AXが適切に接続され、使用可能な状態になっていれば、LEDが光り、接続を目視で確認できます。さらにマイクロホンにはTEDS(Transducer Embedded Data Sheet)が内蔵されています。147AXはチャンネル識別のために接続したデータ収録装置へ校正データを送信します。TEDS読み取り時にもLEDは光り、147AXの位置を確認することができます。

147AXには取付ディスクが付属します。両面テープ、接着剤、ネジ止めのいずれかで簡単に取付けることができます。147AXはこのマウントディスクにマグネットで固定されます。そのため、手が届きにくい場所でも、簡単に147AXを取付け、取り外しができます。

図7:新しい圧力型マイクロホンと取付けディスク

ここで説明した試験では、車両やエンジンの構成に依存しない典型的な構造要素を表すポイントを選択しているため、異なる車両プラットフォームや車種の結果を比較することができます。さらに取付ディスクは、プロジェクト期間中ずっと取付けたままにできます。147AXは異なる試験で使い回すことができ、再度その試験モデルで測定する際には、取付ディスクのおかげで設置場所が明確になります。
取付位置は図8に示します。

図8:エンジンベイ内のマイクロホン取付位置

自動車エンジンノイズの新しい測定方法での結果

新しい測定方法では、従来の方法と同様の試験結果が選らるため、過去の試験との整合性が保たれます。しかし、新しい測定方法は、各試験のセットアップ時間を大幅に短縮し、試験に必要なチャンネル数を24chから大幅に削減することができました。また試験の再現性も向上されました。

再現性の検証するために、同じ測定を従来と新しい方法でそれぞれ、3回行いました。各試験の間に、全てのマイクロホンは取り外され、次の試験にために再び取り付けました。従来方法では、3回の試験で2.5kHz以上の周波数帯で1dB以上の変動がありました(図9赤線)。
一方、新方法では、13本のマイクロホンでも同じ周波数範囲で0.2dBの再現性を実現しました(図9青線)。500Hzから6kHzまでの周波数範囲での全体的な再現性を0.75dBから0.3dBに向上させました。これにより、プロジェクトの進行中の音響減衰性能の小さな変化を正確かつ確実に評価することが可能になりました。

図9:従来方法と新方法の再現性比較

測定点の一部分のみを見ると、再現性の向上がさらに大きくなります。図10では、エンジンベイ内後部付近の3つのポイントについての従来方法と新方法の再現性を示しています。従来方法では、ほぼ全ての周波数範囲で2~3dBの変動があるのに対し、新方法では、1dB以内であることが分かります。
500Hzから6kHzまでの全周波数範囲では、再現性は1.85dBから0.69dBに改善されています。これらの改善により、新方法を使用して、全体的だけではなく、エンジンベイ内の特定のエリアの音響伝達を評価することが可能になりました。

図10:エンジンベイ内後部の3点での従来方法と新方法の再現性比較

まとめ

この147XAの取付方法により、音響伝達率測定の再現性を向上されることができ、様々な音響設計の最適化や、様々な吸音材の評価を正確かつ高い精度で行うことを可能にしました。
またセットアップ時間の短縮とチャンネル数の削減により、開発期間の短縮に貢献します。また全体的な効果だけではなく、エンジンベイ内の特定のエリアの音響伝達を評価することができます。この147AXを使用することで、これだけのメリットを得ることができます。ぜひ、一度147AXを使用してみてください。

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