現場で役立つ 電源回路定数の選定方法

 DC/DCスイッチングレギュレータのひとつである降圧型コンバータを例に、電源回路定数選定について Data Sheet を活用した手順を説明します。

回路定数選定とは?

回路図作成時に必要な設計

回路定数選定とは、仕様に合わせて採用したデバイスの周辺部品定数を選定していくことです。

実際に定数を選定していく際にこのようことを思ったことはないでしょうか?
・電源の知識や経験がないので定数なんて決められるか不安・・・
・問題が起きにくい定数を選ぶにはどうすればいいんだろう?
・時間もないし最低限見るべきポイントってないのかな?

今回はそのような疑問やお悩みの解消に協力するべく、そんなに難しくないDC/DCスイッチングレギュレータの回路定数の選定方法について説明します。

回路定数の選定フロー

●今回は回路定数選定について、下記①~⑤のフローに沿って説明していきます

①仕様の再確認

●デバイス選定時に決定した仕様の再確認
 ・電源回路定数は要求仕様を満たす定数を選定する必要がありますので、要求資料をあらためて確認します。

●要求仕様表記載の例

②資料の準備

●回路定数選定を行っていくうえで、2つの資料を用意します。
 ・最新の英語版Data Sheet
 ・使用デバイスのEVM User’s Guide

●最新の英語版Data SheetとEVM User’s GuideはメーカのWEBサイトから閲覧、ダウンロードします。
●各資料のポイントと特長について詳しく説明します。

最新の英語版Data Sheet

●定数選定に必須の資料
 ・Data Sheetは電源ICの詳細な説明や、機能の説明を記載しています。
  また、定数選定に必要な計算式や推奨値を記載しています。
 ・確認する際にはWEBに公開されている最新版のData Sheetをご用意ください。

日本語版Data Sheetの活用

 ・WEBで用意されている日本語版Data Sheetは、デバイスの機能を理解するには非常に有効です。
 ・しかし、最新リビジョンでない可能性もあります。回路定数選定は英語版、内容理解には日本語版と
 用途をわけて活用することで、スムーズに定数選定ができます。

使用デバイスのEVM User’s Guide

●回路定数情報が満載
 ・User’s Guideは動作チェックされた回路図やレイアウトを記載しています。
 ・回路定数選定の際には、設計者側で任意に決定しなければいけない条件があります。
 その際には、User’s Guideの値を参考にすることで、スムーズに定数選定ができます。
●有用ではあるが、あくまで参考情報
 ・EVM User’s Guideの回路定数は動作チェックされた定数のため、非常に有効な情報を記載しています。
 しかし、あくまで参考情報であり、お客様が設計される基板で必ず動作することを保証した値ではあり
 ません。定数の妥当性については、お客様の評価にて判断いただく必要があります。

③完成形回路図の確認

完成している回路図の定数を編集

●何もない状態から定数選定を行っていくのは時間もかかり、知識や経験が求められます。
●そこで最も簡単な方法は、すでに完成されている回路図を用意し、完成回路図の定数を編集していく方法です。

参考にできる回路の特長を考慮し、編集する完成形回路を決定

●過去の実績回路がある場合にはそちらを参考にできます。また、新規採用のデバイスの場合はData SheetのApplication InformationやEVM User’s Guideに記載してある回路を参考にできます。
●それぞれの回路もメリット・デメリットがありますので、用途に合わせて選択できます。

④機能ごとに分解(1)

定数選定前に必ず行うべき項目

●完成形回路図を用意した後に、周辺部品を機能ごとに分解します。
●この作業により、簡単な回路も複雑な回路も、同じように電源回路定数を機能ごとに選定できます。

Pin Functionsの活用

●“Pin Functions”は端子の説明だけでなく、その端子の持つ機能や、端子処理の方法などを記載しています。Pin Functionの説明内容を用いれば、ある程度完成形回路図の定数を機能ごとに分解できます。

●さっそくTPS62130Aの回路図を例に機能ごとに分解をしてみます。
●完成形回路図は“Application Information”の回路図を使用し、今回は[SS/TR端子]を例に行っていきます。

Pin Functionsに記載されているSS/TR端子の説明内容を確認

●赤線部には、外部にコンデンサを接続すれば内部リファレンス電圧の立ち上がり時間を決定できると説明しています。この説明文より、SS/TR端子はコンデンサを実装して使用するのが確認できます。

Pin Functionsの内容通りに、端子と回路定数を分解

●完成回路図のSS/TR端子の周辺を確認してみると、SS/TR端子にはC5のコンデンサが接続されています。“Pin Function”で記載されていたコンデンサがC5だとわかりましたので、SS/TR端子とC5を一つにまとめます。

●完成回路図からC5とSS/TRを分解できました。
●同じように、“Pin Functions”の表を利用して、端子と回路定数を分解していきます。

●“Pin Functions”の記載内容で上記のように分解できました。

④機能ごとに分解(2)

Feature DescriptionやApplication informationの活用

●“Pin Functions”に記載のない回路定数は詳細説明を確認することで、機能ごとに分解できます。
●詳細説明は“Detailed Description”や“Application information”に記載されています。Data Sheetを探せば記載部分を探し出せますが、検索機能を活用すれば、より簡単にできます。

Pin Functionsに記載されているキーワードで検索

●残った回路定数がどのような機能を持っているのかわからない場合には、“Pin Function”に記載されているキーワードを活用します。
●今回はC3の詳細説明項目を確認するために、C3が接続されているSW端子の説明欄にある、[output capacitor]をキーワードとして、検索をしてみます。

●検索すると、“Application Information”にoutput capacitorについて、詳細に説明をしている項目を見つけました。

●こちらの記載では、Output Capacitorは22uFのコンデンサの実装を推奨しています。
●このように、“Pin Function”に記載されているキーワードで検索をすれば、簡単に詳細説明箇所を探し出せます。
●“Pin Functions”や“Feature Description”、“Application information”を活用し、完成回路図を機能ごとに分解した回路図が下記です。

●最後に、機能ごとに分解した各回路定数を仕様に合わせて選定していきます。

⑤電源回路定数の選定

Detailed DescriptionやApplication informationの詳細説明通りに定数を選定

●機能の詳細説明には、推奨される定数や、定数選定のための計算式などを記載しています。
●先程と同じように、検索機能を活用してSS/TR端子の詳細説明を確認し、C5の容量値を選定していきます。今回は“Pin Function”に記載されていた[soft-start]で検索します。

●検索をすると、“Soft Start Capacitor”という項目で、機能の説明と、必要なコンデンサの値を求める計算式が記載されています。
●今回は仕様表の例に従って、Soft Start時間が2.35ms以上となる容量値を求めてみます。
●“Detailed Description”に記載されている計算式の[tss]に2.35mを代入して計算をします。

●計算結果は4.7nFとなりました。
●この結果より、Soft Start時間の仕様を満たすコンデンサ容量は4.7nFです。

完成形回路図の定数を編集

●最後に、先程求めたコンデンサの容量に値を編集します。

●これでSS/TRに実装するコンデンサ容量が選定できました。

まとめ

回路定数選定フロー

●今回は定数選定までをフロー形式で説明させていただきました。
●次回は、このフローに沿って、仮の仕様と電源デバイスを用いて実際に電源回路定数を1つずつ選定していきます。

担当エンジニアからの一言

今回説明したフローは、すでに決まっている仕様や、WEBからダウンロードした資料の情報で回路定数選定を行うためのものです。このように進め方を理解するだけでもある程度の定数を選定できます。しかし、今回選定した定数が本当に正しいのかどうかについては、最後の“評価”によって判断する必要があります。
それでも回路定数選定の進め方を知ることは、設計をスムーズに進めるために重要です。このフローが少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

おすすめリンク