イチからわかる時刻同期の基礎
時刻同期技術は、データセンター、モバイル、金融、産業、放送、電力などのあらゆる重要インフラで用いられており、このようなタイムクリティカルなアプリケーションは、増加傾向にあります。これらのインフラは連携して動作している場合があり、1 つのシステムにおいて同期の異常が発生した場合に連動して他のインフラサービスに対して影響を及ぼす可能性があります。
近年では同インフラのアプリケーションは分散システムモデルに移行しており、容量と速度が向上するにつれ、同期要件がシステムの設計に不可欠な要素となっています。
今回は同期要件に対する理解とシステム設計の一助になる様に同期に関する基礎をご紹介いたします。
まず、同期に欠かせないワードとして、周波数、時刻について説明し、精度と安定度、同期の種類、ネットワーク同期の仕組みを説明します。
時刻とは
時刻とは「ある基準からの時間の流れにおける一点のこと。」を言います。
時刻の基準は様々あり、現在の時刻は協定世界時 (UTC) が基準となっています。その他にもシステムによって使用している基準は様々あり、以下のような基準があります。
●天文時 | ~ 1958 年 地球の回転による時計 |
●国際原子時(TAI) | 1958 年~ セシウム原子133 の偏移周波数を用いた時計 |
●協定世界時(UTC) | 国際協定に基づき人為的に管理されている |
TAI+うるう秒(37 秒 2021 年11 月現在) | |
●日本標準時(JST) | UTC + 9 時間 |
●GPSタイム | 1980 年1 月1日を基準 UTC -18 秒(うるう秒) |
●UNIX タイム | 1970 年1 月1日を基準 UTC |
時刻は様々な方法で提供されています。その中でも GNSS (Global Navigation Satellite System)は高精度同期のアプリケーションで採用されるケースが多い提供方法になります。
●標準電波 | 電波時計 |
●電話回線 | テレホン JJY |
● GNSS | GPS、GLANOSS、Galileo、BeiDue、みちびき、NAVIC |
●タイムコード | IRIG-B、NASA 36 など |
●イーサネット | NTP (Network Time Protocol)、P TP (Precision Time Protocol) |
また、イーサネットによるパケットを用いたネットワーク同期も一般的になっています。
ネットワーク同期の仕組み
それでは、イーサネットが広く一般的となり様々なアプリケーションで使用されているネットワーク同期について説明していきます。ネットワーク同期においては前項で説明した周波数、位相、時刻同期を実現することができます。その基礎となるパケットを用いた同期について説明します。
パケット同期は NTP (Network Time Protocol)と PTP (Precision Time Protocol) の二つがあります。パケットのやり取りによってタイムスタンプをクライアント側に集め、計算することで時刻差を計算し時刻のズレを補正することで同期を行う仕組みとなります。
『NTP/PTP の仕組み』(図2)ではどのようにタイムスタンプをパケットによって交換しているのかを示しています。NTPとPTP ではパケットのやり取りは異なりますが、タイムスタンプを用いて同期する仕組みは同じです。
タイムスタンプはクライアント側に集められTime Offset、Delay の計算が行われクライアント側において時刻の調整が行われます。
Time Offset、Delay の計算式は上記の通りです。
計算式からわかる様に、時刻差はサーバとクライアント間のパケットを送受した際の伝送遅延を用いており、通信の非対称性が同期精度に影響を与えることがわかります。システム設計を行う上で考慮が必要なポイントとなります。また、NTPとPTP では仕組みがことなることから、アプリケーションによってどちらのプロトコルを使用するのか検討する必要があります。
まとめ
「時刻同期」の基礎として、周波数、時刻、精度と安定度、同期の種類、ネットワーク同期の仕組みについて説明してきました。
先述した通り、時刻同期の技術は、あらゆる重要インフラで用いられており、システム設計の上で同期条件を理解する必要性が高まっております。
丸文株式会社では「時刻周波数ソリューション」と題して、同期技術に特化した製品群をご用意しております。
多岐にわたる取扱メーカーを理由に、皆様のどんな課題も解決できるよう尽力させていただきます。
各種製品・ソリューションの詳細は、こちらの特設ページよりご確認ください。
会社名:丸文株式会社
部署名:アントレプレナ事業本部イーリスカンパニー
執筆者名:米川知希
執筆者の略歴(職務経歴、保有資格、受賞歴など):
1993年入社、技術部にて航空宇宙ビジネスのサポート業務に従事しながら、2000年よりタイムビジネスに関わる。2006年より技術部門から営業へと転身、引き続き航空宇宙・タイムビジネスに対する営業と技術サポートを提供。2022年よりアントレプレナ事業本部にて新サービスの構築に従事。