商品基礎情報
マイクロホンは大きく2つの製品で構成されています。1つはマイクロホンカブセルでダイヤフラムで音を電気信号に変換させます。もう1つの部品はプリアンプで、マイクロホンカプセルからくるハイインピーダンス信号を長いケーブルでも流れるようローインピーダンスに変換するのがプリアンプの役割です。しかし、プリアンプでローインピーダンスに変換したとしてもケーブルが長すぎると測定結果に影響を与えます。
ケーブルは長さによって変化するローパスフィルタと見なすことができます。このローパスフィルタの応答に影響与えるのは、長さ、静電容量、ケーブルを駆動するために利用可能な電流(プリアンプの電源から供給される)です。 静電容量が大きいほど、ローパスフィルタのカットオフ周波数は低くなります。静電容量が高くなると、ケーブルが長くなったり、ケーブルの構造が変わったりします。一般的なマイクロホンケーブルの静電容量は100pF/m(0.1nF/m)程度です。
上図の0dBは、感度50mV/Paのマイクロホンカプセルの120dB(re.1V)を表しています。従って、使用するケーブルが長いほど、ダイナミックレンジの上限と高域の上限が低くなります。つまり、この表によれば、50mV/Paでケーブル負荷100nFの場合、約137dB @1000Hzまで測定可能ですが、約129dB @3000Hzが限界となります。
※一般的なマイクロホンケーブル静電容量が100pF/m(0.1nF/m)のため、1kmのケーブルで100nFになります。
また、ケーブル内を伝わる信号は、電磁波の干渉やアースの問題によるノイズなどの影響を受けることがあります。しかし、それは別の議論になります。上記理由のため、高い音圧レベルや高周波を測定する場合にはケーブル長が長くすぎると影響を与える可能性があります。ケーブルの影響を計算する必要がある場合は、弊社までお問い合わせください。
マイクロホンには3種類のタイプがあり、使用する環境、試験によって使い分けていただく必要があります。
測定用マイクロホンの違いと音場については詳細な資料を用意しており、下記よりダウンロードすることができます。
最も一般的な自由音場型マイクロホンは音場にマイクロホンが導入される前の音圧を測定するよう設計されています。波長が短くなる高周波測定では、音圧が回折効果により、マイクロホン自体の存在が音場に影響を与え、音圧が局所的に乱されます。自由音場型マイクロホンはその音場の乱れを補正されるように調整されています。自由音場型は正面(入射角0°)からの音源をフラットな周波数で測定するように、工場出荷時に調整されています。多くの試験で使用されるタイプで、一番幅広い用途に使用できるマイクロホンです。
圧力型マイクロホンはダイヤフラムの表面上の実際の音圧を測定するように設計されています。マイクロホン自体がその音場に影響を与えない環境で使用されることを想定しています。例えば、壁面の一部に張付けたり、密閉されたカプラ内に設置する際に使用されます。
ランダム入射型(拡散音場型)マイクロホンは残響室や反射率の高い環境など、音が多方向からくる音場での測定に適したマイクロホンです。すべての方向から来る音波の影響はどの方向から来るのかによって決まります。ランダム入射型マイクロホンはすべての方向からの音を平均して測定できるように設計されています。
マイクロホンにはベントホールという穴が空いています。ベントホールはマイクロホン内部と外部の大気圧を調整するための穴になります。もしベントホールを塞いでしまうと正確な測定ができなくなります。ベントホール部分にシールを貼ってしまうケースや、マイクロホンを取り付ける際に、ホルダーで塞いでしまうケースがあるので、取り扱いにはご注意ください。
バイノーラル録音の場合には、KEMAR(HATS)を推奨しております。KEMARは男女5000人の統計に基づいて、設計されています。KEMAR頭部には、左右されぞれにマイクロホンが内蔵されており、腰部分に出力コネクタを持っています。KEMARは人間の音響特性に非常に近くなっており、バイノーラル録音を行うのに最適な製品です。
外部成極:LEMOコネクタを使用するので、LEMOタイプとも呼ばれることがあります。200Vの印加電圧で駆動し、高感度が実現できるため、ローノイズマイクロホンの種類が多いです。また一般的なマイクロホンも上限ダイナミックレンジが広いのが特長があります。外部成極型は安定性が優れているので、基準マイクロホンでは、外部成極型が採用されています。一方で、200Vの印加電圧が必要なため、直接接続できる計測器が限られています。一般的には専用のパワーモジュールに接続いただきます。またLEMOケーブルをご用意いただく必要があります。
成極済み:BNCコネクタやマイクロドットコネクタを使用し、2~20mAの定電流で駆動します。この方式はCCPやIEPE、CCLDといった呼び方をされ、様々な計測器でこの電源供給機能を備えております。加速度センサなどの他センサも同じ駆動方式を採用しているため、計測器との接続性が高いのが特長です。ケーブルも安価な同軸ケーブルを使用することができます。一方で、外部成極に比べるとローノイズマイクロホンの種類が少なく、長期安定については、劣ります。
外部成極型と成極済みマイクロホンの出力は位相が180°逆になります。外部成極型は正の入力に対し、負の出力をします。成極済みは正の入力に対して、正の出力をします。
外部成極と成極済みマイクロホンを見分けるためには、マイクロホンカプセル末端部分を確認します。成極済みマイクロホンには、2本線が入っているのが特長です。一方で外部成極型には何も線が入っていません。
GRAS社ではファンタム電源でCCP(成極済み)マイクロホンを使用できるアダプタAG0003をご用意しております。AG0003を使用いただくことで、オーディオインターフェイスなどからのファンタム電源でCCPマイクロホンを接続でき、測定を可能にします。
AG0003はXLRコネクタとBNCコネクタを備えており、汎用のオーディオインターフェイスを使用することで手軽に測定を始めることができます。
※AG0003を使用して他社製マイクロホンの動作は保証しません。
防水防塵マイクロホンでは、水中の音を測定することはできません。水中の音を測定する際には、ハイドロホンをご使用ください。GRAS社ではハイドロホンを扱っておりませんが、別メーカーでハイドロホンの取扱がございます。ハイドロホンをお探しの場合には、お問い合わせボタンより、お問い合わせください。
使用可能です。ただし、海水がかかった後は真水(淡水)を使い、海水を洗い流してください。そのまま放置するとマイクロホンやケーブルが劣化する可能性があります。防水マイクロホンにかかった海水を洗い流す際には、専用の保護グリッドは付けたままにしてください。防水マイクロホンであっても、ダイヤフラム部分は防水対応していません。
定期的に交換する必要はありませんが、防塵防水の保護グリッドに細かい塵や埃が溜まってしまった場合や、油汚れが取れなくなった場合には交換してください。防塵防水マイクロホン146AEは専用の保護グリッドのみの販売もしています。保護グリッドのみを交換することで、マイクロホン本体を長く使用することができ、コスト面で利点があります。
マイクロホンによっては可能です。本ページQ2で紹介している通り、マイクロホンを使用する際、ベントホールは非常に重要です。通常、GRASマイクロホンはコネクタ側位置にベントホールが空いていますが、ダイヤフラム近くの位置に変えることができます。また一部製品(146AEなど)は元々の設計で、ダイヤフラム側位置にベントホールを持つマイクロホンがあります。
ピストンホンと音響校正器(音響キャリブレーター)はどちらもマイクロホンを校正するための機器ですが、精度、駆動方式が異なります。
ピストンホンは内部のピストンが動くことで一定の音圧を発生させます。そのため非常に高い精度で校正できるのが特長です(GRAS ピストンホン42AA精度±0.08dB) 。一方でピストンの動作によって、基準音源を発生させるため、基準周波数は250Hzになり、1kHzの基準音源を発生されることはできません。
また 内部容積が変わることで基準音源も変化します。そのため、特殊なアダプタなどを使用すると基準音源が変わる可能性があります。さらに静圧や温度の変化の影響を受けるため、手動で補正する必要があります。そのため、ピストンには大気圧計が付属します。
ピストンホンは高い精度で校正できますが、手動で補正する必要があるため、正しく使用するのが難しい機器です。そのため、校正機関や研究室など、高い精度が求められるアプリケーションで使用されます。
音響校正器(音響キャリブレーター)はピストンホンと異なり、内部スピーカーより基準音源を発生させます。GRAS マルチ音響校正器42AGは内部にフィードバック回路付きマイクロホンが内蔵されているため、内部容積の変化があってもフィードバック回路により基準音源が補正されます。また内蔵マイクロホンと補正回路により、音響校正器内を一定の音圧レベルに保つことができるので、ピストンホンと異なり、静圧や温度による手動の補正が必要ありません。
音響校正器は内部スピーカーから基準音源を発生させるため、周波数、音圧レベルを切り替えることができます。GRAS 42AGは周波数250Hz、1kHzと音圧レベル94dB、114dBと切り替えることができ、4種類の基準音源を使用できます。1kHzで校正できるのも音響校正器の特長の1つです。
上記の通り、音響校正器は補正の必要もなく、簡単に使用できる機器です。ただし、一部製品は音響校正器に対応していない製品があり、そのような製品は、ピストンホンを使用する必要があります。また、精度はピストンホンに劣るため(GRAS 42AG精度±0.2dB)、高い精度を求められる研究室や校正機関では使用できません。高い精度を求められないアプリケーションでは、音響校正器で充分とも言えるでしょう。
GRAS社では年1回、専用の校正機関で校正を行うことを推奨しています。また測定前にはピストンホンや音響校正器を使用した感度校正を推奨しています。ただし、お客様ごとの運用方法や品質管理によって、校正頻度や校正内容は変わりますので、それぞれでご検討頂く必要があります。
弊社グループ会社である株式会社フォーサイトテクノでは、マイクロホンのISO17025認定校正を行うことが可能です。フォーサイトテクノのような校正機関では、精密な感度校正と静電アクチュエータを使用した周波数校正を実施します。一方でお客様ご自身で行って頂く、ピストンホンや音響校正器を使用した校正は、感度校正のみとなり、周波数校正は行うことができません。
お客様ご自身で周波数校正を実施するための校正設備を提供することが可能です。校正機関が使用する校正システムですので、精密な感度校正と周波数校正を実施できます。
弊社グループ会社である株式会社フォーサイトテクノでは、マイクロホンのISO17025認定校正を行うことが可能です。一部製品については、フォーサイトテクノで校正対応ができないため、メーカー返送校正になる場合があります。マイクロホン校正については、弊社もしくはフォーサイトテクノへお問い合わせください。
プリアンプ 26CFを使用することで、簡単にA特性をかけることができます。26CF本体にスイッチがあり、スイッチを切り替えることでA特性をかけることができ、他にもゲイン機能、ハイパスフィルタ機能を持っています。またマイクロホンを接続するデータロガー設定でA特性をかけることができる場合があります。データロガーについては、使用するメーカーへご確認ください。
26CEゲインスイッチ設定:0dB、+20dB
26CFフィルタスイッチ設定:A特性、リニア、ハイパスフィルタ
高い耐環境性を持つ146AEや147AXは125℃までの環境で使用できます。また一般的なマイクロホンカプセルは成極済みは120℃まで、外部成極型は150℃までの高温に対応しています。一方でプリアンプは通常85℃までの対応のため、プリアンプの温度範囲により、使用できる温度範囲が制限されます。
そのため、GRASでは120℃まで使用できるプリアンプをご用意しています。こちらを使用頂くことで120℃までの環境下で測定を行えます。
またプローブマイクロホンは最高800℃の高温環境下で測定することができます。プローブマイクロホンは先端のプローブを測定環境に入れ、マイクロホン本体は高温ではない位置に設置することで、高温環境下の測定を可能にしています。
GRASでは、BNC、マイクロドット、LEMO7ピン、SMB、様々なコネクタのケーブルでお好きな長さに指定することができます。使用できるケーブル長はマイクロホン感度や最大測定ダイナミックレンジなど様々な要素によって異なりますので、長いケーブル長をご検討いただく際には、測定条件等を弊社営業へご相談ください。
GRASマイクロホンはすべて無指向性マイクロホンです。マイクロホンサイズ、周波数により、ポーラプロットは下記のとおりになります。
測定用マイクロホンは微小な圧力変動を感知するために、非常に薄い(厚さ数マイクロメートル)ダイヤフラムを持っています。ダイヤフラムが薄いことにより、非常に低い音圧レベルの変動を検出することができます。一方でダイヤフラムは壊れやすく、鋭利なものが当たると穴が開いてしまうので、ダイヤフラムを守るために保護グリッドを取り付けています。そのため、ダイヤフラムを傷つけないためも保護グリッドは必要がない場合を除き取り外さないでください。
一方で、保護グリッドを取り外さなければならない場合があります。保護グリッドは低周波帯域では音響的に影響がありませんが、高周波帯域になると保護グリッドが共振器となり、マイクロホンの周波数特性に影響をおよぼします。1/2インチマイクロホンは保護グリッドを取り付けた状態で使用されるよう設計されていますが、1/4インチや1/8インチマイクロホンの周波数特性は保護グリッドを取り外した状態を想定して設計されています。
この問題は20kHz前後、もしくはそれ以上の周波数帯域で発生します。またマイクロホンの直径が小さくなるほど顕著になります。1/2インチマイクロホンは保護グリッドを取り外す必要はありませんが、1/4インチ、1/8インチマイクロホンを使用する場合で、20kHz以上の周波数帯域を測定する場合には、保護グリッドを取り外して測定することを推奨します。
また自由音場型マイクロホンは自由音場補正をかけた補正されたデータが出力されます。自由音場補正も1/2インチマイクロホンは保護グリッドを取り付けた状態で、1/4インチマイクロホンは取り外した状態での補正係数を用いています(※1/8インチマイクロホンには自由音場型のご用意はありません)。
現品に付属する校正データも1/4インチ自由音場型マイクロホンは保護グリッド無しの状態での自由音場補正値を使用したデータになっています。なお、圧力型マイクロホンは補正の必要が無いため、どのサイズであっても校正データには保護グリッド無しの状態での周波数特性が記載されています。
GRASでは下記画像のような各マイクロホンごとの保護グリッドの有無、入射角によっての補正値をご用意しています(補正データの提供をご希望の場合には、弊社へお問い合わせください)。そのため、測定後に補正することも可能ですが、保護グリッドとダイヤフラム感の距離の公差や保護グリッドのサイズ公差などの予測が難しく、高周波測定においては影響を与えるため、1/4インチ、1/8インチマイクロホンで正確な高周波帯域のデータを取得するためには、保護グリッドを取り外して測定ください。取り外した際には細心の注意を払って、取扱いください。
自由音場型マイクロホンは自由音場環境において、入射角0°(正面からの音)をフラットに測定できるよう自由音場補正を適用しています。自由音場補正の影響で、高周波帯域での測定時には、入射角によっては応答がフラットではなくなります。多くの場合、高周波を過小評価することになります。
具体的にどれほどの影響が出るのかは、周波数帯域と入射角によって変わります。 今回一例として、自動車のエンジンルーム内に自由音場型マイクロホン146AEと圧力型マイクロホン147AXを同じ位置に設置し、実車走行試験(60km/hでの走行)を実施し、2つのマイクロホンの測定結果にどれほど差分が表れるのか検証しました。
上記の結果の通り、高周波帯域(約6kHz以上)では、自由音場型と圧力型の測定結果に差分が出ていることが分かります。これは自由音場補正の影響で、入射角0°以外からの音を過小評価しています。補正が無い圧力型は、高周波帯域を過小評価することがないため、測定結果に差分が出ています。
このようにエンジンルーム内のように自由音場環境ではなく、様々な方向から音が入ってくる場合は、自由音場補正は高周波測定において影響を与える場合があります。このような場合には、今回比較対象として使用した圧力型マイクロホンを使用する方法や、 1/4″自由音場型マイクロホンのように小型なマイクロホンを使用することで、測定の不確かさを低減させることができます。
EQset™ はGRASが開発した測定用マイクロホンの画期的な技術です。EQset™ はマイクロホンごとの感度値のバラツキを限りなく小さくし、同じ型番のマイクロホンであれば、同じ公称感度値を使用することができます。シリアル番号ごとに感度値を設定する必要がありません。そのため、測定前にマイクロホンの校正作業や、TEDS読み込み機能を持つ計測器が必要ありません。
また周波数特性のバラツキは大幅に低減しており、高い測定精度を実現しました。下記画像はEQset™ を搭載したマイクロホンとEQset™ を搭載していないマイクロホンのそれぞれ100本の周波数特性のグラフです。通常のマイクロホンの周波数特性精度は±2dBですが、EQset™ により、10kHz以下で±0.5dBという高い精度を実現しています。
EQset™を搭載したマイクロホンを使用することで、専門知識が無い方でも手軽に高い精度を行うことができます。例えば、製品の生産ラインの音響試験では高い精度を要求されますが、感度設定や校正などのセットアップを行うのは難しい場合があります。そのようなアプリケーションではEQset™は最適な技術になります。