電子部品搭載装置における接着剤塗布技術:粘性課題を克服する「塗布」と「転写」の最適解
現代の電子機器は、高性能化、小型化、多機能化が急速に進んでいます。これに伴い、電子部品を基板に搭載する技術も高度化が求められ、特に接着剤塗布技術は、製品の信頼性や生産効率を左右する重要な要素となっています。しかし、この接着剤塗布において、「接着剤の粘性」は常に課題として立ちはだかります。
この記事では、電子部品搭載装置における接着剤塗布技術の中から、「塗布」と「転写」という二つの主要な方式に焦点を当て、それぞれの特徴、メリット・デメリット、そして接着剤の粘性に起因する問題を解決し、最適な選択を行う方法について、詳しく解説します。
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なぜ接着剤塗布技術が重要なのか?
電子部品は、半導体チップからコンデンサ、抵抗器など多岐にわたります。これらの部品は、はんだ付けだけでなく、接着剤を用いて固定されるケースが増えています。特に、微細な部品や熱に弱い部品、あるいは特定の電気的・熱的特性を求める場合には、接着剤が不可欠です。
適切な接着剤塗布技術は、以下の点に貢献します。
- 信頼性の向上: 部品の確実な固定により、振動や衝撃に対する耐性を高め、製品寿命を延ばします。
- 小型化・高密度化: 微細な塗布により、部品間のスペースを最小限に抑え、高密度実装を可能にします。
- 生産効率の向上: 高速かつ正確な塗布により、生産タクトタイムを短縮し、コスト削減に貢献します。
- 機能性の向上: 接着剤の特性(導電性、絶縁性、放熱性など)を活かすことで、製品の新たな機能を実現します。
接着剤の粘性がもたらす課題とは?
接着剤の粘性は、塗布品質に大きな影響を与えます。高すぎても低すぎても、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 塗布量のバラつき: 粘度が高すぎると押し出しにくく、低すぎると垂れやすくなり、均一な塗布が困難になります。
- 塗布形状の崩れ: 細い線や微小な点など、狙い通りの形状を維持するのが難しくなります。
- タクトタイムの増加: 粘度が高いと吐出に時間がかかり、生産効率が低下します。
- 糸引きやボタ落ち: 塗布後のノズルからの糸引きや、意図しない場所へのボタ落ちが発生し、品質不良につながります。
- 気泡の混入: 粘度が高いと接着剤内部に気泡が閉じ込められやすく、接着不良や導電不良の原因になります。
- 安定性の欠如: 温度変化によって粘度が大きく変動する接着剤の場合、安定した塗布が難しくなります。
接着剤塗布技術の二大巨頭:「塗布」と「転写」
電子部品搭載装置における接着剤塗布技術は、大きく分けて「塗布方式」と「転写方式」の二つに分類されます。それぞれの方式には、異なる原理と適用分野があり、粘性課題へのアプローチも異なります。
1. 直接「塗布」する方式:ダイレクトで正確な塗布を実現
塗布方式は、ディスペンサーやジェットバルブといった装置を用いて、接着剤を直接、対象となる基板や部品に供給する方式です。
塗布方式の主な種類と粘性課題への対応
- ディスペンサー方式: 針(ノズル)から接着剤を押し出す最も一般的な方式です。塗布量、塗布速度、針の移動パスなどを精密に制御することで、点、線、面の様々な形状に対応できます。
- 粘性課題への対応:
- 温度制御: 接着剤の供給経路やノズルを温度制御することで、粘度を安定させ、吐出特性を均一に保ちます。特に、熱を加えることで粘度が下がるタイプの接着剤に有効です。
- 高精度ポンプ: ギアポンプやスクリューポンプなどの高精度ポンプを使用することで、高粘度接着剤でも安定した量を供給できます。
- ノズル径の最適化: 接着剤の粘度に合わせて最適なノズル径を選択することで、糸引きやボタ落ちを抑制し、塗布形状を安定させます。
- 塗布圧力の調整: 粘度に応じて適切な塗布圧力を設定し、安定した押し出しを実現します。
- 粘性課題への対応:
- ジェットバルブ方式: 非接触で接着剤を噴射する方式です。微小なドットを高速で形成できるため、狭ピッチ部品への塗布や、液体の粘度変化に強いのが特徴です。
- 粘性課題への対応:
- 非接触塗布: 非接触のため、ノズルとワーク間の距離による粘度変化の影響を受けにくく、糸引きやボタ落ちのリスクを低減できます。
- 高速噴射: 高速で接着剤を噴射するため、粘度による液切れの悪さを補うことができ、微小なドットを安定して形成できます。
- ヒーター内蔵: バルブ内部にヒーターを内蔵し、接着剤を適温に保つことで、粘度を一定に維持し、安定した吐出性能を発揮します。
- 粘性課題への対応:
塗布方式が適しているケース
- 部品の種類が多く、それぞれの部品に異なる塗布パターンが必要な場合
- 少量多品種生産で、柔軟な塗布設定が求められる場合
- 複雑な塗布形状や、段差のあるワークへの塗布が必要な場合
- 精密な塗布量制御が求められる場合(粘度管理が重要)
2. 「転写」で塗布する方式:高精度・高効率な量産に対応
転写方式は、一度接着剤を別のメディア(転写シートやスタンパーなど)に付着させ、その後、そのメディアから対象物へ接着剤を転写する方式です。
転写方式の主な種類と粘性課題への対応
- ピン転写方式: 微細なピンの先端に接着剤を付け、そのピンをワークに接触させて接着剤を転写します。非常に微細な塗布が可能で、狭ピッチ部品への適用に優れます。
- 粘性課題への対応:
- 適正粘度範囲の選定: ピンに接着剤が適切に付着し、かつワークに確実に転写されるよう、接着剤の粘度に適したピンの形状や材質、転写条件(接触時間、圧力)を設定します。
- 接着剤供給の安定化: 接着剤を供給するトレーやリザーバーの温度制御を行い、接着剤の粘度を一定に保ちます。
- ピンの洗浄・メンテナンス: 粘性の高い接着剤を使用する場合、ピンへの付着や硬化を防ぐために、定期的な洗浄やメンテナンスが不可欠です。
- 粘性課題への対応:
- 版転写方式(スクリーン印刷、メタルマスク印刷など): マスク(版)の開口部に接着剤を充填し、スキージなどで押し付けることでワークに転写します。一括で多数の箇所に接着剤を塗布できるため、量産性に優れます。
- 粘性課題への対応:
- チクソ性接着剤の活用: 印刷時には低い粘度で流れ、印刷後は高い粘度で形状を保持するチクソ性(剪断粘性低下性)を持つ接着剤を用いることで、印刷性と形状維持の両立を図ります。
- スキージ速度・圧力の調整: 接着剤の粘度に合わせてスキージの速度と圧力を最適化し、マスクの開口部への接着剤の充填性、およびワークへの転写性を向上させます。
- 版の設計: 接着剤の粘度や塗布量に応じて、マスクの開口部形状や厚みを適切に設計することで、シャープな印刷を実現します。
- 環境制御: 印刷環境の温度や湿度を管理することで、接着剤の粘度変化を抑制し、安定した印刷品質を保ちます。
- 粘性課題への対応:
転写方式が適しているケース
- 同一パターンで大量の部品に接着剤を塗布する場合
- 非常に高い位置精度と均一性が求められる場合
- 生産タクトタイムの短縮が最優先される場合
- 極めて微細な領域への塗布が必要な場合(粘度とチクソ性が重要)
最適な接着剤塗布技術の選定:粘性課題を克服するためのバランス
「塗布」と「転写」、どちらの方式が最適かは、お客様の製品、生産量、要求される精度、コスト、そして接着剤の粘性特性など、様々な要因によって異なります。
選定のポイント(粘性課題解決の視点から)
1.接着剤の粘度とチクソ性:
- 低~中粘度: ジェットバルブやディスペンサーが有利な場合が多い。
- 高粘度: 高精度ポンプ搭載ディスペンサーや、版転写(スキージ制御、チクソ性活用)が有効。
- チクソ性: 版転写方式の性能を最大限に引き出すカギとなります。
2.温度による粘度変化:
- 変化が大きい場合: 塗布・転写方式ともに、温度制御機能が必須となります。装置全体、または接着剤供給経路やノズル、リザーバーの温度を厳密に管理できるシステムを選定しましょう。
3.塗布量と塗布速度:
- 微量・高速: ジェットバルブやピン転写が適しています。これらの方式は、粘性による液切れの悪さを補いやすい特性があります。
- 多量・均一: 版転写や高精度ディスペンサーが適しています。
4.気泡の有無:
- 高粘度接着剤は気泡が混入しやすい特性があります。ディスペンサー方式では、脱泡機能付きの供給システムの導入を検討しましょう。ジェットバルブ方式は非接触のため、気泡の影響を受けにくい傾向があります。
5.メンテナンス性:
- 高粘度接着剤や硬化しやすい接着剤は、ノズルやピン、スキージへの付着や固着が問題になりがちです。自動洗浄機能や交換が容易な部品設計を持つ装置を選定することで、ダウンタイムを削減できます。
まとめ
電子部品搭載装置における接着剤塗布技術は、製品の品質と生産効率を左右する基幹技術です。特に接着剤の粘性に起因する課題は、塗布の安定性や品質に直結します。「塗布」と「転写」という二つの主要な方式は、それぞれ異なる強みと適用分野を持ち、粘性課題に対しても異なるアプローチが可能です。
お客様の具体的なニーズを深く理解し、接着剤の粘性特性を十分に考慮した上で、これらの技術を適切に組み合わせることで、最高の生産性と品質を実現することが可能です。
私たちは、お客様の課題解決に貢献するため、最適な接着剤塗布ソリューションの提案をお約束します。電子部品搭載装置における接着剤塗布技術、特に接着剤の粘性に関するお悩みやご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。