Vicor社|採用実例【ロボティクス】
ラストワンマイルを担う「配送ロボット」から、危険な現場で作業する「警備・点検ロボット」、倉庫の効率化を実現する「物流ロボット」、衛生環境を守る「消毒ロボット」まで。今や、ロボットの活用シーンはあらゆる産業に拡大しています。本稿では、これら第一線で活躍するロボットたちに共通して採用されているVicorの電源ソリューションに焦点を当てます。多様なアプリケーション事例から、貴社の製品開発における課題解決のヒントがここにあります。
目次
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配達ロボット
▌ラストワンマイル配送の課題
食料品やテイクアウト食品、ECサイトで購入した商品のラストワンマイル配送は、自律走行ロボット(AMR: Autonomous Mobile Robot)にとって重要な市場となりつつあります。これらのロボットは、バッテリー駆動で自律的に動作するため、電力効率と航続距離、そして積載スペースの最大化が、その性能と実用性を左右する重要な要素となります。
【開発における3つの主要な目標】
自律走行搬送ロボットの開発においては、主に以下の3つの目標が掲げられました。
①航続距離と稼働時間の延長: バッテリー駆動であるため、一度の充電でより長く、より遠くまで稼働できることが求められます。
②小型・軽量化による省スペース化: 高度なセンサーやナビゲーションシステムを搭載しつつ、より多くの荷物を運ぶためのスペースを確保する必要があります。
③多様な負荷電圧への対応: センサー、サーボドライブ、ナビゲーションシステムなど、多岐にわたるコンポーネントへ適切に電力を供給する必要がありました。
▌Vicorの電源モジュールによる解決策
これらの課題に対し、Vicorの高性能電源モジュールが解決策として採用されました。Vicorの電源モジュールは、その小型・軽量な設計により、センサーやナビゲーションシステムのための貴重なスペースを確保し、より多くの荷物を積載することを可能にしました。
【具体的な電源供給ネットワークの構成】
さらに、高効率な電力変換により、ロボットの稼働時間を延長させ、より遠い目的地への安全な配送を実現します。この配送ロボットの電源供給ネットワーク(PDN)では、VicorのDCM™コンバータシリーズが中核を担っています。43~154Vという広い入力電圧範囲で動作するDCM3623は、バッテリーからサーボドライブやその他のペイロード、さらには下流のコンバータへ、安定化された24Vまたは48Vの電力を供給します。この24Vまたは48Vの電圧レールが確立された後、ZVSバックレギュレータやバックブーストレギュレータを用いて、さらに低い電圧レールへ効率的に電力を供給することが可能です。
セキュリティ及び検査ロボット
▌警備・点検ロボットが直面する技術的課題
警備・点検ロボットは、人間が立ち入ることが困難または危険な場所での作業を代替することで、人命を守り、時間とコストを節約する上で重要な役割を担っています。これらのロボットは、インフラの継続的な監視や危険区域の巡回など、多岐にわたる用途で活躍しており、その性能向上は社会的な価値に直結します。
警備・点検ロボットの開発においては、主に以下の3つの技術的課題が存在しました。
①高効率化による稼働時間の延長: バッテリー駆動であるため、電力損失を最小限に抑え、より長時間の稼働を実現することが求められます。
②高温動作への対応: 狭い筐体内で高出力の電力を扱うため、発生する熱を効率的に管理し、安定した動作を確保する必要がありました。
③多様な負荷電圧への対応: 高度なセンサーやアクチュエーターなど、それぞれ異なる電圧で動作する多数のコンポーネントへ、安定した電力を供給する必要がありました。
▌Vicorの電源モジュールによる解決策
これらの課題を解決するため、VicorのDCM™電源モジュールが採用されました。このソリューションは、熱管理に優れた高電力密度を実現しており、ロボット内部の限られたスペースに最適です。また、単一のモジュールで多様な負荷電圧に対応できるため、設計の簡素化に貢献します。さらに、モジュールの高密度化は配線の最適化を可能にし、バッテリーの効率、性能、そして稼働時間の向上を実現しました。
【具体的な電源供給ネットワークの構成】
実際の電源供給ネットワーク(PDN)では、300Vの電源から、VicorのDCM4623モジュールを用いてコントローラー用の12Vを生成します。さらに、別のDCM3623モジュールを使用して、推進用のスラスターを駆動するために48Vから18Vへの電圧変換を行います。このモジュール構成により、携帯電話2台分ほどのコンパクトなサイズで、92%という高効率で1.5kWもの電力を供給することが可能になりました。この省スペース化により、高度なセンサーを搭載するための貴重なスペースを確保することにも成功しています。
物流ロボット
▌物流ロボット開発における3つの主要課題
大規模な倉庫や物流センターにおいて、自律走行搬送ロボット(AMR)や無人搬送車(AGV)は、在庫管理や注文処理の自動化に不可欠な存在となっています。これらのロボットは通常、24Vから72Vのバッテリーで駆動されており、その性能を最大限に引き出すためには、電力変換効率、サイズ、重量といった要素が極めて重要な設計要件となります。
物流ロボットのプラットフォーム開発においては、主に以下の3つの課題が存在しました。
①拡張性のある電力供給: 様々な積載物や用途に対応するため、ロボットのプラットフォームを迅速に再構成できる、柔軟で拡張性の高い電源システムが求められます。
②高効率化による稼働時間の延長: 一度の充電で可能な限り長く稼働させるためには、電力変換における損失を最小限に抑える高効率な電源が必要です。
③軽量化と省スペース化: ロボットの可搬重量を最大化し、多様なセンサーやアクチュエーターを搭載するため、電源システム自体の重量を追加することなく、様々な負荷電圧に対応できることが求められます。
▌Vicorの電源モジュールによる解決策
これらの課題に対し、Vicorの高性能パワーモジュールが効果的なソリューションを提供します。Vicorのモジュールは軽量かつ省スペース設計であるため、安全運用を確保するためのセンサーやアクセサリを追加搭載する設計自由度を高めます。また、モジュールを追加または変更するだけで、異なる電力要件を持つ他のプラットフォームへも電力供給ネットワーク(PDN)を容易に再構成することができ、開発期間の短縮とコスト削減に貢献します。
【具体的な電源供給ネットワークの構成】
Vicorは、使用するバッテリー電圧に応じて、最適な電源供給ネットワーク(PDN)の構成を提案しています。
・67Vバッテリーを使用する場合: PRM™昇降圧レギュレータを用いて24V~48Vの安定した中間バス電圧を生成し、そこからNBM™やZVS降圧レギュレータを介して各負荷へ最適な電圧を供給します。
・24~48Vバッテリーを使用する場合: バッテリーから直接、PRM™、ZVS降圧レギュレータ、ZVS昇降圧レギュレータなどを用いて各負荷へ電力を変換します。特に、PI3740 ZVS昇降圧レギュレータは、小型パッケージでありながら100W以上の高出力を供給可能です。
消毒ロボット
▌消毒ロボットの電源設計における3つの課題
学校、病院、ホテル、倉庫といった大規模な公共空間において、病原体やバクテリアを除去し、衛生的な環境を維持することは極めて重要です。消毒ロボットは、高輝度の紫外線(UV)ランプや消毒液噴霧機能を備え、これらの施設を自律的に巡回することで、人々の健康を守る上で重要な役割を果たしています。
消毒ロボットは通常24V以上のバッテリーで動作し、UVライト、ポンプ、各種センサー、駆動用モーターといった多岐にわたるコンポーネントへ電力を供給する必要があります。その開発においては、主に以下の3つの課題が存在しました。
①高い電力効率: より長い稼働時間を確保し、一度の充電でより広い範囲を消毒するため、電力変換における損失を最小限に抑える必要がありました。
②高温環境下での動作: 高出力のUVランプや内部コンポーネントから発生する熱に対し、安定した性能を維持できる熱管理能力が求められました。
③多様な電圧の供給: 機能の異なる様々な負荷(コンポーネント)に対し、それぞれ最適な電圧を安定して供給する必要がありました。
▌Vicorの電源モジュールによる解決策
これらの課題に対し、Vicorは高電力密度かつ高効率な電源モジュールをソリューションとして提供しました。Vicorのモジュールは、幅広い負荷に対して安定した電力供給を実現すると同時に、そのコンパクトな設計により省スペース化と軽量化に貢献します。これにより、ロボット全体の効率が向上し、より高性能な消毒ロボットの設計が可能となりました。
【具体的な電源供給ネットワークの構成】
この消毒ロボットの電源供給ネットワーク(PDN)では、VicorのZVS(ゼロ電圧スイッチング)降圧および昇降圧レギュレータが中心的な役割を果たします。24Vのバッテリーから、ポンプ、ファン、センサー、コントローラーといった各コンポーネントが必要とする3.3Vから24Vまでの多様な電圧を、95%以上という高い効率で生成します。このモジュールベースのアプローチは、従来のディスクリートなDC-DCコンバータ設計と比較して、大幅な省スペース化と高効率化を同時に実現しています。