鉄道アプリケーション向け欧州規格(EN 50155/EN 45545)をクリアする電源設計の決定版
鉄道車両に搭載される電子機器の電源は、EN 50155をはじめとする厳しい欧州規格への準拠が不可欠です。設計者は、広い入力電圧変動への対応、過酷な温度・振動条件への耐性、そして火災安全性への対応など、多くの技術的課題に直面します。本記事では、鉄道電源設計における主要な課題を明確にし、Vicorの高性能モジュール電源がいかにしてこれらの規格要件をシンプルかつ確実に満たし、設計者に決定的なソリューションを提供するか、具体的な技術的アプローチと共に解説します。
鉄道規格の基本:EN 50155が要求する主要な電源要件
鉄道車両の電源システムは、通常の産業環境とは比較にならないほど過酷です。EN 50155は、これらの車両に搭載される電子機器の機能、性能、信頼性を保証するための欧州規格であり、特に電源ユニットに対しては非常に厳しい要求が課せられます。
過酷な入力電圧変動(Brownout/Surge)への対応
鉄道の架線電圧は変動が激しく、電子機器の入力端子にもその影響が及びます。EN 50155では、電子機器が動作中に遭遇する可能性のある電圧変動(特にサージやブラウンアウト)に対して、機能停止することなく耐えることを求めています。
鉄道車両の公称入力電圧(例:24V、72V、110V DC)に対し、以下の電圧範囲での動作が要求されます。
- 連続動作の0.7倍から1.25倍までの範囲。
- 一時的な許容動作の0.6倍から1.4倍までの範囲(限定時間内)。
従来の電源設計では、この広範な変動に対応するために、複雑な入力フィルタや大容量の電解コンデンサ、外部の保護回路を設ける必要があり、これが機器の大型化と信頼性低下の要因となっていました。
広範な動作温度と耐振動・耐衝撃性
鉄道機器は、北欧の寒冷地から中東の熱帯地域まで、幅広い気候下で稼働します。EN 50155では、動作温度クラスが定義されており、多くの電子機器で広範な温度範囲での動作が要求されます。
また、走行中の絶え間ない振動や、車両の連結・分離時の衝撃に対する堅牢性も極めて重要です。これに対応するためには、使用する部品の選定、基板実装方法、パッケージングに至るまで、高い機械的強度を考慮した設計が不可欠です。
Vicorモジュール電源による規格準拠の実現
Vicorのモジュール電源は、独自のアーキテクチャと高い電力密度により、従来のディスクリート設計では複雑だったEN 50155への準拠を大幅に簡素化し、設計のリスクを低減します。
Vicorモジュールの超広入力範囲がサージ・ブラウンアウトを吸収
Vicorの鉄道向け高入力電圧対応モジュール(例:DCMシリーズやFactorized Power Architecture (FPA)を構成するモジュール群)は、EN 50155の要求を凌駕する超広範囲の入力電圧に対応しています。
特に110V公称電圧システムに対応するVicorのモジュールは、EN 50155の1.4倍サージ電圧(154V)を外部回路を介さず直接受け入れ、継続的な動作を維持することが可能です。これにより、設計者は煩雑な保護回路の設計から解放され、部品点数の削減と信頼性向上を実現できます。
高い電力密度がもたらす密閉筐体での熱対策の優位性
Vicorモジュールは、業界最高クラスの電力密度を実現しています。これは、同じ電力レベルのカスタム電源と比較して、熱源となるコンバータの体積が劇的に小さいことを意味します。
- 自然空冷への貢献: 電力密度が高い=高効率かつコンパクトなため、熱損失が集中していても、モジュールから筐体への熱伝導パスを最適化することで、大型ヒートシンクや強制空冷なしでの広温度範囲動作(EN 50155のクラスなど)を実現しやすくなります。
- 堅牢性の向上: 密閉筐体設計が可能となり、塵埃や湿気といった環境ストレスから電子機器を効果的に保護できます。
火災安全性規格EN 45545への対応戦略
EN 45545は、鉄道車両の火災保護に関する欧州規格であり、火災発生時の延焼リスクや、発生する煙の毒性を制限することを目的としています。電子機器の電源モジュールについても、この規格への対応が求められます。
部材選定とモジュール構造による火災リスクの最小化
Vicorの多くのモジュールは、低発煙・低毒性の材料を使用し、堅牢で密閉性の高いパッケージングを採用しています。
- コンプライアンスの簡素化: EN 45545では、使用される材料の燃焼性や発煙特性に基づき、ハザードレベルが定義されています。Vicorモジュールを使用することで、電源ユニット全体を構成する部品点数が減り、サプライチェーン全体の材料コンプライアンスの管理が容易になります。
- リスク低減: 高い電力密度により熱が効率的に管理されるため、過熱による発火リスクを構造的に低減します。
まとめ:信頼性の高い鉄道システムを実現するために
鉄道アプリケーションにおける電源設計は、安全性と持続的な信頼性が何よりも優先されます。Vicorのモジュール電源は、以下の点で設計者の課題を解決し、EN 50155およびEN 45545という二つの主要な規格要求への対応を可能にします。
- 規格準拠の容易化: 超広入力範囲対応により、外部保護回路を削減し、システム設計を簡素化。
- 小型・軽量化: 高電力密度により、熱設計の難易度を下げ、筐体の小型化と軽量化を実現。
- 信頼性向上: 部品点数の削減と堅牢なパッケージングにより、過酷な鉄道環境での長寿命化に貢献。