SDVの足かせを外す鍵。なぜ次世代E/Eアーキテクチャに「ASA」と「10BASE-T1S」が不可欠なのか?
車載ネットワークは「オール・イーサネット」の時代へ。 ゾーンアーキテクチャへの移行が加速する中、エッジセンサーからハイパフォーマンスコンピューターまでを同一プロトコルで繋ぐ構想が現実味を帯びてきました。そのラストワンマイルを担うのが、マルチドロップ接続可能な「10BASE-T1S」です。一方で、高速化するカメラ映像伝送には、非対称通信に特化した新規格「ASA Motion Link」が革命をもたらそうとしています。これら新技術の採用は、単なる通信速度の向上だけでなく、車両設計の自由度を飛躍的に高めますが、新技術には新たな検証課題がつきものです。本記事では、物理層の挙動を正確に捉え、品質を担保するための最適解までを紐解きます。
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1. SDV時代が突きつけるE/Eアーキテクチャの限界
自動車業界は今、100年に一度の大変革期にあります。SDVの進展により、車両は単なる移動手段から、ソフトウェアによって機能が更新され続ける「走るコンピューター」へと進化しています。しかし、この進化の裏で、物理的なインフラであるE/Eアーキテクチャは悲鳴を上げています。
従来のドメイン型アーキテクチャでは、機能追加のたびにECUとハーネスが増加し、高級車ではハーネス総重量が数十キログラムにも達しています。これは燃費や電費を悪化させるだけでなく、製造工程の複雑化も招いています。また、カメラ映像伝送などで主流だった独自のSerDes規格は、特定のチップベンダーへの依存度が高く、コスト高止まりやサプライチェーンのリスク要因となっています。2. なぜ従来の「CAN/LIN」や「独自のSerDes」では次世代車に不十分なのか
長年親しまれてきたCANやLINは、低コストで堅牢ですが、自動運転に必要なLiDARや高解像度カメラのデータを運ぶには帯域幅が圧倒的に不足しています。CAN FDへの移行も進んでいますが、それでもメガビット級の通信には限界があります。
一方、高速通信を担ってきた独自のSerDes技術は、性能面では優れているものの、「ブラックボックス化」という課題を抱えています。仕様が公開されていないため、サードパーティ製のツールでの検証が難しく、トラブルシューティングが長期化する傾向にあります。これに対し、オープンな標準規格への移行は、マルチベンダーによる競争原理を働かせ、コスト削減とイノベーションを加速させるための必須条件と言えます。
3. 次世代カメラI/F「ASA Motion Link」:非対称通信がもたらす映像伝送革命
ここで注目すべきが、Automotive SerDes Alliance(ASA)が策定した「ASA Motion Link」です。これは、車載カメラやディスプレイ接続のために最適化された、オープンなSerDes規格です。
3.1. 非対称通信による高効率化
ASA Motion Linkの最大の特徴は、非対称通信にあります。カメラからECUへの「ダウンリンク」には最大16Gbps(将来的にはそれ以上)の超高速帯域を割り当て、逆にECUからカメラへの制御信号(アップリンク)には低速な帯域を使用します。これにより、必要な方向に必要なだけの帯域を効率よく配分し、消費電力と回路規模を最適化しています。
3.2. ケーブル長とロバスト性
また、最大15mの同軸ケーブルまたは10mのSTPケーブルでの伝送をサポートしており、大型SUVやトラックのような車両レイアウトにも柔軟に対応します。TDD技術を採用することで、単一の物理リンク上で双方向通信を実現し、ケーブル本数の削減にも貢献します。
4. ラストワンマイルの変革者「10BASE-T1S」:マルチドロップ接続による低コスト・軽量化の真価
一方、ボディ系や低速センサー系のネットワーク変革を担うのが「10BASE-T1S」です。これは10Mbpsのシングルペア・イーサネット規格ですが、従来のイーサネットとは一線を画す特徴を持っています。
4.1. スイッチ不要のマルチドロップ接続
10BASE-T1Sは、1本のバス配線に複数のノード(ECUやセンサー)を芋づる式に接続する「マルチドロップ接続」をサポートしています。これにより、イーサネットスイッチのポート数を節約し、あたかもCANのようにシンプルな配線形態でイーサネット網をエッジまで拡張できます。これは、ゾーンアーキテクチャにおける「ラストワンマイル」の配線重量削減に劇的な効果をもたらします。
4.2. PLCAによる衝突回避と確定性
バス型トポロジーで懸念されるのがデータの衝突です。10BASE-T1Sでは、PLCA(Physical Layer Collision Avoidance)という機能を実装しています。これは、各ノードに送信権を順番に割り当てることで、物理層レベルで衝突を防ぐ仕組みです。これにより、イーサネットでありながら、遅延時間が予測可能な通信が可能となり、リアルタイム性が求められる制御系への適用も視野に入ります。
5. 「つながる」だけでは不十分:「相互接続性」と「ロバスト性」の保証
ASA Motion Linkや10BASE-T1Sといった新規格の導入は魅力的ですが、エンジニアにとっては新たな課題でもあります。異なるベンダーのチップを組み合わせた際の相互接続性や、車載特有の過酷なノイズ環境下での動作安定性をどう保証するか。ここで、車載イーサネットのコンプライアンステストに特化した、Teledyne LeCroyソリューションの真価が発揮されます。
5.1. QPHYによるコンプライアンステストの自動化
複雑な物理層テストを手動で行うのは、時間がかかる上にヒューマンエラーのリスクがあります。Teledyne LeCroyの「QualiPHY」ソフトウェアは、ASA Motion Linkや10BASE-T1Sのコンプライアンステストを完全に自動化します。オシロスコープと信号発生器を制御し、規格が定める数百項目に及ぶテストケースを自動実行、合否判定レポートまでワンストップで生成します。これにより、検証工数を大幅に削減し、開発サイクルを短縮できます。
6. 12ビット高分解能の衝撃:PAM4信号や微細なノイズを見逃さない検証技術
次世代規格の検証において、測定器の「分解能」はこれまで以上に重要になります。
6.1. PAM4信号の解析に不可欠な「12ビット」
ASA Motion Linkの高速グレードや将来のイーサネット規格では、従来のNRZに加え、PAM4のような多値変調技術が採用されます。PAM4は電圧レベルの間隔が狭く、ノイズマージンが非常に小さいため、従来の8ビットオシロスコープでは信号の品質を正確に評価できません。 Teledyne LeCroyの高帯域幅オシロスコープは、常に12ビットの高分解能を提供します。これは従来の16倍の分解能に相当し、PAM4信号の微細な歪みや、信号に重畳した微小なノイズを鮮明に可視化します。これにより、「動いているように見えるが、実はマージンギリギリ」という潜在的なリスクを排除できます。
6.2. 10BASE-T1S PLCAサイクルの可視化
10BASE-T1Sのデバッグでは、PLCAサイクルが正しく機能しているかの確認が難関です。Teledyne LeCroyのソリューションは、独自のデコード機能により、物理層の波形上に「Beacon」や「Transmit Opportunity」といったPLCA特有のイベントを色分けしてオーバーレイ表示します。これにより、どのノードがいつ送信権を得ているか、遅延が発生していないかを直感的に把握でき、バス効率の最適化を支援します。
7. Teledyne LeCroyと共に築く、失敗しない次世代車載ネットワーク
ASA Motion Linkや10BASE-T1Sといった標準規格を採用することは、将来にわたる拡張性とコスト競争力を手に入れるための最良の選択です。
しかし、新しい技術には常にリスクが伴います。だからこそ、検証パートナー選びが重要です。Teledyne LeCroyは、単なる測定器メーカーではありません。規格策定段階から主要団体(ASA、IEEE、OPEN Alliance)に参画し、規格の深い理解に基づいたソリューションを提供しています。
「つながる」のその先にある「安心して走り続けられる」未来のために。Teledyne LeCroyの12ビット高分解能オシロスコープと自動化ソリューションは、貴社と共に、次世代のネットワーク開発に貢献いたします。よくある質問(Q&A)
Q1:独自規格のSerDesからASA Motion Linkへ移行する際、検証プロセスはどう変わりますか?
A1: 独自規格ではベンダー提供のブラックボックスなツールに頼らざるを得ませんでしたが、ASAへの移行により、オープンな標準仕様に基づいた検証が可能になります。Teledyne LeCroyのQPHY2-ASAのような自動化ソフトウェアを使用することで、送信機の直線性、ドループ、PSD(パワースペクトル密度)、リターンロスなどの必須テスト項目を、規格に準拠した手順で効率的に実施できます。これにより、特定のチップベンダーに依存せず、客観的な品質証明が可能になります。
Q2:10BASE-T1Sのマルチドロップ環境下でのノイズ評価やタイミング検証は難しいですか?
A2: マルチドロップ環境では、反射や各ノード間のタイミング同期(PLCAサイクル)のズレが課題となります。従来のデバッグ手法ではこれらの事象を切り分けるのが困難でした。しかし、Teledyne LeCroyの10BASE-T1S TDMEオプションを使用すれば、Beacon信号の間隔や、各ノードの送信権獲得までのレイテンシを自動計測し、波形上に可視化できます。また、アイダイアグラムを特定のノードIDでフィルタリングして表示できるため、問題のあるノードを迅速に特定することが可能です。
Q3:Teledyne LeCroyのソリューションは、将来の規格アップデートに対応できますか?
A3: はい、可能です。Teledyne LeCroyはASAやIEEE等の標準化団体に深く関与しており、規格の策定段階からテストソリューションの開発を行っています。例えば、WaveMaster 8000HDシリーズは最大65GHzの帯域幅を持ち、現在の車載規格だけでなく、将来のより高速なPCIe 6.0やUSB4 v2.0などのPAM4信号解析にも対応できる十分な性能を備えています。ハードウェアを買い替えることなく、ソフトウェアのアップデートで最新規格に対応できるため、長期的な投資対効果に優れています。