商品基礎情報
★EMCとチョークコイル
製品を量産する際の最終試験段階でEMC試験をしたら規格に通らないので、チョークコイルを追加してひとまず、規格を通したなんて経験をお持ちの方はすくなからずいるのではないでしょうか?基本的に半導体や電流を流す製品を使って、ノイズを0にするということは実質的に不可能です。したがって、いかに発生したノイズを効率よく抑制することが、重要です。そこで、EMC対策のノイズ対策としてポピュラな手法であるチョークコイルについて解説します。
★EMCノイズ対策
EMCノイズには、自身が動くことで発生するEMI(エミッション)ノイズと、周囲から自身が受けるEMS(イミュニティ)ノイズがあります。細かな定義の説明は省きますが、EMC(電磁両立性)=EMI(出すノイズ)+EMS(受けるノイズ)という関係がありますので、EMCノイズ対策というと、製品から出ていくノイズと製品に入ってくるノイズ両方の対策を示すことになります。また、これらのノイズはノイズが伝わる媒体により伝導ノイズ(配線)と放射ノイズ(空間)に分けられます。さらに各々のノイズの対策は、ノイズ源を押さえる対策と発生したノイズを抑制する手法があります。ノイズ源毎の対策については、発生源により変わるのでこの場での説明は省かせて頂きます。一方、発生したノイズを抑制する手法は、そのノイズを伝える媒体で対策が大きく変わります。一般的に、以下のような対策手法が用いられます。
伝導ノイズ:LCフィルターやチョークコイルよる対策
放射ノイズ:シールドによる対策
(左)LCフィルター (右)シールド材
放射ノイズは、空間を伝搬するノイズなので、発生しているノイズを対策するためには、シールド材で発生源を覆い、ノイズが周辺に伝搬しないように対策します。
一方、伝導ノイズは、大きくノーマルモードノイズとコモンモードノイズに分かれるので、各々で有効な対策手法が異なります。
まず、各々のノイズは以下のような特徴があります。
ノーマルモードノイズ:プラスとマイナスの電源ライン間で発生し、通常ノイズ電流は互い違いに流れます
コモンモードノイズ:電源ラインとグランドの間に発生し、両方のラインを同じ方向にノイズ電流が流れます
ノーマルモードノイズには、通常LCフィルターを用いて対策をします。LCフィルターはその名が示し通り、インダクタと容量を使って構成するフィルターです。
各々のデバイスは以下のような特性を持ったデバイスです。
- インダクタ(L)
- 低周波(信号): スルスル通します
- 高周波(ノイズ): 通りにくくします
- 仕組み: 電流の変化を嫌う性質があるため、急激に変化する高周波(ノイズ)に対して大きな抵抗として働きます
- 容量(C)
- 低周波(信号): 通しません(絶縁体として働く)
- 高周波(ノイズ): 非常に通りやすくなります
- 仕組み: 高速な変化には反応しやすいため、ノイズ成分だけを地面(GND)に逃がす「逃げ道」として機能します
- 低周波(信号): 通しません(絶縁体として働く)
このような特性を組み合わせることで、不意に発生する回路の異常電流の伝導を防ぎ、ノイズとして発生させないようにすることができるためです。LCフィルターには、「L型」「T型」「π型」等いろいろな種類がありますので、それについてはまた別の機会に説明致します。
次に、コモンモードノイズの対策について説明します。このノイズは電源ラインとグランドラインの2本の線に対して「同じ向き(平行)」に流れるノイズです。このノイズが発生するとケーブル全体がアンテナの役割になり周囲に電磁波を撒き散らすことになり、EMIの主たる原因になる非常に厄介なノイズです。このノイズを食い止めるために使われるのがコモンモードチョークコイルです。このコイル構造は非常にシンプルで、1つの磁性体コア(リング状の鉄芯など)に、2つのコイルを同じ向きに巻いたものです。なぜ、このチョークコイルを用いるとコモンモード対策になるのでしょうか?それは、コイルの変化を嫌う特性と2本のコイルに流れる電流の向きによるものです。通常、定量的な電流がコイルに流れていても、コイルの性質上特になにもおきません。この状態から、2本のコイルに逆向きの電流(信号)が流れた状態を考えます。この状態は電流が流れることで磁束が発生しますが、逆向きの磁束が発生するので、磁束が打ち消し合いコイル素子としては磁束の変化が発生していない(インピーダンス変化がない)に等しい状態となります。
図 ノーマルモード電流が流れた時
一方、2本のコイルに同じ向きの電流(信号)が流れると、2本のコイルに流れる電流によって同じ向きの磁束が発生します。コイルの特性上変化を嫌うので、磁束が増えることを妨げるように実効インピーダンスが大きくなり、ノイズ電流に対して大きな抵抗成分となります。これによりノイズにより発生する電流を妨げる効果が発生します。これが、コモンモードチョークコイルがノイズ対策になる理由です。
図 コモンモード電流が流れたとき
★コモンモードチョークコイルの種類
コモンモードチョークコイルは、使用する場所や扱う「電流の大きさ」「周波数」によって、いくつかの代表的な形状に分かれます。設計の現場でよく目にする代表的なものを紹介します。
1. チップ型(積層・巻線)
スマートフォンやPCなどのデジタル回路で最も多用される、非常に小さなタイプです。
特徴: 表面実装(SMD)が可能で、ミリ単位のサイズ。
用途: USB、HDMI、LANなどの高速信号ライン。
ポイント: 通信速度(周波数)を落とさずにノイズだけを消すため、高い精度が求められます。
2. トロイダル型(リング型)
ドーナツ状のフェライトコアに電線を巻き付けた、最も「コイルらしい」形状のものです。
特徴: 磁気漏れが少なく、高いインピーダンス(阻止能力)を得やすい。
用途: 電源アダプタのAC入力部や、大型の産業機器。
ポイント: 手巻きや自動巻線機で作られ、比較的大きな電流を流す場所に使われます。
3. リード型(アキシャル・ラジアル)
抵抗やコンデンサのように、基板の穴に通してハンダ付けするタイプです。
特徴: 円筒形やボックス型をしており、基板への実装強度が強い。
用途: 家電製品や電源基板。
ポイント: コアがケースに入っているもの(樹脂封入)も多く、絶縁性が確保されています。
4. ケーブル取付型(フェライトコア)
回路設計の後に「ノイズが収まらない!」という時の救世主として使われるタイプです。
特徴: パチンとケーブルに挟むだけの「クランプコア(分割コア)」が代表的。
用途: PCのモニターケーブル、ACアダプタの途中にある「謎のコブ」。
ポイント: 基板を修正せずに後付けで対策できるため、デバッグ段階で重宝されます。
★TE社のコモンモードチョークコイルの種類
では、具体的なTE社のコモンモードチョークコイルをご説明します。
☆RBシリーズ:高性能フィルタリング用の電流補償チョークコイル
定格電流は 16 A ~ 50 A で、最大 600 VAC または 1000 VDC の電圧に対応します。2 線および 3 線構成と水平および垂直の PCB 取り付けオプションが用意されており、飽和特性と熱安定性に優れた堅牢な設計を特長とします。また、オープンフレーム構造なので、強制対流と自然対流の両方の冷却方式をサポートします。
図 RBシリーズのコイル
想定アプリケーション:大電流・高電圧の産業機器
代表的な型番:RB6132-36-0M4、RB8522-36-1M5
☆EV/EHシリーズ:コンパクトなコモンモード抑制チョークコイル
定格電流が最大 5 A の小型のコモンモード チョークで、4 つのサイズが用意されています。また、最適な EMC 性能が得られるように、低い漏洩磁束で広帯域減衰を提供します。
図 EV/EHシリーズのコイル
想定アプリケーション:基板スペースが限られた小型機器
代表的な型番:EV28-5.0-02-1M1、EV28-3.0-02-5M0
☆RT シリーズ: 要求の厳しい用途向けの高性能チョークコイル
6 〜 85 A の定格電流をサポートし、最大 600 VAC および VDC で動作します。RBシリーズと同様に水平および垂直方向の取り付けオプションがあり、強制対流と自然対流のどちらの方法でも冷却可能です。また、フェライト コア技術を使用して設計され、ナノ結晶コアによって強化されたこのシリーズは、10 kHz でも高い性能を発揮します。
図 RTシリーズのコイル
想定アプリケーション:太陽光発電インバータ、急速充電器、医療機器
代表的な型番:RT8121-50-8M6, RT8522-6-10M0
☆RNシリーズ:高い飽和耐性と優れた熱的特性チョーク
定格電流が 0.3 〜 10 A で、DC から 400 Hz の範囲の周波数をサポートします(共振周波数範囲:100 kHz ~ 3 MHz)。デュアルチョーク構成と複数の PCB 取り付けオプションが用意されているため柔軟に組み込むことができ、コンパクトな電子設計に適しています。
図 RNシリーズのコイル
想定アプリケーション:スイッチング電源、EMI入力フィルタ
代表的な型番:RN242-6-02-1M8, RN102-0.3-02-22M
☆RV シリーズ:要求の厳しい用途向けの高性能チョークコイル
高性能ナノ結晶コア材料を使用して設計された電流補償チョークコイルであり、EMC フィルタリングに優れています。AC と DC のどちらの用途にも適しており、低い漏洩磁束、優れた巻線絶縁、幅広いインダクタンス定格を備えています。
図 RVシリーズのコイル
想定アプリケーション:電気自動車充電
☆EDシリーズ:LEDドライバ用の小型電流補償チョークコイル
LED ドライバ回路の効率を向上させるため、X コンデンサへの依存度を低減し、力率を高め、無効電力を最小限に抑えたモデルです。このシリーズは、強力なコモンモードインダクタンスと差動モードインダクタンスを 1 つのコンパクトな部品に統合したもので、PCB 上の占有スペースとコストを節約しながらデュアルステージ フィルタリングを可能にします。これにより必要な部品点数が少なくなるため、レイアウトの簡素化、コスト削減、信頼性向上などのメリットが得られます。
図 EDシリーズのコイル
代表的な型番:ED100-2-3M0, ED101-0.5-15M
想定アプリケーション:LEDドライバ
☆RCシリーズ:高性能フィルタリング用の電流補償チョークコイル
RCシリーズは、RBシリーズ進化版として開発された製品です。低背(ロープロファイル)設計を特長としおり、高度な巻き線技術やコア材の選定により、RBシリーズよりも広い周波数範囲で高いインピーダンスを実現しています。
図 RCシリーズのコイル
想定アプリケーション:性能と薄さ(低背)を両立したい最新設計
代表的な型番:RC212-0.5-10M, RC212-0.25-47M
☆RE100シリーズ:自動フィーダーに対応したSMDチョークコイル
250V用途向けに設計されています。グリッド側に配置され、最大1.5kWの電力定格を持つシステムにおいて、電磁干渉(EMI)を効果的に抑制します。
図 REシリーズのコイル
想定アプリケーション:パワーエレクトロニクス,スイッチング電源,EMCフィルタ
代表的な型番: RE100-1-10M, RE100-4.6-M47
☆RR1000シリーズ:EMI を確実に低減する積層可能チョーク
高度なナノ結晶コア材料を使用して設計された EMC/RFI チョーク RR1000 シリーズは、コモンモード EMI を効果的に低減します。水平および垂直の取り付けオプションが用意されており、積層もできるため、高性能電子システムに省スペースで組み込むことができます。
図 RRシリーズのコイル
想定アプリケーション: モーター保護,大径ケーブル向けコモンモードEMI対策,2線式AC/DC,3線/4線式AC
代表的な型番:RR1000-10, RR1000-60
表 TE社チョークコイル一覧表
|
シリーズ |
主な特徴・強み |
想定アプリケーション |
|
RB |
大電流(16~50A)、堅牢設計 |
大電流・高電圧の産業機器 |
|
EV/EH |
コンパクト、広帯域減衰 |
基板スペースの限られた小型機器 |
|
RT |
高性能、ナノ結晶コア採用(10kHz~) |
太陽光インバータ、急速充電器、医療機器 |
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RN |
高い飽和耐性、優れた熱特性 |
スイッチング電源、EMI入力フィルタ |
|
RV |
低漏洩磁束、優れた絶縁 |
電気自動車(EV)充電 |
|
ED |
差動・コモンモードを1つに統合 |
LEDドライバ |
|
RC |
RBの進化版、低背(薄型)設計 |
性能と薄さを両立したい最新設計 |
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RE100 |
SMDタイプ、自動実装対応 |
パワーエレクトロニクス、電源 |
|
RR1000 |
積層可能、大径ケーブル対応 |
モーター保護、大径ケーブル対策 |
★部品選定のポイント
TE Connectivity(TE社)のコモンモードチョークコイルには、上記のように、多様なラインアップがあります。これらから最適な部品を選ぶ際の代表的な選定基準は以下の通りです。
1. 電気的特性(性能の根幹)
まず、回路が正常に動作し、かつノイズを消せるかどうかを確認します。
- 定格電流 Irated
回路に流れる最大電流以上のものを選びます。RCシリーズのような最新の低背モデルか、RBシリーズのような実績ある大電流モデル(最大50A)か - コモンモード・インピーダンス:
対策したいノイズの周波数帯で、十分な「壁」になれるかを確認します。データシートの「インピーダンス vs 周波数特性グラフ」を見て、ノイズのピーク周波数と一致する製品を選びます。 - 定格電圧と絶縁性能:
AC100V〜240Vの商用電源で使用する場合、安全規格(ULやVDEなど)に適合し、十分な耐電圧(絶縁距離)があることが必須です。
2. 物理的制約(実装の可否)
基板上のどこに、どう配置するかという物理的な条件です。
- 実装方式(スルーホール vs 表面実装):
TEの電源用シリーズはスルーホール型が多いですが、基板の製造工程に合わせます。 - 形状と向き(垂直型 vs 水平型):
- 垂直型(Vertical / RBシリーズなど): 基板の占有面積を小さくしたい場合に有利ですが、高さが出ます。
- 水平型(Horizontal / RCシリーズなど): 高さを抑えたい(低背設計)場合に有利ですが、基板上の面積を広く取ります。
- 足ピッチ(リード間隔):
既存の基板レイアウトがある場合、ピンの間隔が合うかどうかは物理的な絶対条件です。
3. 熱と環境(信頼性)
コイルは熱を持つ部品であるため、環境条件も重要です。
- 直流抵抗:RDC
コイルの巻線が持つ抵抗値です。ここが大きすぎると、電流を流した際に電圧降下や自己発熱(ジュール熱)の原因になります。大電流を扱う場合は、なるべくRDCが低いものを選定します。 - 動作温度範囲:
産業機器や車載環境など、高温になる場所で使用する場合、周囲温度による定格電流の軽減(ディレーティング)を考慮する必要があります。
4. 磁気特性(漏れ磁束の影響)
- 漏れインダクタンス:
コモンモード用であっても、わずかにノーマルモード(信号成分)に影響を与える成分があります。これが大きすぎると、電源の波形に悪影響を及ぼすことがありますが、逆にこれを利用してノーマルモードノイズも同時に除去する設計手法もあります。
★まとめ
EMIノイズは非常にやっかいではありますが、対策手段はそれほど多いわけではありません。かといって、いたずらにコイルを製品に入れるとコストアップにつながります。事前に正しい知識と部品選定の仕方を理解することで、製品に最適な対策方法を選択できるようになります。ただ、TE社にもチョークコイルは数多くのラインアップがあります。選定の際にはぜひ弊社にご相談いただければ製品に最適なデバイスを選定します。