熱だけを通すThermal Jumper
今回はそんな放熱対策に対して、新しいアプローチを可能としたVISHAY INTERTECHNOLOGY, INC.(以下、VISHAY社)のThermal Jumperについて、概要と活用方法例について説明します。
Thermal Jumperとは?
Thermal Jumperの概要
Thermal JumperとはVISHAY社が 提供するThermaWick™を指します。このデバイスは電気的に絶縁した状態で、熱伝導経路を確保できます。そのため、Thermal Jumperを用いれば、従来の基板設計では行えなかった放熱対策を行うことができます。
Thermal Jumperの構造
Thermal Jumperはスズ/鉛(SnPb)および鉛(Pb)フリーの端子を持ち、窒化アルミニウム基板で構築された表面実装品(SMD)です。ヒートシンクと同様の素材を用いて高い熱伝導率を確保しつつ、電気絶縁性と低容量性を実現しています。
なぜ放熱対策が必要なのか?
半導体デバイスは温度上昇により様々な問題が生じる
半導体デバイスは電気エネルギーを消費して動作し、消費した電気エネルギーは熱になります。
デバイスによっては大きな電力を消費し、比例して発熱量も多くなるため、放熱対策が必要です。もし高温状態で半導体デバイスを使用した場合、下記のような問題が生じる可能性があります。
上記のように半導体デバイスは熱によって著しく性能が劣化する可能性があり、使用方法によってはデバイスが損傷する可能性もあります。そのため、半導体デバイスを使用する際には予め発熱量を見積り、高温状態になる場合には放熱対策をする必要があります。
一般的な放熱対策
一般的な放熱対策に次の2種類の方法があります。
ヒートシンクを取り付ける場合
放熱対策の1つとして、ヒートシンクを半導体デバイスに取り付ける方法があります。ヒートシンクは銅やアルミニウムで作られているものが多く、非常に熱伝導率が良いのが特長です。
しかし、ヒートシンクは外気に熱を放出させやすくするために、表面積が広くなるような形状をしています。そのためサイズ・コストが高く、アプリケーションによってはそもそも実装ができない場合があります。
基板銅箔面積が広い層に熱を逃がす場合
現在、最も主流の放熱対策です。銅箔面積が広い層(GNDプレーン)に熱を拡散し、基板表面から放熱する方法です。
半導体デバイスの熱が高くなる原因として、放熱経路が確保できずに温度が上昇し続けてしまう点が挙げられます。そのため銅箔の広いGNDプレーンへの熱経路を確保することで、発生した熱を拡散し、半導体デバイスの温度上昇を抑える方法があります。しかし、この放熱対策は電位がGNDに固定される点に注意が必要です。一般的な基板はFR-4と呼ばれる材質ですが、こちらは熱伝導率が低いため、ほとんど熱を通しません。そのため、GNDプレーンへ効率良く熱を通すためにはビアなどで放熱経路を確保する必要があります。
放熱対策の課題
一般的な放熱対策は、以下の理由で放熱経路を確保できない場合があります。
使用できない構成は、同期式の電源回路を例に説明します。
同期式の電源回路は、FETを2つ使用します。一般的なパッケージのFETは放熱パッドがドレイン端子を兼ねています。そのため、同期式の電源回路で使用した場合、下側FETのドレイン端子はSWノードとなり、GNDプレーンに接続できないため、放熱経路を確保できません。
放熱特性を良くするためにSWノードの銅箔範囲を広くする方法もありますが、SWノードの銅箔を広くすると、ノイズを放射しやすくなるため、EMI特性が悪くなります。そのため、一般的にSWノードの銅箔は可能な限り小さくすることが推奨されます。このように、同期式の電源回路ではFET部が高い温度になっても、放熱対策ができない場合があります。
Thermal Jumperによる放熱対策
電気的に絶縁された特性を活用
Thermal Jumperは電気的に絶縁されているため、電位の関係上接続できない箇所でも、熱のみを逃がす経路を確保できます。
先ほどの同期式の電源回路を例にしますと、SWノードはGNDプレーンに接続できませんでしたが、Thermal Jumperを用いることで、電位はそのままで熱だけをGNDプレーンに接続できます。また、GNDプレーンだけでなく、Vccや他の電位にも接続が可能です。
このように、Thermal Jumperは電位による制限を受けないため、今までできなかった放熱経路を確保できます。
Thermal Jumper によるデバイスの温度
実際に放熱経路を確保できず、発熱してしまったデバイスに対してThermal Jumperを使用して別の銅箔に熱を逃がす経路を確保した場合の温度比較をしてみます。
下記は電流を計測するためのチップ抵抗の温度を測定したものです。
Thermal Jumperを使用しなかった場合、約149.8℃まで上昇していたチップ抵抗が、Thermal Jumperを実装することで、95.5℃となり、約54.3℃減少したのを確認しました。
Thermal Jumperを用いれば高い放熱効果が得られるため、例えば今まで許容温度によってサイズやコストアップを余儀なくされていた部分に対してもデバイス選定の幅を広げることができるようになります。
VISHAY社が提供するThermal Jumper
THJPシリーズ
VISHAY社のTHJPシリーズでは6種類のサイズをラインナップとして用意しています。
一般的な抵抗やコンデンサと同じようなSMDタイプですので、簡単に実装することができます。
まとめ
担当エンジニアからの一言
今回はThermal Jumperの概要と、活用方法例について説明させていただきました。
Thermal Jumperの電気的に絶縁されつつ熱のみを通すという性質により、今まで基板レイアウトのみで行っていた放熱対策では、やれなかった新しい放熱対策を行うことができるようになります。
今回挙げさせていただいた使用例はあくまで一例ですので、これ以外の使用方法も可能な製品ですので、放熱対策で熱だけを通したいという用途があった場合には、VISHAY社のTHJPシリーズをご検討ください。