はじめてのオーディオアンプ Part 3


このWeb記事では、はじめてオーディオデバイスを使われる方に、オーディオデバイスの基本であるオーディオアンプ製品を中心に、
1.オーディオアンプの基礎
2.オーディオアンプの種類
3.オーディオアンプの主要特性
について説明していきます。
Part3では「3.オーディオアンプの主要特性」と「その他のオーディオデバイス」を説明します。
3.オーディオアンプの主要特性
Audio AMPを選定、設計する際にはこれまで説明してきました項目以外に以下の特性の2項目が必ずポイントとなってきます。
3-1.THD+N(Total Harmonic Distortion + Noise)
3-2.SNR(Signal to Noise Ratio)
これらの特性は特にオーディオ・デバイスでは重要視される項目で、最終的には“音質”に影響を与えるものです。
この特性以外にも熱特性等他にもありますが、ここではオーディオアンプの導入編として上記の2項目に絞り、簡単に説明します。
3-1.THD+N(Total Harmonic Distortion + Noise)
Audio AMPの歪み(ノイズ含む)を測定する指数としてTHD+Nがあります。
THD + Nは、基本信号高調波とシステムRMSノイズ電圧の和と基本信号のRMS電圧との比として定義されます。
全高調波歪&ノイズの算出は下式で表されます。
右図は、基本波、高調波成分およびノイズ成分を測定(FFT)したものです。
高調波が基本波の整数倍であるのに対しノイズは基本波に関係しないスプリアスとして現れる外来ノイズ源から来ることがあります。
それ以外のノイズフロアはアンプの固有ノイズと抵抗の熱ノイズに起因します。
3-2.SNR(Signal to Noise Ratio)
Audio AMPにおける信号対ノイズ比(SNR)は最大出力信号(Vrms out)とゼロ出力でのノイズ・レベル(Vrms noise)の比です。
データシートでは以下のような記載になります。
重要なポイントは Test ConditionsとParameterです。TYP 113dBはこの条件でのスペックになります。
この条件で“A-weighted”の記載があります。
A-weightedとは聴感補正フィルタのひとつで右図の青色の特性を持っています。
聴感補正フィルタは人が感知できる特性に近いことから使用されています。
国際規格のIEC61672及びそれを基に策定された日本の工業会規格JIS1509の規定でもA特性を指定していますので通常はA特性を使用します。
またMaximum output at THD+N < 1%は無歪最大出力値になります。
SNRは無音時のノイズレベルを見ますのでSNRが良くないと聴感上そのノイズ成分が影響を与えることで明瞭感が損なわれることになります。
まずはデータシートのスペックが適正かどうかを確認ください。
その他のオーディオデバイス
オーディオ用ADコンバータ
オーディオ用ADコンバータ(ADC)は、アナログ信号である音声をデジタル信号に変換する役割を担っています。デジタル化された音声データは、ノイズの影響を受けにくく、コンピュータやその他のデジタル機器で処理・保存・再生することができます。
- オーディオ用ADコンバータの特徴
- サンプリングレート: 可聴域をカバーするサンプリングレートに対応しています。 (44.1kHz, 48kHz, 96kHzなど)
- ビット深度: 広いダイナミックレンジと高音質を実現するために、高いビット深度に対応しています。 (16bit, 24bit, 32bitなど)
- THD+N(歪率): 音の歪みを最小限に抑えるように設計されています。(-85dB、-90dB、-96dBなど)
- SNR(S/N比): ノイズを抑えてクリアな音質を実現するために、高いS/N比 (信号対雑音比) を持っています。(100dB、110dB、120dBなど)
- チャンネル数:モノラル(1ch)、ステレオ(2ch)の他にマルチチャネル(4ch、8ch)に対応した製品もあります。
- 機能: ローカットフィルター、位相反転機能、ダイレクトモニタリングなど、音声処理に特化した機能が搭載されている場合があります。
このような特徴をもったオーディオ用ADコンバータは、ΔΣ型のアーキテクチャを採用しています。
オーディオ用DAコンバータ
オーディオ用DAコンバータ(DAC)とは、デジタルオーディオ信号をアナログ信号に変換し、ヘッドホンやスピーカーで聴けるようにするデバイスのことです。高性能なDACを使うことで、よりクリアで解像度の高い音を楽しむことができます。
- オーディオ用DAコンバータの特徴
- サンプリングレート: 可聴域をカバーするサンプリングレートに対応しています。 (44.1kHz, 48kHz, 96kHzなど)
- ビット深度: 広いダイナミックレンジと高音質を実現するために、高いビット深度に対応しています。 (16bit, 24bit)
- THD+N(歪率): 音の歪みを最小限に抑えるように設計されています。(-86dB、-96dB、-110dBなど)
- SNR(S/N比): ノイズを抑えてクリアな音質を実現するために、高いS/N比 (信号対雑音比) を持っています。(95dB、110dB、120dBなど)
- チャンネル数:モノラル(1ch)、ステレオ(2ch)の他にマルチチャネル(8ch、16ch)に対応した製品もあります。
このような特徴をもったオーディオ用ADコンバータは、ΔΣ型、R-2R型のアーキテクチャを採用しています。
オーディオ用コーデック
オーディオ用コーデック(CODEC)はアナログ音声をデジタル信号としてエンコードし、デジタル信号をアナログ音声にデコードするデバイスです。つまり、同じクロック信号で動作するADコンバータ(ADC)とDAコンバータ(DAC)の両方が含まれるデバイスで、外部のオーディオDSPやSoCとデジタルオーディオ信号をやり取りできます。
- オーディオ用コーデックの特徴
- A/D変換とD/A変換: 搭載チャンネル数、マイク入力、ラインインとラインアウト、ヘッドホン出力とスピーカ出力など様々です。
- 多様なインターフェイス:デジタルオーディオデータは、I2S、TDM、PCMなどの様々なインターフェイスで伝送されます。
- 多様な機能: IC内部にオーディオDSP機能を持ったコーデックもあり、各種フィルタ処理やボリューム処理、ALCやDRC機能を実現します。
- オーディオ用コーデックICの選び方
- 音質: 音質を重視する場合は、高S/N比、低歪み、広ダイナミックレンジの製品を選びましょう。
- インターフェイス: 外部デバイスとの接続に必要なインターフェイスに対応しているか確認しましょう。
- サンプルレートとビット深度: 必要なサンプルレートとビット深度に対応しているか確認しましょう。
- 消費電力: ポータブル機器で使用する場合は、低消費電力の製品を選びましょう。
- パッケージ: 機器に搭載できるサイズのパッケージを選びましょう。
オーディオアンプを設計する上でのポイント
オーディオアンプを設計する際、これまで解説してきました内容を理解しておくことがMUSTです。その上で、求める仕様に適したオーディオアンプを選ぶ必要があります。例えば次の仕様で考えた場合は、どのオーディオアンプが良いでしょうか?
1.電源電圧:12V
2.Analog入力
3.音声出力:20Wx2
4.負荷抵抗値:8Ω
5.高さが制限されている(ヒートシンクは取り付けられない)
この条件から適しているAudio AMPは
Analog入力でStereo出力のClass-D AMP
になります。
他にも仕様条件によって選択肢が増えると思いますので、求める仕様項目を整理して適切なオーディオアンプを選択いただくことでスムーズな設計が可能になります。
まとめ
3 回にわたり、オーディオアンプの基礎から特性について説明しました。
この内容をもとにオーディオ機器の製品開発の際に、オーディオデバイスを選定する参考にしてください。