発振器製造における周波数カウンターの活用について
発振器の製造やテストにおいて、周波数カウンターは重要な役割を担っています。本記事では、Pendulum社の高精度周波数カウンター「CNT-104S」を用いた効果的な測定方法について、研究開発・量産・品質保証といった用途別に詳しく解説します。CNT-104Sの特長である高分解能と多チャンネル機能により、従来の測定器を超える効率的な測定が可能です。発振器の温度安定性や短期安定性の評価、周波数の校正など、CNT-104Sが発振器製造における最適なソリューションである理由をご紹介します。
背景
発振器の開発において、時刻・周波数の測定機器は多くの目的で使用されます。
- Research&Development:研究開発
・発振器の温度安定性
・クロックモジュールのWander測定
・周波数基準クロックの位相比較 - Production:量産
・周波数値の確認・調整
・発振器の長期安定性(エージング)
・発振器の短期安定性(アラン分散) - Quality Assurance:品質保証
・周波数のスペック比較
・機器の立ち上げ検査
・周波数の校正(キャリブレーション)
Pendulum/CNT-104Sを使用する事で、上記の項目を1台で測定することが可能です。
図1:Pendulum / Multi-Channel Frequency Analyzer / CNT-104S
CNT-104Sの主な特長
- 1ボックスの4チャンネル同時測定
- 7psの時間分解能による正確な位相比較
- 12 ~ 13 桁/秒の分解能による高速周波数測定
- 最大 20M のサンプル結果/秒を内部メモリに保存
- 周波数クロックのTIE測定機能
- 変調ドメイン解析機能
- Webサーバーインターフェイスを介したリモート制御機能
従来の周波数カウンターに比べ、「チャンネル数・分解能」の測定機能が大きく拡張されております。
CNT-104Sの主なユースケース
- Research&Development:研究開発
研究開発では、変調ドメイン表示により、時刻 vs 周波数の高分解能測定が可能になります。
発振器の立ち上げ、短期安定性(ADEV)の標準表示、クロック PLL 設計の解析、VCOのセトリング時間、TIE、周波数グリッチの検査等に使用可能です。 - Production:量産
生産ラインにおいて、4つの並列チャネル、高い分解能と測定速度により、周波数測定における最も効率的なコストパフォーマンスを実現します。周波数カウンター(4台)を本ユニットで置き換えることが可能です。 - Quality Assurance:品質保証
周品質保証では、時刻・周波数パラメータの検証に使用できます。
数日、数週間、数ヵ月にわたる経年劣化、温度変化による周波数の変動、TIE(タイムインターバルエラー)や、短期安定性の検証 (ADEV)を検証できます。
また、7psの分解能により、周波数の正確な位相比較が可能になります。
信号発生器やスペクトラムアナライザなどの周波数タイムベースの校正、またタイムインターバル・位相の理想的な校正器となります。
ここからは、CNT-104Sが上記ユースケースに対し最適である利用を解説させていただきます。
生産ラインに最適な周波数テストソリューション
“CNT-104S“は、従来の周波数カウンター “4台” を置き換えることが可能です。
図2:周波数カウンター4台分の機能を持つCNT-104S
業界最高峰の“高分解能”
OCXO などの高精度発振器の場合、テストシステムにおいて、8~9 桁 までの周波数を検証する必要があります。
CNT-104Sの高分解能により、1msのゲートタイムで、9 桁の測定結果を得ることが可能になります。
半自動生産システム
今までは多くのDUTを測定する際、入力チャンネルの切り替え等に、多くの時間を費やす必要がありました。
これらのアプリケーションにおいて、CNT-104Sでは、4つの同時入力 (A、B、D、E) が可能になりました。
グラフィカルなディスプレイ表示をインターフェースとして、独自の利点を提供します。
図3:CNT-104Sのグラフィカルユーザーインターフェース
以下からは、実際に発振器における「起動測定」の方法を記載します。
発振器の起動測定
発振器の製造では、発振器の起動時の性能を検証することが重要となります。
起動後にどれくらいの時間が経過しても、発振器は「データシート」通りの周波数精度を実現する必要があります。
CNT-104Sは、高分解能とギャップフリーの測定機能を備えており、測定間のデッドタイムを回避することが可能です。
図4:周波数カウンター、発振器、電源の接続図
図4に示すように、対象の発振器 (Oscillator under test) を CNT-104Sと電源に接続します。
分解能に合わせて、適切なゲートタイム(サンプル間隔)を設定します。
(例) CNT-104Sで「0.1 ppm 分解能/サンプル」の場合は ”1µs”
サンプル数でサンプルサイズを設定します (周波数データ取得の合計時間を定義します)。(例)10000 サンプルと 1µsの測定では、合計測定時間は 1µs × 10000 = 10 ms
※(+ アーミング = 電源投入から最初のサイクルまでの”遅延”となります。)
発振器への供給電圧をオンにし、測定を開始しデータを取得します。
図5:タイムスタンプの取得定義
タイムスタンプは、設定されたサンプル間隔 = ゲートタイムで定義された間隔で取得されます。
実際の起動テストの例を以下に示します。
本DUT は「10 MHz TCXO」で、電源投入後 0.75 msから発振が始まり、約 1.1ms後に “10 MHz” の周波数に達します。
※本グラフは、発信開始 “1.4 ms” 間の測定を拡大したものです。
図6: TCXO 10 MHzの測定画面 (0s ~ 1.4ms)
GUI内の、ZOOM、PANボタンからカーソルビューを切り替えることができます。
グラフにカーソルを持っていくことで、正確な時刻と周波数値を読み取ることができます。
ZOOM、PAN機能を使用して、1.1 ms以上の周波数のみを表示し、10 MHzのみの表示に変更することも可能です。
グラフにMask値(CNT-104SのLimit機能)を挿入すると、周波数値の合否判定を簡単に行うことが可能です。
テレコムのクロックモジュール向けWander測定
ネットワーク同期網にて使用される発振器には、Wanderパラメータ(MTIE・TDEV) の追加仕様を求められる場合があります。
Wanderパラメータは、基本的にはTIE 測定 (TIE = タイムインターバルエラー) の後に処理された結果となります。
図7:TIE (タイムインターバルエラー)の定義
図8:ゼロデットタイムによる連続タイムスタンプ
TIEとは、基準クロックと比較した、測定対象のクロック信号との時間誤差となります。
初期値はTIE=0で、その後のTIEは最初のサンプルに対する累積位相差として計算されます。
CNT-104S は、ギャップフリー測定の原則により、TIE 測定機能が組み込まれています。
図9の例は、4つのGPS DO (10 MHz) の同時測定を示しています。
図9:4つのGPS DO (10 MHz) の同時測定例
同時測定で取得したTIE ファイルをスプレッドシートプログラムにエクスポートできます。
- MTIE・TDEV の計算には Excel、MATLAB、Stable32を利用します。
- ファイルのエクスポート形式はCSVです。
4つのCSV ファイルは、MTIE・TDEV 計算のためにMS Excelで直接読み取ることが可能です。
短期安定度テスト (ADEV vs t)
発振器の短期安定性は、測定時間 (t) に対するアラン偏差 (ADEV) として測定されます。
正確な ADEV 計算には、デッドタイムゼロの測定機能が必要になります。
ADEVは、2つ以上の周波数サンプル誤差の RMS (二乗平均平方根) です。
τ秒間の連続サンプル の周波数は次のように計算されます。
CNT-104Sは、内蔵の式で、短期安定性 (σyまたはADEV)を自動計算します。
図10は、測定した“10 MHz OCXO”の周波数サンプルをMS Excel で処理し、グラフ表示した例です。
※データは標準の式に従って計算されています。
ADEV は、選択したサンプル間隔に対して計算され、表示されます。
1 つの測定セッションのみ、同時測定した4 つの周波数やTIE ファイルを MS Excel、MATLAB、Stable32 にエクスポートし、ADEV 対 t をグラフ計算することが可能です。
図10:ADEV 対 t のグラフ