DTS計測器と衝突試験ダミーの進化 ~衝突試験ダミーとは~
衝突試験ダミー、正式にはATD: Anthropomorphic Test Devicesは、私たちの安全を守るために多大な貢献をしています。彼らの歴史と進化、そして多様な分野での活用について詳しく見ていきましょう。
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目次
●まとめ
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衝突試験ダミーの歴史
衝突試験ダミーの歴史は、1940年代後半にさかのぼります。最初の衝突試験ダミーは、米空軍のJ.P.スタップ少佐が飛行機の急減速の影響を研究するために考案しました。
1949年:「シエラ・サム」誕生
最初のダミーであるシエラ・サムは、パイロットの石膏型を基に作られ、胴体や頭部に計測機器を内蔵していました。当初は航空機の安全性向上が目的でした。
1960年代:自動車業界への導入
シエラ・サムの成功を受けて、自動車業界でもダミーの活用が進みました。1966年にはアメリカ議会が国家交通・自動車安全法を制定し、安全基準を確立しました。
1970年代:ハイブリッドダミーの開発
1971年、ゼネラルモーターズが「ハイブリッド1」を開発。このダミーはシエラ・サムと新たな技術を組み合わせたもので、以降の進化の基礎となりました。
多様なダミーの必要性
当初の衝突試験ダミーは、平均的な成人男性のサイズを基に設計されていました。しかし、女性や子供のリスク評価が十分に行われないという課題がありました。
1980年代:女性用ダミーの開発
小柄な女性の体型を模したダミーが登場しましたが、当初は単純に男性用ダミーを縮小したものにすぎませんでした。
現在:多様な体型への対応
今日では、子供や高齢者、肥満体型を模したダミーが開発され、より包括的な安全性評価が可能となっています。
最新の衝突試験ダミー
技術の進化に伴い、現代のダミーはより精密で高度なデータ収集を実現しています。その代表例がTHORとWIAManです。
高度なデータ収集を可能にする「THOR」
**THOR(Test device for Human Occupant Restraint)**は、最新の前面衝突試験用ダミーで、従来のダミーと比較してよりリアルな人間の動きを再現します。このダミーは、次世代の車両安全試験基準に対応するために設計されています。
- 頭部と首のリアルな動き:THORは、頭部と首の動きを忠実に再現し、衝突時の力の伝達を詳細に測定します。
- 内部センサー技術:DTS製のA64C加速度計やARS角速度センサーを搭載し、6自由度の動きを高精度に計測可能です。
- 多方向の衝突評価:前面だけでなく、側面や斜め衝突にも対応可能で、より多様な事故シナリオを再現します。
- 胸部構造の改良:エアバッグやシートベルトとの相互作用をリアルに再現し、車両設計の安全性を向上させます。
軍事向けダミー「WIAMan」
**WIAMan(Warrior Injury Assessment Manikin)**は、戦場での兵士の安全性を研究するために米陸軍が開発したダミーです。
- 垂直荷重への対応:地雷やIED(即席爆発装置)の爆発時に発生する垂直方向の衝撃を解析するために設計されています。
- 精密なセンサー配置:骨や関節にかかる力を詳細に記録し、防護装備や車両構造の改良に寄与します。
- 実戦環境での試験:戦場で想定される状況下でテストを行い、兵士の安全性を向上させるためのデータを収集します。
自動車業界以外での活用
衝突試験ダミーは、自動車業界以外でもさまざまな用途で使用されています。
- 航空宇宙:スペースXのクルードラゴンカプセルでは、ハイブリッドIIIマネキン「リプリー」が国際宇宙ステーションへのミッションで使用されました。
- 軍事:WIAManを用いて兵士の防護性能を評価。
- 災害シミュレーション:地震や爆発事故などのシナリオで安全性を検証。
まとめ
衝突試験ダミー(ATD)は1940年代に航空機の安全研究用として開発され、その後、自動車業界に導入されました。現在では、女性・子供・高齢者・肥満体型など多様なモデルが開発され、より精密な安全評価が可能になっています。
最新モデルには、THOR(リアルな衝突再現と高度なデータ収集)やWIAMan(軍事用衝撃解析ダミー)があり、自動車以外にも航空宇宙・軍事・災害シミュレーションなど幅広く活用されています。今後も技術革新が進み、安全性向上に貢献することが期待されています。