商品基礎情報
製品概要
Wilcoxon Sensing Technologies社が提供するH23シリーズハイドロフォンは、小型、多用途、自己増幅型の水中聴音機です。このシリーズの最大の特長は、超低ノイズの内部アンプを搭載し、広帯域にわたるフラットな周波数応答を実現している点にあります。軍事監視、水中生物研究、ポンプ・機械診断など、幅広い水中音響測定において、測定精度と信頼性の向上をお約束します。H23シリーズの革新的な技術的優位性と、3つのモデル(H23-080, H23-100, H23-130)の詳細な仕様を徹底的に解説します。
H23シリーズが実現する「超低ノイズ」と「高感度」
水中音響測定において、システムのノイズは取得データの質に直結します。特に微弱な信号や遠距離の音源を捉える際、ノイズレベルの低減は必須条件です。H23シリーズは、この課題を解決するために、革新的な「自己増幅型」設計を採用しています。
自己増幅型設計によるノイズ低減メカニズム
H23ハイドロフォンは、センサーエレメントと一体化された内部アンプを搭載しています。これにより、信号がハイドロフォン本体を出る前に増幅されるため、外部ノイズの影響を大幅に低減できます。
箇条書き:自己増幅型設計の主なメリット
- ノイズフロアの劇的な改善: 測定環境の電気的ノイズや外部干渉の影響を受けにくい設計です。
- ケーブルノイズの排除: 長いケーブルを使用する際に発生しやすい、トリボエレクトリック(摩擦電気)ノイズを内部アンプで打ち消します。
- 高価なインラインアンプが不要: システム構成を簡素化し、コストとセットアップの手間を削減します。
- コネクタ汚染問題の解消: 信号経路がカプセル化されているため、コネクタ部分での接触不良や汚染による信号劣化を防ぎます。
各モデルの公称感度(H23-080, H23-100, H23-130)の比較
H23シリーズの3つのモデルは、それぞれ特定の周波数帯域と感度特性を持つように設計されています。感度は、ハイドロフォンが捉える音圧(μPa)に対して、どれだけの電圧(V)を出力できるかを示す指標であり、一般に高感度であるほど微弱な信号を捉えやすくなります。
表:H23シリーズ 公称感度と電圧感度
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モデル名 |
公称感度 (dB re 1 V/μPa) |
公称電圧感度 (mV/Pa) |
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H23-080 |
-174dB |
2mV/Pa |
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H23-100 |
-178dB |
1.26mV/Pa |
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H23-130 |
-182dB |
0.76mV/Pa |
※感度はH23-080が最も高く、低周波数帯域の測定において有利に働きます。
広帯域かつフラットな周波数応答の優位性
水中聴音機を選定する上で、周波数応答は最も重要な性能指標の一つです。H23シリーズは、音響測定で重要な5Hzの超低周波数帯から超音波領域までをカバーする「広帯域かつフラットな応答」を提供します。
モデルごとの対応周波数帯域と±4dB応答範囲
H23シリーズは、最大周波数応答に応じて3つのモデルが提供されています。±4dBの応答範囲は、実用的な測定において信頼性の高いデータが得られる帯域を示します。
表:H23シリーズ 周波数応答範囲(±4dB基準)
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モデル名 |
±2 dB 応答範囲(re 100 Hz) |
±4 dB 応答範囲(re 100 Hz) |
最大周波数応答 |
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H23-080 |
15Hz~10kHz |
50Hz~50kHz |
5Hz~100kHz(+6dB,-10dB) |
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H23-100 |
15Hz~10kHz |
10Hz~70kHz |
5Hz~120kHz(±4dB at 80kHz) |
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H23-130 |
15Hz~10kHz |
10Hz~100kHz |
5Hz~150kHz(±4dB at 130kHz) |
各ハイドロホンの周波数特性
水中音響測定における広帯域応答の重要性(5Hz~150kHz)
- 低周波数帯(5Hz~): 船舶のエンジン騒音、地殻変動による音、長距離の水中監視など、エネルギーの大きい音源のモニタリングに不可欠です。
- 高周波数帯(~150kHz): ポンプや配管のキャビテーション、超音波探査、水中通信、海洋生物が発する超音波(バイオアコースティクス)の研究など、微細な物理現象や高速信号の検出に利用されます。
- フラットな応答: 測定周波数全体で感度の変動が少ない(フラットである)ことで、後処理の補正が容易になり、測定結果の信頼性が向上します。
指向性(水平・垂直)の特性と全方向性測定への適用
H23シリーズは、広い周波数範囲で「全方向性(Omnidirectional)」の測定特性を備えています。
- 水平指向性(Radial, XY平面):20kHzで±2dB以内など、高い周波数まで非常に均一な応答を維持します。これは、音源の方角を問わず正確な音圧レベルを測定できることを意味します。
- 垂直指向性(Axial, XZ平面):20kHzで±3dB以内であり、垂直方向からの音にも高い精度で対応します。
これにより、広範囲の監視や、音源がランダムに移動するような環境での使用に最適です。
各ハイドロホンの指向性
過酷な環境に耐える堅牢性と長期安定性
水中での長期運用には、センサーの堅牢性、耐水圧性、そして安定性が欠かせません。Wilcoxonは60年以上にわたる水中センシングのレガシーに基づき、H23シリーズに極めて高い信頼性を組み込んでいます。
680m(1000PSI)までの水深に対応する耐圧構造
H23シリーズは、最大1000PSI(約680mの海水深)までの静圧に耐える設計がなされています。
箇条書き:構造的な堅牢性
- 完全カプセル化: ハイドロフォン本体とケーブルの接続部は、特殊なポリウレタンで完全にカプセル化されています。
- 耐カソードアクション: ポリウレタンカプセル化により、水中でのカソードアクション(電気化学的腐食)によって引き起こされる水の侵入リスクを大幅に軽減します。
- ケーブル一体型: ケーブルは本体と一体化されているため、水密性が極めて高く、高い信頼性を提供します。標準で10ft(約3m)のシールド付きツイストペアケーブルが付属します。
長期安定性を促進するPZTセンサーの採用
H23シリーズのアセンブリには、プレエイジド(Pre-aged)された圧電PZTセンシングエレメントが使用されています。
- プレエイジドの意義: センシングエレメントを事前にエージング処理することで、初期の変動を抑え、製品出荷後の長期にわたる感度と性能の安定性を促進します。これは、校正頻度の低減と測定の一貫性維持に大きく貢献します。
- Wilcoxonの権威性: Wilcoxon社が60年以上にわたり海軍用途で業界をリードしてきた実績は、H23シリーズの信頼性と耐久性の基盤となっています。
H23シリーズの供給電力・環境仕様
現場での導入を検討する上で重要な、電源要件と環境仕様をまとめます。
表:供給電力と環境仕様
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項目 |
仕様 |
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供給電圧 |
18VDC~24VDC |
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供給電流 |
4mA~10mA |
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バイアス出力電圧 |
10VDC |
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動作温度範囲 |
-10℃~+60℃ |
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最大静圧 |
1000PS(680m) |
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利用可能なオプション |
水中コネクタ(R24M)、カップリングスリーブ(CS) |
まとめ: H23シリーズによる次世代の水中音響ソリューション
Wilcoxon H23シリーズは、従来のハイドロフォンにつきまとっていた「ノイズ」「ケーブルの信頼性」「複雑なセットアップ」といった問題を、自己増幅型で超低ノイズ、かつ堅牢な設計によって解決します。
特に、H23-080の低周波数対応から、H23-130の150kHzまでの超音波対応まで、幅広いモデルラインナップは、軍事、海洋生物学、産業モニタリングなど、あらゆる水中音響測定のニーズに応えます。高精度かつ信頼性の高い水中聴音機をお探しの技術者・研究者の方は、H23シリーズの導入をご検討ください。