音によるドローン検知技術と最適なマイクロホン【計測ブログ】
現代の防衛作戦において、無人航空機(UAV/ドローン)は、そのステルス性の高さゆえに脅威となっています。レーダーやRF信号検出が難しいドローンに対し、音響センサーは決定的な役割を果たします。本記事では、音響センサーのリーディングカンパニーであるGRASが提供するMIL-STD-810G準拠のコンデンサーマイクロホンが、ドローンの開発、騒音分析、そして高精度な検出システム構築に、いかに不可欠であるかを詳細に解説します。
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1. ドローン対策と開発における音響測定の重要性
1-1. 低騒音・低振動設計によるドローンのステルス性向上
UAVの主要な音源であるプロペラやモーターから発生する騒音・振動のパターンを精密に測定・分析することは、敵に探知されるリスクを最小化する上で決定的な要素です。
- 測定課題: プロペラ騒音は広範囲の周波数にまたがり、特に遠方からの探知を難しくするためには、環境音の影響を受けずに低レベルの音を正確に捉える高感度・広ダイナミックレンジのセンサーが必要です。
- GRASによる解決: GRASの高性能なコンデンサーマイクロホンは、広帯域(4 Hzから80 kHz)および高ダイナミックレンジ(最大160 dB SPL)をカバーし、近接した銃声や爆発音のような高レベルの衝撃音から、遠距離のドローン音のような微細な音までを歪みなく捉える能力を持っています。
1-2. 従来型マイクが防衛用途に適さない根本的な理由
一般的な消費者向けエレクトレットコンデンサーマイクロホンは、戦場のような過酷な環境には全く対応できません。
- 音響過負荷点(AOP)の限界: 衝撃波(例:銃声や爆発)のSPL(音圧レベル)は 160 dBに達することがあり、一般のマイクロホンはAOPを超えて機能不全に陥ります。GRAS製品は 160 dBまで対応可能です。
- 環境変化への脆弱性: エレクトレットマイクロホンは、高湿度や温度変化(わずか 10℃から45℃)によって感度が著しく低下し、性能が劣化します。これは、ミッションクリティカルな状況下での信頼性を大きく損ないます。
2. ドローン音響検出システム(A-C-UAS)の仕組みとGRASの役割
音響検出システム(Acoustic Counter-UAS, A-C-UAS)は、レーダーやRF検出が困難な都市部や遮蔽物の多い環境において、ドローンの特有の音響シグネチャを捉え、その位置と機種を特定する上で極めて重要です。
2-1. ドローン検出システムの核:音響シグネチャと機械学習(AI)
ドローンのプロペラやモーターが生み出す音響は、機体ごとに固有の音響シグネチャ(特定の周波数帯域のハーモニクス)を持っています。
- リアルタイム処理: センサー(マイクロホン)が音響信号を検出し、サーバーにリアルタイムで送信します。
- ノイズからの分離: 最大の課題は、ドローンの音を環境騒音(風、車両、鳥など)からいかに識別するかです。高性能な信号処理と機械学習(AI)モデル(例:ディープラーニング)を組み合わせることで、音響シグネチャを抽出し、ドローンの存在検証、高度、および地理的位置を推定します。
- 機種特定: 高度なシステムでは、収集した音響データ(DronePrintなど)に基づき、ドローンのメーカーやモデルを特定し、敵味方を識別することが可能になります。
2-2. 高精度検出を可能にする音響アレイとビームフォーミング技術
ドローンの位置(方位角と仰角)を正確に特定し、追跡するためには、複数のマイクを配置した音響アレイが必須です。
- ビームフォーミング技術: マイクアレイは、音源の方向を特定するビームフォーミング技術に利用されます。この技術は、各センサーの感度と位相特性の均一性と安定性に直接依存します。
- GRAS製品の貢献: GRASのコンデンサーマイクロホンは、広帯域かつ高精度な測定能力に加え、MIL-STD-810Gで証明された極めて高い安定性(感度変化 ±0.3 dB以内)を持っています。屋外に常時設置され、温度や湿度が変化する音響アレイにおいて、この安定性は高精度な音源局所化を実現し、状況認識(Situational Awareness)を大幅に向上させる基盤となります。
3. MIL-STD-810G準拠が保証するGRASセンサーの極限性能
ドローン検出システムが過酷な環境下で途切れることなく機能し続けるためには、センサー自体の耐久性が絶対条件です。
3-1. 過酷な環境ストレスへの対応能力
GRASの音響センサーは、実際の戦場環境をシミュレーションした以下の複合的な試験に連続して晒され、その性能を維持しました。
- 主要なMIL-STD-810G試験項目(GRAS 46BE等に適用)
- 温度極限(Storage & Operational):-40℃から +71℃までの貯蔵・動作温度試験。
- 熱衝撃(Thermal Shock): -30℃と +60℃間の急激な温度変化サイクル。
- 湿度(Aggravated Humidity): 95% rh ±3% rh の湿度下に10日間(240時間)晒す試験。
- 振動・衝撃(Vibration & Shock): 地上車両のランダム振動(2.24 grms)や機能的衝撃(40g)および衝突安全性衝撃(75g)試験。
- 砂塵・雨(Blowing Dust & Rain): 高速の砂塵や吹き付ける雨への曝露。
3-2. データが示す「驚異的な長期安定性」
6ヶ月間にわたる一連のMIL-STD-810G試験を通じて、GRASのコンデンサーマイクロホン(GRAS 46BE)は、その感度において極めて高い安定性を示しました。
- 最終結果: 試験キャンペーン前後での感度変化は、すべてのマイクロホンで ±0.3 dB以内に収まりました。
- 意味するもの: これは、極度の温度、湿度、振動、衝撃といった過酷なストレスに長期間晒された後でも、センサーの基本性能が損なわれず、データ精度が維持されることを証明しています。この安定性は、ミッションクリティカルな状況下でのドローン検出精度を直接支えます。
4. 堅牢性のその先へ:ウィンドスクリーン技術の進化と応用
音響センサーの性能は、風切り音や砂塵からダイヤフラムを保護するウィンドスクリーンにも左右されます。GRASでは、さらなる環境耐性の向上のため、ウィンドスクリーンの開発にも注力しています。
- 今後の推奨開発方向
- 改良された疎水性フォーム: 吹き付ける雨によってフォームが飽和するのを防ぐ、撥水性の高い素材の研究。
- 耐塵性フォーム: 砂塵環境下でのコンボイ走行後などに、センサーの音響透過性を維持できるよう、ダストの蓄積に抵抗力を持つ処理を施したフォーム。
まとめ:高精度な音響データが戦場の優位性を確立する
GRAS Sound & Vibrationは、25年以上にわたり、防衛アプリケーション向けにコンデンサーマイクロホンを提供し続けてきました。
MIL-STD-810Gの厳格な試験をクリアしたGRASの音響センサーは、UAV開発における騒音・振動分析の基盤となり、そして対ドローン検出システムにおいては、その極めて高い安定性(感度変化 ±0.3 dB以内)をもって、戦場での脅威を迅速かつ正確に特定する能力を提供します。
正確で信頼性の高い音響データは、現代のミッションクリティカルな防衛装備において、競争優位性を確立するための鍵となります。
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