計測用マイクロホンの選び方:GRAS製品から学ぶ4つの重要ポイント【計測ブログ】
騒音・振動測定における信頼性の高いデータ取得には、最適な計測用マイクロホンの選定が不可欠です。しかし、数多くの種類がある中で、「何を選べばいいか分からない」「高価なマイクを買ったのに期待通りの結果が出ない」といった悩みを抱える技術者の方も少なくありません。
本記事では、音響計測のリーディングカンパニーであるGRASの国内総代理店の丸文がマイクロホン選定時に必須となる「音場タイプ」「ダイナミックレンジ」「周波数範囲」「偏極方式」という4つの基礎パラメータを、具体的かつ分かりやすく解説します。この基礎をマスターすれば、貴社の測定精度は格段に向上します。
GRAS 測定マイクロホンについてはこちら
GRAS ホワイトペーパーについてはこちら
GRAS社マイクロホンについて よくあるご質問についてはこちら
1. なぜ重要?マイクロホンの種類(音場タイプ)を理解する
自由音場、圧力音場、ランダム入射音場の違いと推奨アプリケーション
マイクロホンを選ぶ上で、「音場」とは、音波がどのようにマイクに到達するかという環境を指します。
|
マイクロホンタイプ |
定義と特性 |
身近な測定環境の例 |
主な推奨アプリケーション |
|
自由音場用(Free Field) |
音源からマイクに直接音波が届き、反射がない理想的な環境での測定に適しています。マイクの存在による反射の影響を内部的に補正します。 |
無響室(反射のない部屋)、屋外の開けた場所での遠距離測定。 |
音響パワー測定、サウンドレベルメーターでの騒音測定、無響室での音源放射研究。 |
|
圧力音場用(Pressure) |
マイクの振動板に、音波が壁や表面に衝突した際に発生する実際の圧力を測定します。 |
密閉された空間(カプラー、耳型シミュレーター)、壁や構造物に埋め込まれた測定。 |
閉じたカプラー(例:IEC 60318-4/5準拠の2ccカプラー)内の音圧測定、自動車のエンジンルームなどの壁面測定。 |
|
ランダム入射音場用(Random Incidence) |
音が壁や天井で何度も反射し、あらゆる方向からランダムにマイクに到達する環境(拡散音場)での測定に適しています。 |
残響室、一般的なオフィスや工場、騒がしい室内など反射が多い環境。 |
ANSI規格に準拠した音圧レベル測定、残響室での吸音率測定。 |
2. 測定対象の音圧レベルに合わせる:ダイナミックレンジの決定
ダイナミックレンジ(動的範囲)とは、そのマイクロホンで測定できる「最も大きな音」と「最も小さな音(ノイズフロア)」の間の幅のことです。測定したい音のレベルがこの範囲内に収まっていることを必ず確認する必要があります。
高感度と低感度のトレードオフ:GRASマイクロホンの製品例
マイクロホンの感度(音圧[Pa]に対する出力電圧[mV]の比)は、ダイナミックレンジの特性を決定づけます。これは、カメラのISO感度のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。
- 高感度マイク(例:GRAS 40HLなど1インチマイク)
- 得意なこと: 非常に低い音圧レベルの測定(ノイズフロアが低い)。静かな環境のファンノイズ測定など。
- 弱点: 最大測定可能レベルが低いため、大きな音を測ると波形が歪む(クリップする)。
- 低感度マイク(例:GRAS 40BPなど1/4インチマイク)
- 得意なこと: 非常に高い音圧レベルの測定(ジェットエンジンの騒音など)。最大測定レベルが 170 dB を超えるものもあります。
- 弱点: 固有ノイズが高くなるため、静かな音の測定には不向き。
上限と下限(ノイズフロア)の仕組み
上限(最大測定レベル)の確認:歪み率(THD)が基準
最大測定レベルは、マイクロホンの出力信号に3%のTHD(全高調波歪み)が発生する点で定義されます。これは、音が大きすぎてマイクの線形性が失われ、元の音にはない不必要な高調波成分が混ざり始めた状態です。正確な測定のためには、測定対象の最大音圧レベルがこの上限値よりも低いことを確認しなければなりません。
下限(ノイズフロア)の確認:固有ノイズの理解
下限レベルは、マイク内部の電子回路や熱雑音(ブラウン運動)によって発生する固有ノイズによって決まります。測定対象の音圧レベルがこの固有ノイズよりも低い場合、マイクが発する「サー」というノイズに埋もれてしまい、意味のある測定はできません。
3. 計測に必要な帯域をカバーする:周波数範囲の選定
計測用マイクロホンを選ぶ際には、人間が聞き取れない超低周波(インフラサウンド)から、工業製品が発生させる超高周波(超音波領域)まで、必要な周波数帯域を正確に測定できるかを確認する必要があります。
マイク径と上限周波数の関係:なぜ小径マイクは高周波測定に有利なのか
マイクロホンの上限周波数は、そのサイズ(直径)と直接的に関係します。
|
マイクの直径 |
主な周波数範囲 |
得意な測定 |
|
大径(例:1インチ) |
~10 kHz 程度 |
低ノイズ、低周波、高い精度が求められる測定 |
|
小径(例:1/4インチ、1/8インチ) |
~100 kHz 以上 |
高周波、高音圧、小型化が求められる測定(例:航空機の風洞試験) |
これは、直径の小さなマイクほど、高周波の短い波長に対して反射や回折の影響を受けにくくなるためです。超音波など 20 kHz 以上の高周波を測定する場合は、迷わず 1/4 インチ以下の小径マイクを選定してください。
下限周波数を決める静圧平衡化システムとは
マイクロホンの下限周波数は、マイクの内部と外部の圧力を徐々に一致させる静圧平衡化チャンネルの速度によって決まります。
- このチャンネルがあることで、気圧の変化(マイクを上空に持っていくなど)による振動板の静的なたわみを防ぎ、安定した計測が可能になります。
- ただし、平衡化が早すぎると、測定したい非常にゆっくりとした音(超低周波)までキャンセルされてしまいます。
- GRASのインフラサウンドマイクロホンのように、特殊な低周波測定に特化した製品は、このシステムが特別に調整され、0.09 Hzという極めて低い周波数まで測定できるように設計されています。
4. 信頼性とコスト効率の選択:偏極方式(LEMO vs CCP)
コンデンサーマイクロホンには、振動板を動かすための電荷を供給する方式として、「外部偏極型」と「プリ偏極型」の2つの主流な方式があります。この選択は、初期投資、長期的な安定性、そして現場での使いやすさに影響します。
外部偏極型(LEMO):最高の精度と安定性
|
方式名 |
特徴 |
メリット |
デメリット |
|
外部偏極型 |
外部の電源モジュールから200 V DCの偏極電圧を供給します。 |
長期安定性と精度が最も高く、信頼性が要求される基準測定に最適です。 |
7ピンLEMOコネクタと専用のケーブルが必要で、システム全体が高価になる傾向があります。 |
プリ偏極型(CCP/IEPE):簡便性とコスト削減のバランス
|
方式名 |
特徴 |
メリット |
デメリット |
|
プリ偏極型 |
マイク内部のバックプレートに永久的な電荷(PTFE層)を注入するため、200 Vの外部電源が不要です。 |
CCP(Constant Current Power)、またはIEPE/CCLDという定電流駆動電源で使用できます。シンプルな同軸ケーブル1本で信号と電源を賄えるため、ケーブルコストと配線作業が大幅に削減できます。 |
外部偏極型に比べ、高温環境下や長期的な安定性がやや劣ります。 |
【選定のアドバイス】
- 精度と信頼性最優先: 研究所や標準器としての用途では、LEMO(外部偏極型)一択です。
- 現場の効率とコスト優先: 多チャンネル測定や生産ライン、屋外でのモバイル測定など、簡便性とコストが重要であれば、CCP(プリ偏極型)が最適です。
まとめ:最適なマイクロホン選びが測定結果の信頼性を高める
正確な音響測定は、最適なマイクロホンを選定し、適切な環境で使用することから始まります。
- 音場タイプ: 測定環境に応じて「自由音場」「圧力音場」「ランダム入射音場」を使い分ける。
- ダイナミックレンジ: 測定対象の最大音圧レベルと、必要なノイズフロアレベルをカバーできるかを確認する。
- 周波数範囲: 測定に必要な全帯域を過不足なくカバーできるマイク径を選択する。
- 偏極方式: 最高の精度が必要であればLEMO、簡便性を優先するならCCP(IEPE)を選択する。
これらの4つの重要パラメータを考慮し、GRASの信頼性の高い計測ソリューションを活用することで、貴社の音響測定の信頼性は飛躍的に向上します。具体的な製品選定や、プリアンプ、パワーモジュールを含むシステム全体のご相談については、ぜひお問い合わせください。
GRAS 測定マイクロホン
本ページではGRAS社マイクロホンの製品ページ、技術ページ、ホワイトペーパーなど、弊社がご用意しているGRAS関連のWebページをまとめてご紹介します。
GRAS ホワイトペーパー
GRASの技術や製品、導入事例など様々なホワイトペーパーをダウンロードいただけます。
ぜひご活用ください。
GRAS社マイクロホンについて よくあるご質問
こちらのページではお客様よりお問い合わせの多いご質問および回答を記載しております。
その他ご質問がございましたら、お問い合わせフォームよりお問い合わせください。