加速度センサーの選び方【計測ブログ】
加速度センサー選びは、用途、技術、環境条件の3ステップで決まります。振動、衝撃、動作といった測定タイプごとの最適なセンサー技術(アンプ内蔵型IEPE、電荷型PE、ピエゾ抵抗PR、可変容量型VC)と、ノイズ対策、設置方法まで、エレクトロニクス商社の専門家が徹底解説します。この記事を通じて、お客様の計測課題に最適なセンサーを選定するための実践的な知識と、各技術の深い理解が得られます。
1. はじめに:なぜ加速度センサー選びで失敗するのか
加速度センサーは、自動車、航空宇宙、製造機械、試験設備など、広範なアプリケーションで不可欠な計測デバイスです。しかし、カタログには様々な技術(IEPE、PE、PR、VC)と仕様が並び、特に初心者にとっては最適なモデルを選ぶのが難しいのが現状です。最適なセンサーを選定するためには、「何を測りたいのか」を明確にし、その用途に合った技術、そして環境条件を順序立てて検討する必要があります。
2. ステップ1:まずは測定タイプを特定する
センサー選びの最初のステップは、計測対象の動きを特定し、以下の4つのカテゴリのいずれに該当するかを判断することです。これにより、次に選ぶべきセンサー技術の方向性が定まります。
2-1. 振動測定:広帯域な周波数応答が必要なケース
振動は、平衡位置の周りで物体が揺れ動く往復運動です。
- 特徴: 広範囲の周波数(数Hzから30kHzなど)をカバーするセンサーが必要とされます。
- 最適なセンサー技術: ピエゾエレクトリックセンサー(IEPE型またはPE型)が第一選択肢となります。これらは広い周波数範囲と高い感度・分解能を提供します。
2-2. 衝撃(ショック)測定:高gレベルとゼロシフト対策
衝撃は、構造物に突然加わる過渡的な外力であり、通常、構造物の共振を励起します。
- 特徴: 非常に大きな加速度(高gレベル)を計測する必要があり、耐久性と耐衝撃性が重要です。また、ゼロシフト現象への対策も必要になることがあります。
- 最適なセンサー技術: ピエゾ抵抗(PR)センサーが広く使用されますが、ショックレベルに応じてIEPE型やPE型も選択肢に入ります。特に自動車の衝突試験ではPRセンサーが多用されます。
2-3. 動作・定常加速度(モーション/DC応答)測定:低周波領域の安定性
動作は、ロボットアームの動きや自動車のサスペンションなど、比較的ゆっくりとした動きや、重力のように一定の加速度(定常加速度)を指します。
- 特徴: 0Hz(DC応答)までの測定が可能で、長時間の過渡現象を測定できること、および低周波領域での高い安定性が求められます。
- 最適なセンサー技術: 可変容量型(VC)センサーやピエゾ抵抗(PR)センサーといったDC応答型センサーが最適です。VCセンサーは高感度で温度安定性に優れているため、特に低周波振動や乗り心地測定に適しています。
2-4. 地震(低周波振動)測定:特殊な低ノイズ・高分解能が求められるケース
地震は、低周波の振動または動作の範疇に含まれますが、極めて微小な加速度を高精度で捉える必要があるため、特殊な低ノイズ・高分解能センサーが要求されます。
3. ステップ2:測定タイプに基づく最適なセンサー技術を選ぶ(技術の深掘り)
加速度センサーの主要な3つの技術について、その原理、メリット、デメリットを理解することは、正しいセンサー選定に不可欠です。
3-1. 圧電型センサー:振動・衝撃測定の主役
PEセンサーは、歪みや力を加えると電荷を発生する圧電材料(水晶など)を利用しています。テスト・計測アプリケーションで最も広く使用されている技術です。
3-1-1. IEPE型(内蔵アンプ型):利便性と標準化のメリット
- 原理: 圧電素子で発生した電荷を、センサー本体に内蔵されたチャージアンプで電圧に変換して出力します。
- 特性:
- 出力: 電圧出力
- 周波数: 数Hzから30kHzなど、非常に広い周波数範囲。
- ケーブル: 標準的な低コストの同軸ケーブル(商用同軸ケーブル)を使用できます。
- 電源: 外部の定電流電源(コンスタントカレントソース)が必要です。
- 応用領域: 汎用的な振動試験、遠方場での衝撃測定など、広範囲のテスト計測。
- 選定上の注意: 使用可能な最高温度が比較的低い(通常125°C、高温度版で175°C)ため、高温環境では使用できません。
3-1-2. PE型(チャージ型):極限環境での信頼性
- 原理: 圧電素子で発生した電荷をそのまま外部に出力します。
- 特性:
- 出力: 電荷出力(単位: pC/g)。
- 周波数: IEPE型と同様に非常に広帯域。
- ケーブル: 専用の低ノイズケーブルが必須です。通常のケーブルではノイズが発生しやすくなります。
- 周辺機器: 信号を電圧に変換するための外部チャージアンプまたはインラインチャージコンバータが必要です。
- 応用領域: 超高温環境(最高760°C)、超低温環境(最低-269°C)、または放射線環境といった極限的なテスト。
- 選定上の注意: IEPEに比べ、システムが高価で複雑になりますが、高温性能と極めて広い振幅レンジ(ダイナミックレンジ)が最大の強みです。
3-2. ピエゾ抵抗型(Piezoresistive: PR)センサー
PRセンサーは、抵抗変化を検出するブリッジ回路を使用しており、定常的な力を測定できます。
- 特性:
- DC応答性(0Hz応答): 静的な加速度や、長時間にわたる加速度変化(DC成分)を測定できます。
- 感度: 一般的に感度が低いため、高gの衝撃測定に有利です。
- 周波数: 広帯域。
- 応用領域: 自動車の衝突試験、高レベルの衝撃測定。
- 選定上の注意: 感度が低い(ノイズフロアが高い)ため、微小な振動測定には向いていません。ショック測定ではゼロシフトが稀であり、データ統合時の歪みを防げます。
3-3. 可変容量型(Variable Capacitance: VC)センサー
VCセンサーは、機械的な動作を静電容量の変化に変換し、電圧として出力します。
- 特性:
- DC応答性(0Hz応答): PR型と同様に、重力や静的な加速度を測定できます。
- 感度: 高感度(最大1V/g)を実現できます。
- 周波数: 狭帯域(通常0Hz〜1kHz程度)。
- 安定性: 優れた温度安定性。
- 応用領域: 低周波振動の計測、航空機のフラッター試験、エレベーターや車両の乗り心地(低周波)測定。
- 選定上の注意: 汎用的な振動測定に必要な広帯域の周波数応答を持たないため、用途が低周波に限定されます。低周波イベントの研究や位相データの保持が重要なアプリケーションに最適です。
4. ステップ3:環境条件と設置方法から最終選定する
測定技術が決まったら、実際にセンサーが使用される環境と設置要件に基づいて、具体的なモデルを選択します。
4-1. 動作温度範囲と湿度の確認(密閉性)
センサーの耐久性は、使用される温度と湿度の条件に大きく左右されます。
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技術 |
標準温度範囲 |
極限温度対応 |
備考 |
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PE (チャージモード) |
-55°C 〜 260°C |
-269°C 〜 760°C |
極低温・超高温環境で圧倒的に有利 |
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IEPE |
-55°C 〜 125°C |
-55°C 〜 175°C |
汎用的な環境に対応 |
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PR |
-55°C 〜 66°C |
– |
比較的温度範囲が狭い |
- 湿度・防水性: ハーメチック(気密封止)が最も推奨されます。エポキシシールや環境シールも耐湿性はありますが、連続的な温度サイクルによりシールが劣化する可能性があるため、水中や長期の高湿環境ではハーメチックが推奨されます。
4-2. 加速度レベルと感度・分解能の確認
データシートに記載されている「レンジ」と「ショックリミット(耐衝撃性)」の違いを理解することが重要です。
- ダイナミックレンジ(線形動作範囲): センサーが線形な出力を保証する最大加速度(例: 500g)。測定レベルは必ずこの範囲内に収まるように選定します。
- ショックリミット(耐衝撃性): センサーが破壊されずに耐えられる最大加速度(例: 2000g)。これは測定できる範囲ではなく、センサーのサバイバビリティを示します。
- 感度(Sensitivity)と分解能(Resolution):
- 高gの衝撃試験では低感度のセンサーが、微小な低レベル振動では高感度のセンサーが望ましいです。
- 分解能はセンサーのノイズフロアに依存し、センサーが識別できる最小信号(g rms)を示します。低レベル信号測定では、この値が小さい(ノイズが少ない)高分解能センサーを選ぶ必要があります。
4-3. 設置方法とセンサーの重量の影響
センサーをテスト対象物に取り付ける方法は、測定の正確性に直接影響します。
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設置方法 |
特徴 |
周波数伝達性 |
推奨される用途 |
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ネジ/スタッド取り付け |
恒久的な取り付け、センサーとUUTを一体化させる |
最良。高周波測定に最適。 |
恒久的なモニタリング、高精度試験 |
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接着剤取り付け |
小型表面、PC基板など、ネジ止めできない箇所 |
良(接着剤の種類による) |
一時的な試験、軽量構造物 |
- 重量の影響(質量負荷効果): センサーの重量はUUTの固有振動数を変化させ、測定値を歪ませます。経験則として、センサーの重量はテスト対象物の重量の10%を超えないようにするのが望ましいです。軽量な構造物やPC基板には、超小型・軽量のセンサーを選びましょう。
5. まとめ:最適な加速度センサーの選び方
加速度センサーの選定は、測定の目的、センサー技術の原理、そして実際の環境要因を総合的に判断する専門性の高いプロセスです。この記事では、振動、衝撃、動作の3つの主要な測定タイプに対応するIEPE型、PE型、PR型、VC型の各センサー技術を詳しく解説しました。しかし、横感度、ケーブルの種類、信号調整(シグナルコンディショニング)といったさらに詳細なパラメータは、最終的な測定精度を左右します。
お客様の計測課題に最適なセンサーを選び出し、必要な周辺機器やノウハウを提供するためにも、ぜひ弊社にご相談ください。信頼性の高い計測ソリューションの実現をサポートいたします。