HCF(中空コアファイバー)計測の課題とEXFO NS-348xによる解決策
データセンターのインフラ担当者にとって、HCFの導入は大きな転換点です。しかし、施工現場では「スプライス損失が正しく測れない」「波形が安定しない」といったトラブルが懸念されます。これは機器の故障ではなく、HCFの物理特性によるものです。手戻りを防ぎ、確実な品質保証を行うために必要なEXFOの計測ソリューションと、その具体的な機能について紹介します。
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1. AIデータセンターがHCFを必要とする理由
1.1 分散学習における遅延の影響
大規模なAIモデルの学習は、複数のデータセンターに分散された数万基のGPUクラスターで行われます。この分散学習では、すべてのGPUが計算結果を共有(同期)するまで次の処理に進めません。そのため、ネットワークの遅延がシステム全体の処理速度を低下させる原因となります 1。
1.2 ガラスから空気へ:物理的な遅延短縮効果
従来のシングルモード光ファイバー(SMF)は、ガラスの中を光が通るため、光の速度は真空中と比べて約33%低下します。一方、HCFはコアが空気であるため、光は真空中に近い速度で伝送されます。
これにより、SMFと比較して遅延を約30〜50%削減できます 3。数値にすると、1kmあたり約1.54マイクロ秒の短縮となります 4。この物理的な遅延短縮により、データセンター間の距離が離れていても、高速な同期処理が可能になります。1.3 マイクロソフトなどの導入事例
Microsoft Azureなどのハイパースケーラーは、すでにHCFの導入を進めています 5。HCFは実験段階を超え、商用インフラとしての利用が始まっています。
図:DCAとDCZ間の物理層における光接続性
(出展:Microsoft, https://techcommunity.microsoft.com/blog/azurenetworkingblog/the-deployment-of-hollow-core-fiber-hcf-in-azure%E2%80%99s-network/4395340)
2. 従来のOTDRではHCFを測定できない理由
HCFの導入現場では、高性能な既存のOTDRを使用しても「測定ができない」「数値が安定しない」という問題が起きています。これには主に2つの物理的な理由があります。
2.1 散乱光が微弱である(低後方散乱)
OTDRは、ファイバー内部で発生する「レイリー後方散乱」という反射光を検出して測定します。従来のガラスコア(SMF)では十分な散乱光が得られますが、HCFのコアは「空気」です。空気の密度はガラスよりもはるかに低いため、発生する散乱光はSMFに比べて約15〜20dB低くなります 7。
一般的なOTDRでは、この微弱な信号を検出できず、ノイズと区別がつきません。その結果、ファイバーの長さや損失を測定することが困難になります。2.2 ガス充填効果(GFE)によるノイズ
HCFの測定を難しくする最大の要因は、ガス充填効果(Gas Filling Effect: GFE)です 8。
接続作業(スプライシング)などでHCFの内部が大気に触れると、ファイバー内の気圧が変化します。これにより、ファイバーの長さ方向に沿って屈折率が変動します。この現象はOTDRの波形に以下のような影響を与えます。
- 偽の増幅と減衰: 実際には損失がない場所で、波形が上がったり下がったりします。
- 接続損失の隠蔽: 接続点付近で発生するガスの信号変動が大きいため、本来測定すべき「接続損失(スプライスロス)」がノイズに埋もれてしまい、測定できなくなります 7。
2.3 HCFとSMFの接続点における強い反射
HCFを既存のネットワークに接続するには、SMF(ガラスコア)との変換が必要です。ガラス(屈折率 約1.47)と空気(屈折率 約1.0)の接続点では、約-14dBという強い反射が発生します 7。
通常のOTDRでは、この強い反射によって受光部が飽和し、接続直後のデータが取得できない「デッドゾーン」が大きく発生します。3. EXFO NS-348xの技術的特徴と解決策
EXFOのNS-348xは、HCF特有の問題(低散乱、ガス充填効果)を解決するために設計された専用の測定ソリューションです。
3.1 46dBの高ダイナミックレンジによる微弱信号の検出
空気コアからの微弱な散乱光(-20dB)を検出するため、NS-348xは非常に高い出力と感度を持っています。
- 最大46dBのダイナミックレンジ:これにより、微弱な信号をノイズから区別して検出し、150km以上の長距離測定を可能にします 8。
3.2 ガス信号分離技術(Decoupling)
NS-348xの解析ソフトウェアには、特許出願中の「ガス信号分離技術」が搭載されています 8。
この技術は、OTDR波形に含まれる「ファイバー自体の信号」と「ガスの圧力変動によるノイズ成分」を数学的に分離します。これにより、ガスによる波形の乱れを取り除き、「真の接続損失」と「反射率」だけを正確に測定することができます。これは、HCFの品質保証において不可欠な機能です。
3.3 外部PC解析とFastReporter 3による効率化
HCFの解析には複雑な計算が必要です。NS-348xは、取得したデータをPC上の解析ソフトウェア(FastReporter 3)で処理することで、以下の機能を実現しています。
- 双方向解析: A地点からB地点、B地点からA地点の双方からの測定データを統合し、方向による誤差を補正して正確な損失値を算出します 8。
- 大量データの一括処理: データセンター建設時に発生する数千本のファイバー測定データを効率的に処理し、レポートを作成できます 9。
3.4 ハイブリッドケーブル(HCF+SMF)の測定
HCFとSMFが混在する「ハイブリッドケーブル」では、区間ごとに屈折率が異なります(空気:約1.0、ガラス:約1.47)。従来のOTDRでは1つの屈折率しか設定できませんでしたが、NS-348xは区間ごとに異なる屈折率(IOR)を適用できます 8。これにより、各区間の正確な距離と損失を測定可能です。
4. 導入のメリットと投資対効果
専用の測定器(NS-348x)を導入することで、以下のリスクを回避し、確実なネットワーク構築が可能になります。
4.1 施工時の手戻り防止と品質確保
HCFの接続は非常に繊細であり、わずかな損失の増加も許されません。ガス信号分離機能がないOTDRでは、不良箇所を見逃したり、良品を不良と誤判定したりする可能性があります。NS-348xを使用することで、正確な合否判定を行い、再施工のコストや工期の遅れを防ぐことができます。
4.2 将来的なネットワーク拡張への対応
現在のデータセンター間接続だけでなく、将来的にはより長距離のネットワークにもHCFが採用される可能性があります。NS-348xは150kmの測定に対応しており 8、将来の技術進歩やネットワーク拡張にも対応可能な仕様となっています。
5. まとめ
HCFの導入には、従来のSMFとは異なる計測アプローチが必要です。特に「微弱な散乱光」と「ガスによるノイズ」は、汎用のOTDRでは対応できない物理的な障壁です。EXFOのNS-348xは、高出力ハードウェアと独自のガス信号分離アルゴリズムを組み合わせることで、これらの問題を解決しました。確実なインフラ構築のために、専用計測器の導入は不可欠なステップです。
6.よくある質問 (Q&A)
Q1: 従来のシングルモード用OTDRでも、設定を変えればHCFを測定できますか?
A1: いいえ、正確な測定は困難です。HCFはコアが空気であるため、ガラスに比べて散乱光が約15〜20dBも低く、従来のOTDRでは信号がノイズに埋もれてしまいます。また、接続点付近で発生する「ガス充填効果」によるノイズを除去する機能がないため、接続損失を正しく測定できません。専用のハードウェアとアルゴリズムを持つNS-348xが必要です。
Q2: 「ガス信号の分離」とは具体的に何をしているのですか?なぜ重要なのですか?
A2: HCF内部では、ガスの圧力差によって屈折率が変動し、OTDR波形に偽の増幅や減衰(ノイズ)が発生します。EXFOのソフトウェアは、このガス由来の変動成分と、ファイバー自体の信号成分を数学的に分離します。これにより、ガスノイズを取り除き、本来の接続損失や反射率だけを正確に数値化することが可能になります。
Q3: 将来的に800Gや1.6Tのネットワークになっても、この測定器は有効ですか?
A3: はい、有効です。通信速度(帯域幅)が向上しても、物理層(ファイバー)の品質管理の重要性は変わりません。NS-348xは物理的なファイバーの特性(損失、反射、長さ)を測定するものであり、ネットワークの伝送速度に関わらず、HCFを使用するあらゆるインフラの品質保証に使用できます。また、150kmの長距離測定にも対応しているため、将来のネットワーク拡張にも対応可能です。
引用文献
- Distributed training of deep learning models – DagsHub https://dagshub.com/blog/distributed-training-of-deep-learning-models-handling-stragglers-and-latency-in-synchronous-training/
- Hollow-Core Fibers for Latency-Constrained and Low-Cost Edge Data Center Networks – IEEE Xplore https://ieeexplore.ieee.org/iel8/4275028/5699970/11217225.pdf
- Hollow-core fiber: A new paradigm for ultra-low-loss data center links https://www.focc-fiber.com/info/hollow-core-fiber-a-new-paradigm-for-ultra-lo-103130333.html
- Hollow Core Fiber Cable https://www.furukawaelectric.com/en/rd/review/fr052/fr52_09.pdf
- Microsoft’s hollow core fiber delivers the lowest signal loss ever – Network World https://www.networkworld.com/article/4049666/microsofts-hollow-core-fiber-delivers-the-lowest-signal-loss-ever.html
- Microsoft Azure scales Hollow Core Fiber (HCF) production through outsourced manufacturing https://techcommunity.microsoft.com/blog/azurenetworkingblog/microsoft-azure-scales-hollow-core-fiber-hcf-production-through-outsourced-manuf/4455953
- What is Hollow Core Fiber (HCF) Testing? | VIAVI Solutions Inc. https://www.viavisolutions.com/en-us/what-hollow-core-fiber-hcf-testing
- Hollow-Core-fiber_Spec-sheet_V2_Preliminary_JP.pdf
- FastReporter | Data Post-Processing | Bidirectional Analysis – EXFO https://www.exfo.com/en/products/field-network-testing/otdr-iolm/fastreporter-3/