商品基礎情報
製品概要
GRAS 44ACは、音響機器の研究開発および量産検査ライン向けに最適化された高精度な基準測定用スピーカーです。GRASが長年培ってきたマウスシミュレータ(擬似口)の開発ノウハウをもとに設計されており、ピークやディップの少ない極めてスムーズな周波数特性と単一振動板(シングルドライバー)構造を採用しており、複雑なフィルタ補正を必要としない容易なイコライジングと、クロスオーバー歪みのない優れた位相線形性を両立します。
測定用の音源に求められるのは、「大きな音が出ること」以上に、「毎回同じ音が、意図した特性で出ること」です。44ACは長期にわたって仕様が安定し、繰り返し使っても同じ性能を発揮するよう設計されています。堅牢な構造により、毎日稼働する生産ラインの検査工程にも安心して組み込めます。
内蔵パワーアンプと高剛性位置決め機構を備え、検査治具への組み込みから近傍音場での高精度測定まで、測定工数の大幅削減と信頼性の高い音響テスト環境を提供します。
製品仕様
| 項目 | 仕様 |
| 最大連続出力(200 Hz〜16 kHz) ※グリッド前方75 mm位置 |
110 dB re. 20 µPa |
| 最大連続出力(100 Hz〜20 kHz) | 100 dB re. 20 µPa |
| 歪み(200 Hz〜16 kHz、94 dB出力時) | 標準1%、最大1.5% |
| 補正なし周波数特性 (200 Hz〜16 kHz、1/12オクターブ平滑化、1 kHz基準) |
94 dB ±6 dB re. 20 µPa |
| インピーダンス | 8 Ω |
| 最大入力(連続) | 10 W |
| 最大入力(2秒パルス) | 50 W |
| ゲイン | 10 dB |
| 入力インピーダンス | 20 kΩ |
| 最大入力電圧 | 2 Vrms |
| コネクタ | BNC |
| 動作温度範囲 | 10〜35 °C |
| 質量 | 2 kg |
製品の主な特長
特長1: スムーズな未補正特性による容易なイコライジングと測定工数の削減
GRAS 44ACは、長年培われたマウスシミュレータ(人工口)の音響設計ノウハウを投入し、補正無しの状態において極めて滑らかな周波数応答特性を実現しています。測定用スピーカーは、測定系のソフトウェアでイコライズして完全にフラットな音圧を作り出して使うのが一般的です。
ところが、元の特性に鋭い山や谷があると、補正には急峻で長いフィルタが必要になり、わずかな位置ずれや温度変化で補正が合わなくなる原因にもなります。44ACは元の特性が素直なため、一般的な測定ソフトウェアに備わっている短くシンプルなフィルタだけで、容易にフラットな応答へ補正できます。補正量が少ないことは、出力の余裕(ヘッドルーム)を保ち、歪みを抑えることにもつながります。
音響テストベンチの初期キャリブレーション時間を大幅に短縮できます。また、補正フィルタによる演算レイテンシ(遅延)や過度なブーストによるアンプのヘッドルーム圧迫を回避できるため、高速なタクトタイムが要求される量産ラインでの測定信頼性と安定性を高めます。
特長2: 単一振動板(シングルドライバー)構造による理想的な位相直線性・点音源特性
マルチウェイスピーカー(ツイーター+ウーファー構成等)では、帯域分割を行うクロスオーバーネットワーク周辺で急激な位相回転が生じるほか、異なるドライバー間の物理的距離に起因する音波の干渉(コムフィルタ効果)や音響中心(アコースティックセンター)のズレが避けられません。
44ACは音を出す振動板が1つだけの「シングルドライバー」方式です。帯域を複数のスピーカーユニットで分担するマルチウェイ方式に比べ、全帯域にわたってクロスオーバー歪みや位相の不連続性が原理的に発生しません。音源が単一の点(点音源)として振る舞うため、音波の波面が整い、群遅延の乱れが極めて少なく抑えられます。
近接測定(近傍音場測定)やマイク検査治具の密接配置環境においても、受音位置のわずかなズレによる周波数・位相の乱れが生じません。インパルス応答、ステップ応答、過渡特性試験、アクティブノイズキャンセリング(ANC)評価など、位相情報がクリティカルな測定において極めて再現性の高いテスト結果が得られます。
特長3: パワーアンプ内蔵オールインワン設計と高出力音圧(最大110 dB SPL)の両立
内部に 10 dB の固定ゲインを持つ専用パワーアンプを内蔵しています。付属の 24V DC 電源を接続するだけで自動的にアンプが起動し、信号発生器やオーディオアナライザのBNC出力から直接ドライブすることが可能です。この小型筐体でありながら、グリッド前方 75 mm において 110 dB re. 20 µPa(200 Hz〜16 kHz)の連続最大音圧を出力でき、低歪み(94 dB 出力時で歪率 Typically 1%)を維持します。
外部パワーアンプの選定、設置スペースの確保、複雑な配線取り回しが一切不要になります。検査用ラックやシールドボックス内の省スペース化を実現するとともに、機器間の配線トラブルやグラウンドループノイズの混入リスクを最小化できます。
特長4: インライン量産検査治具へ高精度に固定できるリジッドな位置決めマウント機構
製造現場での過酷な運用に耐えうるよう、総重量 2 kg の高剛性ハウジングを採用。底面には標準的な 3/8″ 三脚ネジ穴に加え、4箇所の回転防止位置決めピン穴(直径2.1 mm)を装備しており、専用治具やロボットアーム、検査スタンドへ音軸のズレなく確実にリジット固定できます。さらに、前面外周リムにはネジ穴が設けられており、マイクロホンの校正用ジグや専用カプラを直接強固に取り付けることが可能です。
生産ラインの稼働に伴う機械振動や治具の繰り返し脱着による音軸の狂いを物理的に防止します。オペレーターによる設置誤差を排除し、常に同一の音響幾何条件を維持できるため、日々の測定データのばらつきを抑え、長期的な品質トレーサビリティを保証します。
なぜ「振動板1つ」が測定に有利なのか
一般的なオーディオ用スピーカーの多くは、低音用(ウーファー)と高音用(ツイーター)など複数の振動板で帯域を分担する「マルチウェイ方式」を採用しています。再生帯域を広げるには有効な方式ですが、測定用の基準音源として使う場合にはいくつかの弱点があります。
位相特性が滑らか
マルチウェイ方式では、クロスオーバー(帯域分割フィルタ)で信号を低音側と高音側に振り分けます。この境目の周波数付近では位相が大きく回転し、群遅延(周波数ごとの音の遅れ)も乱れます。
シングルドライバーの44ACにはクロスオーバーがないため、帯域の途中で位相が急変する箇所がなく、位相特性・群遅延特性が素直です。インパルス応答もシンプルになり、振幅だけでなく位相も含めた伝達関数の測定や、時間応答を扱う測定で扱いやすい音源になります。
音の出どころが1点
マルチウェイ方式では、複数の振動板がそれぞれ別の位置から音を出します。そのため、測定マイクの位置によって各振動板からの距離(音の到達時間)に差が生じ、クロスオーバー付近で音が強め合ったり打ち消し合ったりします。その結果、マイクの位置や角度が少し変わるだけで特性が変わってしまいます。
振動板が1つの44ACは音の出どころが1点にまとまっており、こうした干渉が原理的に起こりません。特に75 mmのような近距離での測定では、位置ずれによる特性変化が小さく、再現性の高い測定につながります。
イコライズとの相性が良い
位相の急変や位置による干渉がないことで、一度設定したイコライズが測定位置の微妙な違いに左右されにくくなります。「素直な周波数特性」と「素直な位相特性」の組み合わせにより、補正フィルタはシンプルなままで済み、補正後の特性も安定します。
主なアプリケーション
- 生産ラインでの音響検査:マイクロホンやマイク搭載製品の感度・周波数特性の検査用音源
- ラボでの基準音源:音響測定系の基準となる、安定した音響信号の供給
- マイクロホンの比較評価:校正用治具(別売)と組み合わせた、基準マイクとの比較測定
- 各種音響テストセットアップ:信頼性の高いスピーカー性能が求められる試験全般
よくあるご質問(FAQ)
Q1: 周波数特性のイコライジング(補正)にはどのような設備・ソフトウェアが必要ですか?
Audio Precision社 APx500のような音響測定用のソフトウェアを使用することを推奨します。その他にも、一般的な音響テスト&計測ソフトウェアのイコライゼーション機能をご使用いただけます。GRAS 44ACは未補正状態において 250 Hz 以上の帯域に急峻な共振ピークや深いディップが存在しないため、複雑な多段フィルタや長いFIRフィルタを用いずに、短くシンプルなフィルタ設定だけで極めて高精度にフラットな周波数特性へ補正することが可能です。
Q2: 電源を入れた際、わずかに「ジー」というハムノイズが聞こえることがありますが故障でしょうか?
故障ではありません。GRAS 44ACの信号入力部は、グラウンドに対してフローティング(電位的に浮いた)設計となっています。そのため、信号源ケーブルが未接続の状態で電源を投入すると微小なハムノイズを拾う場合がありますが、正しく接地(グラウンド)されたオーディオアナライザや信号発生器にBNC接続することでノイズは完全に解消されます。なお、接続する信号源側でフローティンググラウンド設定が選択可能な機器をご使用の場合は、フローティングを有効にせず、アース接地した状態で接続してください。
Q3: 複数ドライバー(2ウェイ構成など)の測定用スピーカーと比べて、単一振動板(シングルドライバー)の利点は何ですか?
主な利点は「位相特性の直線性」と「音響中心の一致(点音源性)」です。複数ドライバー構成では、クロスオーバー周波数付近で位相回転や物理的な音源位置のズレによる干渉(コムフィルタ効果)が発生しやすくなります。GRAS 44ACは単一の振動板で広帯域(100 Hz〜20 kHz)を再生するため、帯域分割による位相の不連続や群遅延の乱れが一切ありません。特に近距離測定やインパルス応答・ステップ応答測定、ANC(アクティブノイズキャンセリング)評価において、極めて高い測定再現性と信頼性を発揮します。
Q4: 生産ラインの検査治具やマウンターへの固定方法を教えてください。
筐体側面に 3/8″ UNC-16 の三脚ネジ穴が配置されており、一般的な計測用三脚や治具ポストへ直接固定できます。また、ネジ穴の周囲には回転防止用の位置決めピン穴(直径2.1 mm、深さ2 mm以上)が4箇所設けられているため、ライン稼働時の振動による回転ズレを物理的に防止できます。一般的な 1/4″ カメラネジに固定する場合は、オプションの変換ネジアダプター(型番:SK0017)をご利用ください。さらに前面外周リムのネジ穴を活用し、受音マイクの校正治具を直接組み付けることも可能です。
Q5: 定期的な校正は必要ですか。
全製品は出荷前にトレーサブルな校正設備で校正されています。GRASでは、少なくとも年1回、認定校正機関での定期校正を推奨しています。使用頻度や使用環境、社内の品質基準によって適切な校正周期は異なります。
Q6. 別途パワーアンプを用意する必要はありますか?
不要です。44ACはパワーアンプを内蔵しており、付属の24 V DC電源(GRAS AB0012)を接続すると内蔵アンプが自動で起動します。信号発生器や測定器の出力をBNC端子に接続するだけでご使用いただけます(最大入力電圧2 Vrms、アンプゲイン10 dB)。