デジタルアイソレータとは
近年、通信回路の絶縁方法はフォトカプラからデジタルアイソレータへの切り換えが進んでいます。
そこで今回は絶縁の必要性、絶縁方式のご説明の後に、Analog Devices, Inc.(以下、アナログ・デバイセズ社)の容量絶縁方式のデジタルアイソレータ製品の特長をご紹介いたします。
なぜ絶縁が必要か?
産業機器や医療機器などで、高電圧で動作する部分と低電圧で動作する部分が混在していたり、低電圧の機器でも使用環境により高電圧・大電流が印加される恐れがある場合には、低電圧の回路に高電圧が印加され破損したり、取り扱う人が感電する危険があります。
それとは別に、ある2点間でGND電位が異なる状態が発生すると、一方のGNDからもう一方のGNDへと電流が流れる経路が発生します(これをGNDループと呼びます)。このGNDループに電流が流れると回路や機器が故障・破損する場合があります。加えて、GNDループの存在がノイズの発生や増幅の要因となります。
これらの対策として、電気・電子回路の2つのポイント間に電流が流れないよう電気的に分離、つまり「絶縁(ガルバニック絶縁)」を行う必要があります。一般的に「絶縁」が必要な装置や箇所は以下の通りです。
絶縁が必要な装置
- 商用電源・モータ・計測器などの産業機器
- 医療機器(AED、レントゲン)などの医療機器
- ハイブリッド自動車ECUなどの車載機器 など
絶縁が必要な箇所
- 高電圧(例:モータ、36V)回路と低電圧(例:マイコン、3.3V)回路の間
- 基板間のインターフェイスや外部機器と接続するコネクタの周辺
- RS-232/422/485、CANなどのトランシーバ周辺
絶縁方式
絶縁方式はフォトカプラとデジタルアイソレータの大きく2つに分類されます。
- 従来から使われているフォトカプラ=光絶縁方式
- 近年登場したデジタルアイソレータ=おもに磁気絶縁方式と容量絶縁方式
光絶縁方式(フォトカプラ)
送信側では発光素子を使って電気信号を光信号に変換します。
受信側ではフォトトランジスタ等を用いて、光信号を電気信号に変換する方式です。
光を介在することにより、電気的な分離を行います。
長所
●安価
●アナログ・デジタル両方可
短所
●低速 (max 20Mbps程度)
●消費電流 大
●経年劣化(約10年)
●外付けプルアップ抵抗必要
磁気絶縁方式(デジタルアイソレータ)
送信側・受信側の両方に絶縁されたコイルを用います。
電気信号を磁気エネルギーに変換して送り、受け側では磁気エネルギーを電気信号に変換する方式です。
磁気を介することにより、電気的な分離を行います。
長所
●同相過渡電圧耐性(CMTI)が高い
●高速(~150Mbps)
●外付けプルアップ抵抗不要
短所
●EMI、EMC特性が劣る
●速度に比例して消費電流増大(高速で不利)
●デジタル信号のみ
容量絶縁方式(デジタルアイソレータ)
受信側にコンデンサを用います。(製品によっては送信側と受信側両方)
電気信号を送り、受け側ではコンデンサの充電・放電という形に変換する方式です。
コンデンサを介することにより、直接的な電気信号の受け渡しは行わず電気的な分離を行います。
長所
●EMI、EMC特性に優れる
●高速(~200Mbps,理論上~500M)
●外付けプルアップ抵抗不要
短所
●CMTIが低い
●速度に依らない消費電流(低速で不利)
●デジタル信号のみ
絶縁方式の比較
各方式の特長は以下のとおりです。
*1 速度 :光絶縁は20Mbps程度までに対して、デジタルアイソレータは150~200Mbps程度
*2 CMTI :Common Mode Transient Immunity(同相過渡電圧耐性)の略
*3 寿命 :光絶縁は10年程度、デジタルアイソレータは25年以上
デジタルアイソレータはフォトカプラと比べて高速・低ノイズ・低消費電流・長寿命の利点があります。
そしてデジタルアイソレータ同士を比べると、磁気絶縁方式はCMTI特性が優れている一方、容量絶縁方式はEMI/EMC特性に優れています。
アナログ・デバイセズ社の容量絶縁方式製品の特長
アナログ・デバイセズ社のデジタルアイソレータは磁気絶縁方式と容量絶縁方式の製品があります。
図.2に一般的なアナログ・デバイセズ社製の容量絶縁方式デジタルアイソレータの内部構造写真を示しますが、受信側にコンデンサを使用していることがお分かりいただけると思います。
さらに、強化絶縁(5kV)を実現するひとつの手法としてキャパシタを二重化した製品(MAX224xx)もラインナップしており、高信頼性を要求されるアプリケーションに対応しています。
具体的には、受信側だけでなく送信側のチップにもコンデンサを使用しています。
次に、具体的な特長を説明していきます。
低EMI
容量絶縁方式が優れたEMI特性をもつ一例として、アナログ・デバイセズ社製品の実測データをご紹介します。
EMI規制値(CISPR11およびFCC Part15 クラスB、赤い線)に対し、MAX1443xのEMI特性(青い線)は30M~1GHzの帯域で10~20dB以上マージンがあり低EMI設計が実現可能です。
低伝搬遅延・低ジッタ・低消費電力
アナログ・デバイセズ社製品の回路構成は図.5の様に他社と比べてシンプル、一つの回路でDC信号も検出可能です。これにより低伝搬遅延・低ジッタ・低消費電力を実現しています。特にジッタは低く、MAX12930では250ps@25Mbps(他社は400p~2ns)です。
高速
上記の低伝搬遅延・低ジッタの特長を活かし、アナログ・デバイセズ社では高速品を多数用意しています。
一般的なデジタルアイソレータは~150Mbpsですが、~200Mbpsに対応しています(全74製品中16製品)。
アナログ・デバイセズ社製品ラインナップ
アナログ・デバイセズ社では、デジタルアイソレータIC単品に加え、アイソレータ+各種トランシーバや、アイソレータ+トランシーバ+絶縁電源をワンチップに内蔵した製品もあり多様なニーズに対応しています。
アナログ・デバイセズ社 アイソレータ+組合せ製品一覧
それぞれの詳細やおすすめ製品は下記リンクよりご参照ください。
アナログ・デバイセズ社 アイソレーションIC ページ
担当エンジニアからの一言
デジタルアイソレータは、従来のフォトカプラに比べ長寿命・高信頼性・高速・低消費電力など多くのメリットがあります。またフェイルセーフ機能や故障検知など、フォトカプラでは外付け回路を必要とする機能を内蔵したデジタルアイソレータが製品化されたりと、近年ますます優位性が高まっています。なかでもアナログ・デバイセズ社の容量絶縁方式デジタルアイソレータ製品は、容量絶縁方式の中でもより少伝搬遅延・低ジッタ・低消費電力という特長があります。あらたにデジタル信号の絶縁回路をご設計される際にはぜひご検討されてはいかがでしょうか。
おすすめリンク
アナログ・デバイセズ社製品取り扱い説明動画集
アナログ・デバイセズ(NASDAQ: ADI)は、物理的世界とデジタル世界の架け橋となり、インテリジェント・エッジでのブレークスルーを実現する、グローバルな半導体企業です。
アナログ・デバイセズは、アナログ、デジタル、そしてソフトウェアの技術を組み合わせて、工場のデジタル化、モビリティ、デジタル・ヘルスケアの進歩に寄与し、気候変動に取り組み、高い信頼で人と世界とを接続するソリューションを実現しています。2022会計年度の収益は120億ドルを超え、世界で約25,000人の従業員と125,000社のお客様を擁するアナログ・デバイセズは、現代の革新者たちに「想像を超える可能性」を提供します。