デジタルアイソレーター MAX12930/31 便利な使い方


通信回路の絶縁用途として、フォトカプラーに代わりデジタルアイソレーターの採用が増えています。
Maxim Integrated®(以下、マキシム社)のデジタルアイソレーター製品には、入力オープン時でも出力をHighもしくはLowに固定する機能(デフォルト出力)を持った製品があります。
本コンテンツではMAX12930/31シリーズを例に外部部品を追加することによりデフォルト出力を変更することができる便利な使い方について説明します。
MAX12930/31シリーズの概要
スペック
デフォルト出力
起動後デジタルアイソレーターに信号が入力されていない状態や入力オープン時など、前段回路に異常がある場合に出力の論理をHigh、Lowどちらかに固定します。
これにより、予期せぬ入力論理不定による後段への影響(信号処理異常など)を防ぐフェイルセーフ機能として用いることができます。これはフォトカプラーにはない機能でフェイルセーフ出力と呼称する場合もあります。
MAX12930/31には、チャネル構成・データレートオプションのすべてにデフォルト出力High品とLow品があります。
入力オープン時のデフォルト出力を変更したい!
一般的に部品選定時は用途に応じてデフォルト出力High品とLow品を使い分けていただきますが、調達の観点から部品の種類を減らしたい場合や、システム仕様が変更になったがICの変更ができない場合などにデフォルト出力値を変更することで対応することができます。
なぜ、このようなことができるのか具体的なICの構造と外部部品追加によるデフォルト出力変更方法について詳しく説明していきます。
ただし、そのためには設計時に外部部品(抵抗)追加用のパターンを用意しておく必要があります。
MAX12930/31の入力段構成
●デフォルト出力High品は電流源を入力側の電源に、デフォルト出力Low品は入力側のGNDに電流源を介して接続しており、電流値は10μAとデータシートp.4の記載から分かります。
●入力回路としては以下図のように入力段に電流源を接続する構成を用いています。
入力信号が存在しない場合や入力がオープンの場合、この電流源でプルアップもしくはプルダウンして入力電圧をVIH以上もしくはVIL以下にすることにより、出力をHighもしくはLowに固定しますが、信号入力端子(IN1、IN2)に抵抗を外部接続することにより、デフォルト出力を変更することができます。
デフォルト出力High品をLowに変更
外付けプルダウン抵抗(Rpd)を追加することで変更可能ですが、その抵抗値はいくつにすべきかでしょうか?
VDDA(またはVDDB)=3.3Vの場合を考えます。
●電流源の最大ソース電流は10μAで、IN1またはIN2の電圧をVinとすると
入力電圧Vin = VRpd = Rpd x 10μA
となります。
●VinをLowとみなす電圧VILはデータシートp.4に記載の通り
VIL=0.8V (2.25V ≤ VDD_ ≤ 5.5V )
ですので、Vin < VILになるようRpdを設定します。
●マージンをとってVin <0.5V とするには
Rpd < 0.5V / 10μA = 50kΩ
となります。
デフォルト出力Low品をHighに変更
外付けプルアップ抵抗(Rpu)を追加することで変更可能ですが、その抵抗値はいくつにすべきかでしょうか?
VDDA(又はVDDB)=3.3Vの場合を考えます。
●電流源の最大ソース電流は10μAで、IN1又はIN2の電圧をVinとすると
入力電圧Vin = VDDA – VRpu = VDDA – Rpu x 10μA
となります。
●VinをHighとみなす電圧VILはデータシートp.4に記載の通り
VIH=0.7 x VDD (2.25V ≤ VDD_ ≤ 5.5V )
ですので、Vin > VIHになるようRpuを設定します。
●マージンをとってVin > 2.8V とするには
Rpu < (3.3-2.8)V / 10μA = 50kΩ
となります。
外付け抵抗値について
- 外付け抵抗の値は、計算で得られた結果よりも小さい値にすることで、ノイズ等の外乱に強くなります。ただし、抵抗値を小さくした場合、通常の通信時におけるMAX12930/31をドライブする側の負荷電流が増加し、回路全体の消費電力が増加しますので、ご使用する回路において問題ないかどうか十分ご確認の上で値を決定してください。
- マージンの取り方はあくまで一例となります。ご使用の環境・場面によってノイズ量や消費電力等を考慮したマージン設定を行い、抵抗値の決定をしてください。
注意事項
- ご検討の際は、実際の回路にて十分なご評価を行ってください。
- MAX12930/31以外でもデフォルト出力が固定されている製品は説明した方法でデフォルト出力の変更が可能です。その中には、データシートにIPU(Internal Pullup Current)、IPD(Internal Pulldown Current)の記載が無い製品がありますが、これは入力段に電流源が内蔵されていない製品です。ICの入力リーク電流(1uA以下)のみ考慮すればよく、より小さい電流=大きな外付け抵抗でプルアップもしくはプルダウンすることが許容されます。
担当エンジニアからの一言
今回は設計時に部品(抵抗)追加用のパターンを用意しておくことで対応できるデフォルト値の変更について説明しました。なお、デジタルアイソレーターにはデフォルト出力以外にもフォトカプラ単品では成し得ない機能・特性がいくつもあり、それらの特長をご理解・ご活用いただければより高機能で信頼性の高い回路を作るのに役立ちますので、あらたに信号絶縁回路のご設計をされる際にご検討ください。
また、絶縁の必要性やさまざまな絶縁方式についての概要・比較を以下のコンテンツで取り扱っておりますので こちらも合わせてご覧ください。