はじめてのSiC(2/2)


SiC-MOSFET vs Si-MOSFET
構造
SiC-MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor) は、電圧制御素子なので駆動電力が小さく、かつIGBTより高速スイッチング可能です。ただし耐圧を高くするためにはドリフト層を厚くする必要がありオン抵抗を低くしにくいというトレードオフがありました。※
SiC-MOSFETは絶縁破壊電界がSiの10倍なので同じMOSFET構造でドリフト層を薄くできオン抵抗を低くできます。
オン抵抗
SiC-MOSFETは耐圧を高くするとオン抵抗も高くなってしまうと述べました。
下図は一例として同じ1200V耐圧30Aの製品でSiC-MOSFETとSi-MOSFETを比較したものです。
それぞれVGS=20V(SiC)@15AとVGS=10V(Si)@15A で比較するとSiCのオン抵抗は約1/2です。
ただしSiCのVGSはMOSFETよりも高いので注意が必要です。
損失
Si-MOSFETよりもSiC-MOSFETがオン抵抗が低いのでSiCのオン時の損失:導通損失は小さくなるイメージ図です。
SiC-MOSFET vs IGBT
構造
SiC-MOSFETの電圧駆動で駆動電力が小さい特長とオン抵抗が低いというバイポーラトランジスタの特長を兼ね備えたものがIGBT(Insulation Gate Bipolar Transistor)です。IGBTはオン抵抗が低いので大容量を扱えますが、オフ時にはドリフト層のキャリアを吐き出すのに時間がかかる「テール電流」により高速でスイッチングさせた場合のスイッチング損失に課題があります。SiC-MOSFETには「テール電流」は無く高速スイッチングが可能です。
オン抵抗
下図は50A定格のSiCとIGBTの電流~オン電圧を比較したものです。IGBTは定格電流で最適化されており、定格電流以下では下図の様にKnee電圧まで立ちあがらず、それを過ぎると急な傾きで立ちあがる特性を示します。一方、SiC-MOSFETでは0Vから立ちあがる直線になっています。実際に良く使われる定格の1/2の領域ではIGBTのVceがおよそ1.35Vであるのに対し、SiCの Vdsがおよそ1Vです。定格以下の領域ではSiC-MOSFETがIGBTよりオン電圧(オン抵抗)が小さくなり導通損失も小さくなっています。
損失
IGBTはオン抵抗が低いので高耐圧・大電流に最適ですが先に述べたテール電流のためスイッチング周波数はだいたい20KHz程度です。先に述べたように定格以下ではKnee電圧のため導通損失も注意が必要です。SiC-MOSFETの場合、スイッチング損失が小さいので周波数は100KHz程度まで実用化されています。定格以下での導通損失も小さくなります。
まとめ
注目されているSiCのパワー半導体について、世の中には多くの記事がありますが、代表的なシリコン MOSFET、IGBTと比較して棲み分けをまとめてみました。
はじめてSiCをご検討される皆様は、ぜひ、ご参考にしてくさい。
エンジニアからの一言
高耐圧で大電流の用途では高耐圧で低オン抵抗が必要です。これはSi-MOSFETでは実現が難しく、従来はIGBTが主役でした。一方、IGBTには高速スイッチングが難しいという課題がありました。これら2つの課題を解決するものとしてSiC-MOSFETが期待されています。
当社では、SiCを複数メーカ取り扱っております。またIGBTやMOSFETは勿論、サイリスタ、トライアックも取り扱っていますので用途に応じて最適なパワー半導体をご提案できます。