意外と知らないヒューズ選定のポイント


今回は保護素子の一つであるヒューズについて、種類や機能概要と選定時のポイントになる電流値について説明します。
ヒューズとは?
ヒューズの概要
ヒューズは電子回路に過負荷電流が流れた際に、回路を切断して電子回路の破損を防ぐために用いられます。
一度回路を切断すると元に戻らないため、主に高い信頼性が求められる電源ラインに使用されます。
ヒューズの概要図
ヒューズの種類
ヒューズには様々な種類があり、用途に合わせて選択可能です。
下記は代表的な表面実装、アキシャル、カートリッジタイプのヒューズです。
アキシャル、カートリッジタイプのヒューズはガラス管ヒューズとも呼ばれています。
ヒューズの構造
ヒューズの種類は様々なタイプがありますが、どのタイプのヒューズも共通して電極間はヒューズエレメントで接続されています。ヒューズはこのヒューズエレメントを切断して回路を保護します。
ヒューズの構造図
ヒューズエレメントの切断方法
ヒューズエレメントには、比較的融点の低い金属を使用します。
そして、ヒューズは抵抗に電流が流れた際に発生するジュール熱を利用し、ヒューズエレメントを溶断することで、回路を切断します。
ヒューズで定義されている電流値
ヒューズは定常状態で流せる電流値やヒューズエレメントを溶断する電流値など、様々な電流値が仕様書で規定されています。
下記図はヒューズ選定で必要となる電流値の一覧です。
それぞれの電流の定義を理解して適切な定格電流のヒューズ選定が必要です。
溶断電流と保持電流
ヒューズは大きく分けて溶断電流と保持電流という2つの重要な電流値があります。
- 溶断電流:ヒューズエレメントが安全に溶断される電流値やその最大値です。
- 保持電流:ヒューズエレメントが溶断されない電流値やその最大値です。
このように、ヒューズは絶対に溶断しなければならない電流と絶対に溶断してはいけない電流に分かれるため、使用されるアプリケーションで流れる様々な電流の確認が必要です。
実際に各電流とデータシートに記載されている定格をどのように確認すれば良いのか見ていきましょう。
過負荷電流
- アプリケーションで異常と判断される電流を指します。
過負荷電流が流れた場合、ヒューズは必ず溶断する必要があります。 - 過負荷電流はデータシートで規定している過負荷電流特性(I-T特性)から仕様を満足しているか確認できます。
- I-T特性は一定の電流が流れ続けて、ヒューズエレメントが溶断するまでの時間を表します。
しかし、異常時に一定の電流が流れ続ける場合には有効な特性ですが、異常時には電流が振動したり、不規則に電流が変動する可能性があります。 - もしピーク電流が一定時間流れると想定してヒューズを選定すると、過剰スペックとなってしまい、異常時にヒューズが溶断しない可能性も出てきてしまいます。
- 実際の異常時の電流波形に対して、適切なヒューズを選定する際にはI2t-T特性が用いられます。
- I2t-T特性とは瞬時の電流値Iを2乗し、その値を積分したものであり、ヒューズに印可されるエネルギに比例します。そのため、電流波形が複雑でも、エネルギ値として評価することで、異常電流波形に対して、溶断する/しないを確認できます。
短絡電流
アプリケーションで異常と判断される電流値の最大値です。
短絡電流値はデータシートで規定されている遮断定格から仕様を満足しているか確認できます。
短絡電流が遮断定格を超えていた場合、ヒューズエレメントだけでなく、ヒューズ自体が破損し、非常に危険です。そのため、短絡電流が遮断定格以下であるヒューズの選定が必須です。
定常電流
- ヒューズに定常的に流れる電流です。
定常電流でヒューズの定格電流が決まります。 - ヒューズの定常電流とはアプリケーションで想定される最大負荷電流に対して、電流(定常)ディレーティングと温度ディレーティングを考慮した値です。
- ディレーティングを考慮した場合の定常電流は下記計算式から算出できます。
- 電流ディレーティングはヒューズの種類や安全規格によって適用される値が変化します。
例えば、UL認定製品の多くは75%を適用しています。
- 温度ディレーティングはヒューズの種類や定常電流によって値が変化します。
そのため、データシートなどでディレーティング特性が記載されています。
下記はLittelfuse社の313 series Datasheetに記載されているグラフです。
突入電流
- 電源オン時などに瞬間的に流れる大電流です。
突入電流は保持電流のため、流れても溶断してはいけません。 - 突入電流はアプリケーションによって流れる電流波形が異なります。
そのため、I2t-T特性を用いて、ヒューズが溶断しないことを確認します。
突入電流電流波形とI-T特性
それぞれのI2t-Tカーブを比較すると、突入電流(赤線)は477series(青線)よりも下に位置しています。また、グラフが最も近い点でも十分なマージンがあることが確認できるため、477series(2A品)に上記のような突入電流が流れても、ヒューズが溶断しないことが確認できます。
まとめ
ヒューズで考慮すべき電流値
ヒューズは下記の電流値を考慮し、溶断電流と保持電流両方の側面から適切なヒューズを選定します。
- 溶断電流
- 過負荷電流
→I-T特性、I2t-T特性から溶断される電流値を確認します。 - 短絡電流
→遮断定格からヒューズの最大定格を確認します。
- 過負荷電流
- 保持電流
- 定常電流
→電流ディレーティングと温度ディレーティングを考慮し、ヒューズの定格電流を決定します。 - 突入電流
→I2t-T特性から溶断されないことを確認します。
- 定常電流
担当エンジニアからの一言
実際のヒューズ選定ではULやPSEなどの安全規格や、定格電圧、サイズや形状と言った別の要素がありますが、今回はヒューズに関わる電流値に絞って説明しました。
短絡電流や、定常電流は容易に確認できますが、I2t-T特性に関しては測定した電流波形を元にグラフの作成が必要です。
弊社はメーカ様と一緒にお客様からいただいた波形からI2t-T特性に変換する作業もさせていただいておりますので、ヒューズ製品の選定でお困りごとがありましたらなんなりとご相談ください。