【3Dマシンビジョン】eYs3Dの高性能ステレオカメラ


目次
1. はじめに: ステレオカメラとは?
ステレオカメラは3次元の情報を認識する3Dマシンビジョン技術の一つです。人間の目が左右の視差(見え方のずれ)で奥行きを認識する原理を応用し、2つのカメラで同時撮影した画像間の視差から、対象物までの距離情報を取得します。この距離情報を含む画像は「深度マップ」や「深度画像」と呼ばれ、3Dマシンビジョン実現に不可欠なデータとなります。
2. ステレオカメラの仕組み
ステレオカメラが距離情報を抽出する中心となる仕組みは、一定の距離(ベースラインB)で配置された2つのカメラによる三角測量です。それぞれのカメラで捉えられたわずかに異なる画像(焦点面fに投影された像)から、対応する点のずれ(視差)を計算します。この視差の大きさから対象物までの距離を算出します。
正確な距離を得るためには、画像の平行化や対応点のマッチング処理が重要ですが、2つの画像間で完全に同じ点を見つけるのは難しく、わずかなずれが生じることがあります。そこで、IRドットプロジェクターを用いて対象物に特殊なパターンを照射し、人工的な特徴点を生成することで、より容易かつ安定した特徴点の抽出が可能です。 これにより、模様の少ない物体や暗い環境下でも、高精度な距離測定が可能になります。
カメラ間の距離(ベースラインB)が大きいほど、またカメラの解像度が高いほど、より遠くの物体の距離を測定できます。
3. ステレオカメラの応用分野
対象物までの距離や奥行き、つまり「深度」の情報がわかると、2次元画像からだけでは捉えられない、多くのことが見えてきます。例えば、対象物の立体的な形状や大きさ、空間の中での位置関係などです。深度マップは、様々な分野で新たな価値を生み出す可能性を秘めています。
以下に、ステレオカメラの応用例をいくつかご紹介します。
![]() お掃除ロボット、配膳ロボット、AMR 障害物検知と回避による安全なナビゲーション、複雑な環境下での自己位置推定(SLAM)、人との協調作業における安全性向上。 |
![]() ドローン GPS非依存環境下での安定自律飛行、精密3Dマッピングによるインフラ点検、測量、農作物生育状況の立体把握など高度な自律運用。 |
![]() 無人店舗 商品欠品検知、顧客行動分析、レイアウト最適化による効率的な店舗運営と顧客体験の向上。 |
![]() 物体計測/認識 製品検査、部品仕分け、ピッキングなど、3次元情報に基づいた高度な計測と認識による自動化と効率化。 |
![]() 顔認証 入退室管理、なりすまし防止による高度なセキュリティシステム構築。 |
4. 3Dマシンビジョンにおける競合比較
3Dマシンビジョンの技術には、ステレオカメラ、LiDAR、ToF、構造化光などがあります。それぞれの技術には得意な分野がありますが、一般的に次のような特徴があります。ただし、これはあくまで大まかな傾向であり、製品の仕様や設計によって性能が異なる場合があります。
項目 | ステレオカメラ | LiDAR | ToF | 構造化光 |
解像度 (点群密度) |
◎ | ◎ | ◯ | ◯ |
得意距離 | 近〜中〜遠距離 | 近〜中〜遠距離 | 近〜中距離 | 近距離 |
精度 | ◯ | 〇/◎ (近/長距離) |
◯ | ◎/△ (近/長距離) |
屋外性能 (太陽光/雨天) |
△ | ◯ | △ | △ |
コスト | ◯ | × | ◯ | △ |
コンパクト | ◎ | △ | ◎ | ◯ |
AI親和性 (画像+深度) |
◎ | △ | ◯ | △ |
ステレオカメラとAIの融合
ステレオカメラの利点は深度マップの取得だけではありません。同時に2次元画像も取得できるため、この情報を深度マップと組み合わせることで、物体認識、トラッキング、異常検知といった様々な用途が広がり、より高度な認識・制御システムを構築することが可能です。
eYs3D社はエッジAI SoCの開発もしており、これらを組み合わせたソリューションもご提供可能です。
5. eYs3D社のステレオカメラ
製品ラインナップ
eYs3D社は、自社開発のISP(Image Signal Processor)機能を内蔵した深度プロセッサーを用いて、ステレオカメラの開発と製造を行っています。現在、eSP876を用いた以下の3製品が主力です。
- G100+: 高性能と低価格を両立
- G62: 超小型・軽量・省電力
- R77: 高解像度のローリングシャッター
製品 | G100+ | G62 | R77 |
製品画像 | ![]() |
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![]() |
特徴・用途 | 長距離/広視野角・SLAM/回避/検出/追跡 | 超小型・回避/検出 | 低コスト/IP65・回避/検出/追跡 |
サイズ L x D x H[mm] |
99.55 x 27.4 x 29.15 | 50.0 x 20.0 x 14.7 | 90.0 x 25.5 x 25 |
ベースライン [cm] |
6 | 3 | 4.5 |
深度動作範囲 [cm] |
25〜190 | 10〜120 | 20〜250 |
カラーモード | RGB | B&W | B&W |
視野角 (FoV) H x V [°] |
95 x 63 | 62 x 43 | 78 x 60 |
解像度 | 1280 x 720 | 640 x 480 | 1280 x 920 |
シャッター | グローバル | グローバル | ローリング |
接続方式 | Type-C | MicroB USB 2.0 |
Type-C |
6. 開発ツール
SDK
eYs3Dは、高性能ステレオカメラの能力を引き出すためのSDKをGitHubで公開しています。
WindowsとLinuxに対応し、深度計測、点群生成、物体認識など、様々な3Dマシンビジョン・アプリケーション開発に必要な機能を提供します。Python、OpenCVに加え、ROS (Robot Operating System) との連携もサポートしており、ロボティクス分野での開発にも適しています。柔軟なAPIと各種サンプルコードを通じて、簡単に開発を始められます。
DMPreview
SDKにはDMPreviewというViewerが付属しており、eYs3D社のステレオカメラを簡単に評価できます。DMPreviewはサンプルコードの一つで、Windows版はVisual Studio、Linux版はQtの環境で作成されています。
以下はDMPreviewの画面例です。Z値(距離)は2mまで表示する設定です。G100+から50cm間隔で小さな段ボール箱を設置しており、一番奥の箱は2mの距離にあります。なお、フィルター設定を有効にしています。
操作画面 (Previewタブ)
DMPreview動画
以下は、G100+ステレオカメラをWindows PCに繋いだ際の、DMPreviewのデモ動画です。
7. まとめ
対象物までの距離や奥行きを示す深度マップは、3Dマシンビジョンによって、2次元画像だけでは捉えられない立体的な形状や空間における位置関係といった重要な情報をもたらします。この技術を活用したeYs3D社のG100+、G62、R77は、各種ロボットの安全かつ効率的な動作やドローンの高度な自律運用を実現し、無人店舗、工場、顔認証など幅広い分野で応用されています。同社の高性能ステレオカメラは、このような3次元認識技術の発展に貢献し、様々な分野での新しい価値を生み出しています。