スーパーキャパシタを用いたバックアップ電源(MAX38888)ソリューション(Part1)
今回はAnalog Devices, Inc.(以下、アナログ・デバイセズ社)のスーパーキャパシタやコンデンサバンクのバックアップ電源レギュレータのご紹介します。なお、Part1ではMAX38888の動作説明、Part2では評価KITでの実機動作確認の説明を行います。
スーパーキャパシタとは
スーパーキャパシタ(以下 SuperCapと表記)またはウルトラキャパシタと呼ばれる電気二重層キャパシタ(EDLC: Electrical Double Layer Capacitor)は以下のような特長を持っています。
- 大容量
- 充放電サイクル寿命に優れる
- 充放電時の損失が低い
このような特長を生かし様々な用途で使用されます。
- 瞬間的にパワーを補う(例:カメラのフラッシュ)
- バッテリの負荷アシスト(例:ポータブル機器)
- 蓄電(例:ソーラー発電機器)
- 主電源OFF時のバックアップ(例:SSDのメモリバックアップ)
しかし、機器のメイン電源電圧とシステム電源電圧、SuperCapの定格電圧がそれぞれ異なり、SuperCapへの充電時とSuperCapからの放電時に電圧変換が必要ですが、MAX38888は単体でそのどちらの制御も可能です。
※本コンテンツではSuperCapの詳細については割愛します。
バッテリや電解コンデンサとの違いは?
それぞれの特長は表.1のとおりです。
このようにSuperCapは電解コンデンサとバッテリそれぞれの優れた特長を兼ね備えています。以降、SuperCapの用途として最も一般的なバックアップ電源を例に説明します。
MAX38888を使うメリット
●メリット
- マイコン等の制御を必要とせずに、単体で動作可能
- SuperCapとシステム電源レールの間で電力を効率的に転送
- 少ない外付け部品(インダクタンス1個、コンデンサ2個、抵抗8個)
●異なる構成との比較
- 降圧コンバータで、メイン電源⇒5Vからシステム負荷⇒3.3Vを生成する構成に電源のバックアップ機能を付加するケースを例にとると、図.1のとおりです。
- この構成の場合、以下4点の考慮が必要となります。
- 印加電圧が5Vなので、SuperCapの耐圧=2.7Vの場合SuperCapは2個必要
- 突入電流防止の電流制限抵抗を追加
- 逆流防止にダイオードの追加
- SuperCapの充電バランス用抵抗の追加
- またSuperCap=10Fの場合、バックアップ時の使用可能電荷量は以下のとおりです。
- 充電電荷量=(10F÷2)×5V=25[C]
- 後段が降圧コンバータなので3.3V生成のためにはSuperCapの使用下限電圧は3.3V。よって使用下限電荷量=(10F÷2)×3.3V=16.5[C]
- 使用可能な電荷量は25[C]-16.5[C]=8.5[C]
- 一方、MAX38888はSuperCapへの充電時は降圧、SuperCapからの放電時は昇圧として動作するため、SuperCapを複数個使用する必要がありません。更に電流制限機能をIC内部に有しており図.2のようなシンプルな回路構成になります。
- 図.1と同様、SuperCapの耐圧=2.7V、SuperCap=10Fの場合、バックアップ時の使用可能電荷量は以下となります。
- 充電電荷量=10F×2.7V=27[C]
- MAX38888はSuperCapに対して0.8Vまで動作可能なので使用下限電荷量=10F×0.8V=8[C]
- 使用可能な電荷量は27[C]-8[C]=19[C]
MAX38888使用時と降圧コンバータに電源のバックアップ機能を付加するケースを比較したものが表.2となります。バックアップ時に使用可能なSuperCapの電荷量が約2倍。つまり、負荷条件が同じであればMAX38888を使用する方がSuperCapの使用数が半分でバックアップ時間は2倍となります。
MAX38888のスペック概要
●スペック概要と参考回路図
・ システム電圧 : 2.5V to 5.0V
・ SuperCap電圧 : 0.8V to 4.5V
・ 最大放電電流 : 2.5A
(ピークインダクタンス電流)
・ Ready電流 : 2.5uA
・ 効率 : 最大95%@Boost
・ パッケージ : 3mm x 3mm x 0.75mm TDFN
・ 動作温度範囲 : -40℃ to +125℃
●推奨回路定数
・ インダクタンス(L1) : 1uH(ピーク電流値が小さい場合は4.7uHまで使用可能)
・ コンデンサ(C1、C2) : 共に22uF(X5RもしくはX7Rのセラミックコンデンサ)
・ 抵抗(R7, R8) : 共に1MΩ(状態フラグ出力のプルアップ抵抗)
MAX38888の動作概要
基本構成を図.3に示します。外付け部品はインダクタンス1個、コンデンサ2個。設定用の抵抗ならびにプルアップ抵抗の記載は割愛してます。
以下メイン電源=3.4V、SuperCap定格電圧=2.7Vの条件で説明します。
メイン電源が供給されている状態を図.4に示します。この状態では、メイン電源はシステム負荷に供給するとともに、MAX38888を経由してSuperCapへ充電を行います。この時MAX38888は降圧の動作となります。
メイン電源が電圧低下または切断された状態を図.5に示します。この状態では、SuperCapが電源ソースに切り替わりシステム負荷への供給を行います。この時、MAX38888は昇圧の動作となります。
MAX38888の動作モード
動作モードは図.6のとおりです。なお各設定値は参考回路図の定数をベースにしています。
①②チャージングモード
- 電源ソースはシステム電圧。Vsys>3.35Vより充電電流=最大0.5AでSuperCapに充電。
- Vcap=2.71Vまで上昇すると充電完了。RDY端子=HIGHにアサート。2.5uAの消費電流のみで動作。
③アイドルモード
- 2.99V<Vsys<3.35Vではアイドル状態。
④バックアップモード
- Vsys=2.99Vで電源ソースがSuperCapに切り替わり、放電電流=最大2.5Aでシステム電圧を維持。BKUPB端子=LOWにアサート。
⑤プリザーブモード
- Vcap=1.42Vまで放電されると2.5uAの消費電流でSuperCapの残容量を維持。
Part1は、以上です。Part2は、下記リンクからどうぞご覧ください。
また、MAX38888の各種情報は下記リンクよりご参照ください。
担当エンジニアからの一言
MAX38888は外付け部品点数も少なくマイコンからの複雑な制御も必要ありません。そのためスペースに制限のあるシステムでは特にメリットがあります。これからバックアップ電源を組み込む予定の方はこの機会に検討してみてはいかがでしょうか。また、Part2では評価KITでの実機動作確認の紹介を行いますので、そちらもあわせてご覧ください。