現場で役立つ パスコンの容量値選定方法
皆さんは、バイパスコンデンサ(以下、パスコンと表記)をどのように選定していますか?
パスコンの容量値の選定方法を見直すことで、パスコンの効果を向上させたり、数やサイズを最適化することによって基板面積の削減を実現できるかもしれません。
本コンテンツでは IC の動作周波数とパスコンの容量値の関係について、実験結果とあわせて説明いたします。
はじめに
パスコンはなぜ必要になるのでしょうか?
まず、パスコンは主に下記2つの目的によって配置します。
1.電源側からのリップルおよびノイズを低減する。
2.IC のスイッチング動作により電源側にノイズを放出することを避ける。
※本コンテンツでは、IC のスイッチング動作によって放出されるノイズのために配置するパスコンを
対象とします。以降で記載する「○○ノイズ」は、全て IC のスイッチング動作によって放出されるノイズ
のことを指します。
IC のスイッチング動作によって電流ノイズが発生します。電流ノイズはオームの法則よりインピーダンスを介して電圧ノイズになります。
I (電流ノイズ) は IC 起因であることから小さくすることはできないため、V(電圧ノイズ)を小さくするためにはZ(インピーダンス)を下げるしかありません。
このインピーダンスを下げる働きをするのがパスコンです。
パスコンの容量値はどのように決めればいいですか?
コンデンサのインピーダンス周波数特性は容量値により異なり、容量値が小さい方が高周波特性が向上します。したがって、IC のスイッチング動作により電源側にノイズを放出することを避ける場合、以下の点に注意してパスコンを選定する必要があります。
1.電源ノイズは IC のスイッチング動作(=動作周波数)によって発生する。
2.IC の動作周波数によってパスコンの適切な容量値が異なる。
本コンテンツでは上記の注意点と実験結果に基づいて IC の動作周波数とパスコンの容量値の関係について説明いたします。
実験
実際に基板を作成して、その基板を用いて実験を実施いたしました。
作成した基板の概要図を以下に記載いたします。
作成した基板は以下の通りです。
Logic IC (SN74LVTH241: 8ch, Non-Inverting Buffer)
今回の基板ではLogic ICをノイズの発生源としています。スイッチング動作によって発生するノイズを大きくするために、基板上では8chの入出力をカスケード接続し、出力は Openとしています。
・SN74LVTH241: 8ch, Non-Inverting Buffer
パスコン
Logic IC の電源端子に接続します。
LDO (TLV713P: 150mA Low-Dropout (LDO) Regulator)
Logic IC に印加する電源電圧を生成します。パスコンの効果を見えやすくするために出力のコンデンサは使用していません。
①J1 に安定化電源を接続し、LDO へ供給する電圧を入力します。
・LDO(TLV713P) から 3.3V を Logic IC へ供給します。
・TLV713P の Dropout Voltage は 約 500mV なので 3.8V を入力します。(3.8V-0.5V=3.3V)
②J2 にシグナルジェネレータを接続し、Logic IC へ信号を入力します。
・3Vpp、10MHz の矩形波を入力します。
③J3 に オシロスコープ or スペクトラムアナライザ を接続します。
・SMA同軸ケーブルを用いて Logic IC の電源端子を測定します。
※実験の制約条件
測定では、J3 から各測定器までSMA同軸ケーブルでつないでいます。そのため、SMA同軸ケーブルがインダクタとして機能するため、測定機器で見えている測定結果はICの電源端子で見えているものとは異なりますが、今回は相対比較として測定を実施しています。
また、本コンテンツではスペクトラムアナライザの測定結果を dBm 単位で表記していますが、この dBm としての単位に大きな意味はありません。パスコンの有無や容量値の違いによって電源ノイズが、どのように変化するかを相対比較するための値として用いています。
IC のスイッチング動作によって放出されるノイズ
IC のスイッチング動作によって放出されるノイズは、スイッチング周波数の基本波と高調波によって構成されています。
IC のスイッチング動作によって放出されるノイズがどのようなものなのかを確認するため、まずはパスコンを接続していない状態で Logic IC の電源端子を測定しました。
オシロスコープの測定結果を以下に示します。
スペクトラムアナライザの測定結果を以下に示します。
電源ノイズは、入力周波数の 10MHz を基本波として、20MHz, 30MHz, 40MHz, … と入力周波数の基本波とその高調波によって構成されていることが確認できました。
つまり、パスコンはノイズを構成している基本波と高調波に対して、効果のある容量値を選定してあげることが必要です。ここでの効果があるとは、「ノイズを構成している周波数成分を落とすことができる」すなわち落としたいノイズの周波数成分に対して十分低いインピーダンスを持っていることです。
理想としては、パスコンが発生している全てのノイズに対して効果を持つことを期待します。
しかし、実際には後述するコンデンサのインピーダンス周波数特性により実現することはできません。そのため、ノイズを構成している周波数成分の中で、より影響が大きい周波数を減衰させることが重要です。
測定結果からは、基本波(10MHz)と2次高調波(20MHz)、3次高調波(30MHz) の周波数成分が-20dBm より大きく、ノイズ成分としてより影響が大きいといえます。
したがって、本コンテンツでは上記3つの周波数を「ターゲット周波数」と定義し、ターゲット周波数でのインピーダンスが十分低くなるパスコンの容量値を選定することを目的とします。
コンデンサのインピーダンス周波数特性
理想のコンデンサのインピーダンス周波数特性
続いて、コンデンサの容量値とインピーダンス周波数特性について考えていきます。
コンデンサのインピーダンス周波数特性は下記、式(1)より求められます。
式(1)を用いて、10uF, 1uF, …10pF の容量値のコンデンサのインピーダンスを計算しました。結果をグラフ化したものを右側に示します。
グラフに記載している赤い縦線はターゲット周波数です。ターゲット周波数でのインピーダンスを下げることができるパスコンの容量値を探してみましょう。
グラフより、以下のことがわかります。
・コンデンサは周波数が高くなるにつれてインピーダンスが低くなる。
・同じ周波数において容量値が大きいほうがインピーダンスが低い。
したがって、ターゲット周波数でのインピーダンスを下げるには容量値の大きい 10uF をパスコンに選定すると最も効果がありそうです。また、高い周波数に対してはさらにインピーダンスが低下していきますので、ターゲットとしていない周波数に対する効果も期待できそうです。
オシロスコープの測定結果から 10uF のパスコンを接続することで、900mVp-p あった電源ノイズが 160mVp-p まで小さくなることが確認できました。
黄色:パスコンを未接続時の測定結果
青色:10uF パスコン接続時の測定結果
スペクトラムアナライザの測定結果からパスコン未接続時と比較して、ターゲット周波数のノイズが下がることが確認できます。しかし、予想と異なり高周波帯におけるノイズはパスコン未接続時と比較してほとんど変化していません。
10MHz で動作している IC から電源側にノイズを放出することを避ける目的で、インピーダンスを落としたい電源ノイズのターゲット周波数を基本波(10MHz)、2次高調波(20MHz)、3次高調波(30MHz)としたとき、10uF のパスコンを接続することで、以下の結果が得られました。
1.ターゲット周波数におけるノイズを小さくできた。
2.電源ノイズのPeak to Peak 電圧を小さくできた。
したがってターゲット周波数に対して、10uF の容量値のパスコンを選定することは適切であったと考えられますが、高周波帯のノイズに対しては期待したパスコンの結果は得られませんでした。
よって、IC を 10MHz より高い周波数で動作させたとき、式(1)より用いたグラフからは適切なパスコンの容量値を選定することは難しい/できないことが考えられます。
ではなぜ高周波帯において式より求められる低インピーダンスの効果が得られなかったのでしょうか。
実際のコンデンサのインピーダンス周波数特性
実際のコンデンサは、理想コンデンサに抵抗成分とインダクタ成分が直列に接続された構成です。したがって、低周波ではコンデンサの容量によるインピーダンスが、高周波では ESL 成分によるインピーダンスが支配的となり、自己共振周波数でのインピーダンスが最小になります。
このため、実際のコンデンザのインピーダンス周波数特性は高周波帯でインピーダンスが高くなっていくV字型です。したがって、高周波帯のノイズがおちていないのは実際のインピーダンス特性が原因と考えられます。
コンデンサメーカのデータをもとに、実際のコンデンサのインピーダンス周波数特性をグラフ化すると、実際のコンデンサのインピーダンス周波数特性はV字型になるので、ターゲット周波数に対してインピーダンスが十分低くなるコンデンサを選定する必要がありそうです。
もう一度、ターゲット周波数に対する各容量値のインピーダンスを確認していきます。
10uFの自己共振周波数は 2〜3MHz で、ターゲット周波数付近ではインピーダンスが増加してきていますが、十分低いインピーダンスを持っていると言えます。
1uFのコンデンサもターゲット周波数に対して 10uF のコンデンサとほぼ同じインピーダンスを持っているので、同等の効果が得られそうです。
0.1uFのコンデンサは 10MHz(基本波)に対するインピーダンスが少し高くなっていますが、20〜30MHz の範囲に自己共振周波数を持っているため、ターゲット周波数に対して効果があると考えられます。
0.01uF以下の容量のコンデンサは自己共振周波数がターゲット周波数より高い箇所にあり、ターゲット周波数でのインピーダンスを低くする効果は期待できそうにありません。
では、ターゲット周波数でのインピーダンスが低くないコンデンサをパスコンとして使用するとどのようなノイズ低減に対してどのような結果が得られるのでしょうか?
100pFのコンデンサをパスコンとして接続し、測定しました。
オシロスコープの測定結果から100pF のパスコンを接続すると、900mVp-p あった電源ノイズは 700mVp-p ほどしか低減されていないことが確認できます。
黄色:パスコンを未接続時の測定結果
青色:パスコン接続時の測定結果
スペクトラムアナライザの測定結果からターゲット周波数はほとんど変化していませんが、高周波帯のノイズを低減していることが確認できます。
ターゲット周波数に対して十分インピーダンスが低くないコンデンサをパスコンとして選定すると、パスコンとしての効果はほとんど得られませんでした。
適切ではない容量値のパスコンを選定するとノイズを低減するという効果は得られません!
したがって、パスコンを選定する際には IC の動作周波数と、動作周波数によって発生するノイズのターゲット周波数を決めて、パスコンを選定する必要があります。
まとめ
パスコンは主に下記2つの目的によって配置します。
1.電源からのリップルおよびノイズを低減する。
2.IC のスイッチング動作により電源側にノイズを放出することを避ける。
IC のスイッチング動作によって放出されるノイズを低減するためにパスコンを接続する場合は、IC の動作周波数に応じて適切なコンデンサの容量値を選択することが必要です。
・電源ノイズは IC を動作させている周波数の基本波とその高調波によって構成されています。
・コンデンサのインピーダンス周波数特性は容量値によって異なります。
・したがって、IC の動作周波数に応じてコンデンサの容量値を選択する必要があります。
・動作周波数に対してコンデンサの容量値が適切ではない場合、期待するパスコンの効果を得ることができません!
担当エンジニアからの一言
今回はICのスイッチング動作によって放出されるノイズを低減するために接続するパスコンの容量値の選定方法について説明いたしました。
IC から放出される電源ノイズは自身のスイッチング動作によって発生していますので、電源ノイズは動作周波数を基本波とした高調波から構成されています。
そのため、パスコンの容量値は IC の動作周波数に応じて選定する必要があります。
本コンテンツでは適切な容量値を選定することをテーマとしていますが、より良いパスコンの効果を得るためにはコンデンサを複数使いしたり、PCB 配線による影響を考慮することも必要です。そのため次回は応用編として、「パスコンのインピーダンスをもっと下げたい」、「期待している効果が得られていない・・・」といった困りごとに対する対策について説明します。
いま皆さんがお使いのパスコンが、本当に期待する効果を得られる選定となっているのか、その確認の一助となれば幸いです。