現場で役立つ パスコンの容量値選定方法 [応用編]
前回は「適切な容量値を選定すること」をテーマにパスコンについて説明しましたが、より良いパスコンの効果を得るためには容量値だけでなく、コンデンサの種類や配線の影響についても検討する必要があります。
今回はこのようなパスコンについての困りごとに対する解決策をまとめてご紹介します。
はじめに
パスコンを選定する際の困りごとや、より良い効果を得るための手法をFAQ形式でまとめましたので、実際に選定・評価する際のポイントとして参考になれば幸いです。
- Q1 : より広範囲でのインピーダンスを下げたい場合、どのようにすればいいですか?
- Q2 : パスコンを電源端子の直近に配置できないのですが、何か影響がありますか?
- Q3 : PCB配線はパスコンに影響を与えますか?
Q1:より広範囲でのインピーダンスを下げたい場合、どのようにすればいいですか?
ICの動作周波数から、パスコンの容量値を見積もることができました。しかし、より広範囲でのインピーダンスを低くしたいのですが、どのようにコンデンサを選定すればいいですか?
より広範囲でのインピーダンスを下げたい場合のコンデンサの選定には3つのポイントがあります。
- 同じ容量のコンデンサを並列に接続する
- 異なる容量のコンデンサを並列に接続する
- ESL の低いコンデンサを選定する
1.同じ容量のパスコンを並列接続する
同じ容量のコンデンサを並列に接続するとインピーダンスが全体的に低くなります。インピーダンスを全体的に低くすることによって、広範囲での低インピーダンスを実現します。以下は、オープンソースで開発されている無償の回路シミュレータ「Qucs Studio」を用いて0.1uFのコンデンサを1〜3個並列接続したときのインピーダンスの周波数特性をシミュレーションした結果です。
- 型番:GRM188B31H104KA92
並列接続することによって、全体的にインピーダンスが下がり、広範囲での低インピーダンスを実現しています。
2.異なる容量のパスコンを並列接続する
異なる容量のコンデンサを並列接続することで、インピーダンスを合成し、高周波におけるインピーダンスを低くすることができます。しかし、並列共振が発生するので注意が必要です。また、ICから見て容量の小さい順に配置するようにしてください。以下は、Qucs Studioを用いて0.1uFと10uFのコンデンサのそれぞれのインピーダンスと並列接続したときのインピーダンスの周波数特性をシミュレーションした結果です。
- 型番: 0.1uF GRM188B31H104KA92
- 型番: 10uF GRM188D71A106MA73
例:Digital ICなど動作周波数が複数あり、電源ノイズが広範囲に発生している場合に有効的な考え方です。
3.ESL の小さいコンデンサを選択する
ESLの小さいコンデンサを選択することで、高周波帯におけるインピーダンスを低下させることが実現できます。以下は、0.1uFのコンデンサのESLに違いによるインピーダンスの周波数特性を比較した結果です。周波数特性はデータシートの記載内容から簡単にグラフにすることができます。
- 型番:GRM188B31H104KA92
- 型番:LLL31MR71H104MA01(低ESL)
低ESLコンデンサを使用することで、自己共振周波数が高くなり、高周波帯におけるインピーダンスも全体的に低くなります。
以上の3つが、より広範囲でのインピーダンスを下げたい場合のコンデンサの選定方法です。
Q2:パスコンを電源端子の直近に配置できないのですが、何か影響がありますか?
パスコンを IC の電源端子の直近に配置できないのですが、問題がありますか?
データシートにて直近に配置するよう指示されていない場合は配置しなくても問題ないでしょうか?
パスコンをどこに配置するかは、電源ノイズの低減に大きく影響を与えます。
なぜならパスコンから電源端子までの配線距離はインダクタとして影響を与えるため、パスコンと電源端子の距離が長いほど大きなインダクタとしてパスコンに影響を与え、高周波帯におけるインピーダンスの増加を招きます。したがって、パスコンはできるだけ電源端子の直近に配置する必要があります。
0.1uFのパスコンを電源端子の直近と電源端子から一番遠い場所にそれぞれ配置して測定を実施いたしました。オシロスコープの測定結果の測定結果を以下に示します。
同じ容量のパスコンでも直近に配置したほうが、電源ノイズがより低減できていることが確認できます。
スペクトラムアナライザの測定結果を以下に示します。
黄色:パスコンを直近に配置
青色:パスコンを1番遠い場所に配置
offset Frequency | no capacitor | 0.1uF 直近 | 0.1uF 遠い |
---|---|---|---|
10MHz | -18.3dBm | -61.2dBm | -51.5dBm |
20MHz | -11.5dBm | -49.0dBm | -39.7dBm |
30MHz | -20.4dBm | -49.4dBm | -40.5dBm |
オシロスコープで測定した結果と同様に、同じ容量のパスコンでも直近に配置したほうが電源ノイズをより低減できていることが確認できます。
以上のことから、パスコンはできるだけ電源端子の直近に配置する必要あることがわかりました。
Q3:PCB配線はパスコンに影響を与えますか?
PCB の配線もパスコンの効果に影響を与えるのでしょうか?
基板を設計する場合、どの点に注意するべきでしょうか?
パスコンの効果については PCB 配線による影響も考慮する必要があります。
なぜならQ2と同様にPCB配線(PCB Microstrip)は パスコンにインダクタとして影響を与えるからです。Microstrip のインダクタンスは、式Aより求められます。
●定義
・ kL =PCB Inductance per unit length Both the metric and
imperial version of the constant are given.
kL = 2nH/cm, or 5.071nH/in
・ l = length of microstrip
・ w = width of microstrip
・ t = thickness of copper
・ h = separation between planes
PCB Microstrip によるインダクタンスの影響を抑えるためには、以下の3点に注意して設計する必要があります。
- 配線長(l)は短くする
- 配線幅(w)は太くする
- 配線層の距離(h)を短くする
以下は、Qucs Studio を用いて PCB Microstrip の配線長の違いによるシミュレーション結果です。
1.配線長の長さ(l)によって生じるインダクタンスの違い
配線長が短いほうがインダクタンスが小さくなるため、高周波帯におけるインピーダンスが下がっています。
●定義
・ l = 10mm, 100mm
・ w = 1mm
・ t = 10um
・ h = 1.6mm 以上の3つが、より広範囲でのインピーダンスを下げたい場合のコンデンサの選定方法です。
2.配線幅の太さ(w)によって生じるインダクタンスの違い
配線幅が太いほうがインダクタンスが小さくなるため、高周波帯におけるインピーダンスが下がっています。
●定義
・ l = 10mm
・ w = 10mm, 1mm
・ t = 10um
・ h = 1.6mm
3.配線層の距離(h)によって生じるインダクタンスの違い
配線層の距離を短くするほうがインダクタンスが小さくなるため、高周波帯におけるインピーダンスが下がっています。
●定義
・ l = 10mm
・ w = 1mm
・ t = 10um
・ h = 1.6mm, 0.06mm
以上のシミュレーション結果から、配線の長さ、太さ、配線層の距離によって影響がでることがわかりました。
担当エンジニアからの一言
今回のコンテンツではパスコンのインピーダンスをもっと下げたい、期待している効果が得られていない・・・といった困りごとに対する対策をFAQ形式で記載しました。
前回は適切な容量値を選定することをテーマとして記載しましたが、より良いパスコンの効果を得るためにはコンデンサを複数使いしたり、PCB 配線による影響を考慮することも必要です。
皆さんが実際に基板の設計・評価を行う際に本コンテンツの内容がより良いパスコンの効果を得るための参考になれば幸いです。