ミリ波レーダーとは
ミリ波とは
ミリ波とは波長がmm単位となる30〜300GHz帯の電波のことを指し、主に4つの特長があります。
- 直進性が強い
- 広帯域幅を確保できる
- カメラやレーザーなどに比べて霧や雨等の環境変化による影響を受けにくい
- 情報伝送容量が大きい
ミリ波レーダーの概要
ミリ波を対象物に照射してセンシングを行う機器がミリ波レーダーであり、対象物の距離や角度といった位置情報、および、対象物との相対速度を高精度に検知することができます。
ミリ波レーダーは21世紀に入り民生レベルへの活用が活発になり、その理由や背景として
- CMOS(Complementary MOS:相補型金属酸化膜半導体)によるRFモジュールが商品化されつつある
- 無線通信や新しい電波応用分野の普及により、利用可能な周波数帯域が不足してきており、
新たな帯域利用にシフトしつつある
などが挙げられます。[1]
ミリ波レーダーは、その天候耐性や高精度測距性から高度道路交通システム(ITS)への応用に注目されている他、超広帯域性(高距離分解能や低電力密度)、小型・軽量、低干渉性などの特長を有する近距離レーダーシステムへの応用が期待されています。例えば、カメラシステムにはない低プライバシー侵害性の観点を活かし、呼吸・拍動などのヘルスケア・モニタリング、浴室内などのプライベート空間での見守り等のアプリケーションへの利用にミリ波センサーが注目されています。[1]
ミリ波レーダーでは24、60、76、79GHz帯のミリ波が主に使用されており、地域やアプリケーションにより利用可能な帯域が異なります。
24GHz帯 | 60GHz帯 | 76GHz帯 | 79GHz帯 | 94GHz帯 | 140GHz帯 | |
---|---|---|---|---|---|---|
日本 | 21.65-26.65 | 60-61 | 76-77 | 77-81 | ||
欧州 | 21.65-26.65 | 76-77 | 77-81 | 139-140 | ||
米国 | 21.65-26.65 | 76-77 | 94.7-95 | |||
ITU-R | 60-61 | 76-77 | 77-81 |
出典:梶原 昭博(2019) 「ミリ波レーダ技術と設計 -車載用レーダやセンサ技術への応用-」 P12
また、各帯域ごとに利用可能な帯域幅が規定されています。例えば79GHz帯においては、帯域幅4GHzのUWB(Ultra Wide Band)で運⽤することが可能です。
ミリ波レーダーの特長
ミリ波レーダーは以下のような特長があります。
1. 直進性が強く、大気や壁による減衰が大きい
2. 回路やアンテナ設計の小型化が可能
3. 広帯域幅による高距離分解能、高角度分解能
4. 天候等の環境変化に強い
1. 直進性が強く、大気や壁による減衰が大きい
ミリ波は直進性が強く、大気や壁による減衰が大きいため電波到達距離がマイクロ波と比較して短いという特長があります。一見するとデメリットのように見えますが、他のミリ波システムへの干渉の観点から長所となります。[1]
例として、複数の部屋にそれぞれミリ波レーダーを設置し、室内センシングを行うケースを見ていきましょう。壁による電波の吸収・反射により隣室のレーダーに干渉を起こすことがなく、また同一周波数を繰り返し使えるため周波数使用効率が高いといった特長があり[1]、屋内近距離レーダーにミリ波レーダーが適していることが分かります。
2. 回路やアンテナ設計の小型化が可能
無線通信機における回路およびアンテナの大きさは、利用する電波の波⻑に依存しています。
そのため、波長の短いミリ波を用いることで回路やアンテナモジュールを小型に設計でき[1]、最終製品の小型化に寄与します。
例として、下図に24GHz帯ならびに79GHz帯ミリ波レーダーに⽤いるパッチアンテナを示します。
周波数が高くなる(=波⻑が短くなる)とアンテナサイズが⼩さくなっているのがわかります。
3. 広帯域幅による高距離分解能、高角度分解能
ミリ波は広帯域幅を利用できるため、レーダーに用いることで高距離分解能を実現できます。(距離分解能は帯域幅の逆数に依存するため、広帯域なほど距離分解能を小さくできます。[1])
例えば79GHz帯の場合、理論上で最小3.75cmの距離分解能を実現可能です。
また、センシングデータをレーダー内蔵もしくは外付けのプロセッサーで信号処理を行うことにより、mm単位未満の動きや1°単位での変位を高精度に測定可能です。
4. 天候等の環境変化に強い
ミリ波の特長として環境変化に強いことは前述しましたが、センシングにもその特長が活かせます。ミリ波レーダーは、雨、霧等の影響を受けにくく、かつ照度変化に関係なく対象物を検知することが可能です。
環境耐性について、他のセンシング方法と比較すると以下のようになります。
まとめ
今回はミリ波レーダーの概要についてご紹介しました。ミリ波レーダーがどのような特徴を持っているのかご理解いただけましたでしょうか?
次回は、ミリ波レーダーの基礎である、距離・速度・角度検出についてご紹介します。どうぞお楽しみに!
参考文献
[1]梶原昭博, “ミリ波レーダ技術と設計 -車載用レーダやセンサ技術への応用-”, 科学情報出版(2019)