MPS 超小型4出力降圧DCDCモジュール MPM54304
低電圧・大電流化にどう対応すべきか?
近年、FPGA、GPUやSoCといったハイエンドデジタルLSIの性能向上が目覚ましく、製造プロセスの微細化が急ピッチで進んでおり、FPGAでは28nmから7nmへ微細化したチップが製品化されはじめています。
デジタルLSIにとって歓迎すべき微細化も電源回路にとっては、同様に歓迎すべき進化ではありません。なぜなら、微細化によってデジタルLSIに供給する電源回路の「低電圧・大電流化」が進んでいくためです。この「低電圧・大電流化」より、電源回路に求められる要件が増し、経験豊富なアナログ技術者をもってしても、電源に起因するトラブルの増大を招いています。
これらの「低電圧・大電流化」に伴う課題を解決する電源ソリューションの一つとして、MPS社は、パワーモジュール ソリューションを提供しています。
パワーモジュールとはどんなものなのか?
MPS社のパワーモジュールは、MOS FETなどのスイッチング素子を内蔵したDCDCコンバータICとインダクタやコンデンサなどの周辺部品を一つのパッケージに収めたものです。
MPS社のパワーモジュールのメリットは大きくわけて三つあります。
1.かんたん設計
DCDCコンバータと周辺部品が1つのパッケージに収められていることで、ユーザは回路定数の設定や部品選定などの電源回路におけるノウハウや手間がほぼ必要なく設計が可能です。
2.コンパクト
DCDCコンバータを使用した場合では二十数点必要であった周辺部品も、最小で入力コンデンサや出力コンデンサのわずか5点ですむため、大幅にスペースを小さく設計できます。
3.豊富なラインアップ
高圧・大電流製品やマルチチャネル出力の製品など、ユーザの設計用途に合わせたさまざまな製品をラインアップしています。
今回は豊富なラインアップの中から2019年 World Electronics Achievement Awardsを受賞した16 [V] 4チャネル出力・降圧レギュレータ・パワーモジュール MPM54304(評価ボード:EVM54304-MN-00A)を紹介します。
MPM54304の特長
マルチフェーズコントロール
MPM54304はデジタル電源管理機能を備えており、内蔵する4つの電源レールをお客様の仕様に合わせて、下図のように4通りの出力が可能です。
この機能により複数の電源ICで構成される回路をMPM54304 1つに置き換えることができます。
すぐに評価を始められる評価ボード
すぐに評価が始められる評価ボードと無償サンプルの提供が可能です。
下記の申し込みフォームより、「無償サンプル希望」とお問い合わせください。
マルチフェーズコントロールの設定手順と温度測定
今回は評価の際に問い合わせの多いマルチフェーズコントロールの設定と高負荷時のチップ温度について、評価ボードを使用して設定手順をご紹介します。
測定条件と評価の流れ
●マルチフェーズコントロールでの動作を確認。
評価ボードの初期設定のシングルフェーズ
・VOUT1 :1.0[V], 3[A]
・VOUT2 :3.3[V], 3[A]
をマルチフェーズ出力で
・VOUT1-2:1.0[V],6[A]
に変更。
●マルチフェーズ出力時のIC表面温度の測定。
今回の評価の流れ
ステップ1:回路図の結線。
ステップ2:Virtual Bench Proで設定。
ステップ3:オシロスコープで動作確認、
ICの表面温度をデータロガーで測定。
EVM54304-MN-00A 測定環境について
ステップ1 回路図の結線
マルチフェーズ出力の結線回路図
マルチフェーズ出力を使用する際の結線方法は、データシートに下記回路図のように接続記載されています。
評価ボードを回路図と同じように結線する。
- VOUT1にVOUT2を接続する。
- FB1にFB2を接続し、FB2の抵抗をはずす。
評価ボードで結線接続した時の写真です。
結線接続が完了してステップ1は終了です。
次にステップ2のVirtual Bench Proの設定に進みます。
ステップ2 Virtual Bench Proの設定
Virtual Bench ProでのMPM54304のレジスタ設定変更方法
Virtual Bench Proの起動、初期動作方法についてはこちらで詳しく説明していますので、はじめて設定を行う方は下記サイトもあわせてご確認ください。
Virtual Bench Pro 3.0 スタートアップガイド MPS社 が提供するPMBus付き電源IC評価用ツールのVirtual Bench Pro 3.0 について、操作方法と合わせてPMBusの特長を説明します。
ステップ1終了時の状態
ステップ1では回路図を結線しただけなので、マルチフェーズ出力はできておらずVOUT2の初期設定の3.3[V]が出力されています。
マルチフェーズ出力を行うための設定方法
期待する1.0[V]、6[A]のマルチフェーズ出力を行うために、下記の四つの設定を変更します。
- VOUT1とVOUT2をParallel mode動作に設定する。
※System設定でBuck1-2をParallel modeを設定すると、Buck1の設定がBuck2に同時に設定されるため、Buck2の設定は必要はありません。 - VOUT1のV_Ref x(出力電圧)を期待値(1.0[V])に合わせる。
- VOUT1のVout_Select x(フィードバック信号)を期待値(1.0[V])に合わせる。
- VOUT1のCurrent Limit x(電流リミット)を期待値(6[A])に変更する。
今回は下記のようにVOUT1の初期値がVOUT2に設定されると、期待値 VOUT1-2:1.0[V],6[A]になるため、Parallel mode動作設定のみで自動的に期待する動作に変更できます。
Virtual Benchの設定
初期設定ではNone-parallel modeのため、Buck1-2をParallel modeに設定する。
Parallel_1をNone-parallel mode(0b0) ⇒ Parallel mode(0b1)に変更します。
※Buck3-4をParallel modeに設定したい場合は、Parallel_2のレジスタを変更します。
面倒なレジスタ設定もVirtual Benchを使えば、GUIから簡単に設定が可能です。
Systemの設定画面からParallel_1のレジスタ設定を変更して、Writeボタンを押します。
今回の期待値では設定はこれで終わりですが、その他の電圧、電流設定にする場合にはV_Ref x(出力電圧)、Vout_Select x(フィードバック信号)、Current Limit x(電流リミット)の設定変更が必要です。
- VOUT1(Buck1)
- Current Limit1を期待値に変更。
- Vout_Select1, V_ref1を期待値に変更。
これらのレジスタ設定もVirtual Benchを使えば、GUIから簡単に設定が可能です。
動作波形の確認
設定を変更した状態で、動作についてオシロスコープを使用して動作確認します。
結果より期待通りマルチフェーズ出力で1.0[V]、6[A]で出力できることが確認できました。
ステップ3 ICの表面温度測定
今回設定したマルチフェーズ出力で、出力電流を6[A]流した時のICの表面温度をデータロガーを使用して確認します。表面温度1分間毎の測定で1時間測定して、51[℃]付近に収束しています。
担当エンジニアからの一言
MPM54304の特長の一つであるマルチフェーズコントロールを確認しました。データシート記載の結線で改造して、 Virtual Bench Proでレジスタを設定することで、簡単にマルチフェーズ出力を実現することができます。
基板では結線接続の改造が必要ですが、スイッチング周波数、過電流保護機能の設定値、Force PWMとAuto Skip Modeなどの切り替えは、PMBusインターフェースを使用して簡単に設定可能です。測定結果からもVOUT1とVOUT2をマルチフェーズコントロールして、出力電圧1.0[V]、出力電流6[A]出力することが確認でき、ICの表面温度測定も1時間測定して51[℃]に収束しており、6[A]出力を行っても発熱による制限はありません。
MPM54304は4chの出力する電源モジュールですが、出力電流値により3ch(例えば、6[A]、2[A]、2[A])や2ch(例えば、6[A]、4[A])とフレキシブルにカスタマイズできる電源モジュールです。多チャンネル出力の高速応答・小型電源ソリューションの一つとして、MPS社のMPM54304をぜひご検討ください。