技術コラム「レシーバープロテクター(レーダー受信機保護)」
航空管制、気象観測、自動運転など、私たちの生活に欠かせない技術となった「レーダー」。レーダーは、強力な電波(マイクロ波)を対象物に向けて送信し、反射して戻ってきた微弱な電波を受信することで、対象物までの距離や方向、速度などを検知します。
このとき、送信する電波はキロワット(kW)からメガワット(MW)級の非常に大きなパワーを持つのに対し、受信する電波(エコー)は非常に微弱です。もし送信時の大パワーの電波が、高感度な受信機にそのまま流れ込んでしまうと、受信機は一瞬で破壊されてしまいます。
この繊細な受信機を、送信時の大電力や、外部からの予期せぬ強力な電波から保護する重要な役割を担うのが「レシーバープロテクター(Receiver Protector)」です。この記事では、レーダーシステムの信頼性と性能を支える「縁の下の力持ち」、レシーバープロテクターについて、その基本から応用までを紹介いたします。
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レシーバープロテクターを理解する前の基礎知識
サーキュレータデュプレクサの構成
多くのレーダーシステムでは、コストやスペースの観点から、一つのアンテナを送信と受信で共用しています。このアンテナの共用を可能にするのが「デュプレクサ(Duplexer)」と呼ばれるコンポーネントです。
デュプレクサは、送信時には送信機からアンテナへ、受信時にはアンテナから受信機へと、電波の通り道を高速で切り替えるスイッチのような働きをします。このデュプレクサの性能が、レシーバープロテクターに求められる性能にも大きく関わってきます。
現在、最も一般的に使用されているデュプレクサであるフェライトサーキュレータは、電力を一方向にのみ循環させる性質を持つ部品です 。
送信機からの電力はアンテナへ、アンテナからの受信電力は受信機へと、効率的に電力を振り分けます。
しかし、サーキュレータの送信ポートから受信ポートへのアイソレーション(遮断性能)は通常10~20dB程度と低く、これだけでは受信機を保護するには不十分です。そのため、サーキュレータをデュプレクサとして使用する場合、後段にレシーバープロテクターを設置することがほぼ必須となります 。
レシーバープロテクターの主要性能
レシーバープロテクターの性能を正しく評価するには、いくつかの専門用語を理解する必要があります。レシーバープロテクターは、他のマイクロ波部品と異なり、主に3つの異なる状態で動作します。
・Low Power State (低電力状態)
レーダーがターゲットからの微弱なエコーを「聞いている」状態です。この状態では、レシーバープロテクターは、受信信号をできるだけ損失なく受信機に通過させる必要があります。
- Insertion Loss(挿入損失):デレシーバープロテクターを通過する際に信号がどれだけ減衰するかを示す値。この値が小さいほど高性能です。挿入損失は、そのままレーダーシステムのノイズ指数(NF)の悪化に直結するため、非常に重要なパラメータです。
- VSWR (電圧定在波比): 伝送ラインとの整合性を示す指標。この値が低い(1に近い)ほど、反射が少なく効率的に信号を伝送できます 。
・High Power State (高電力状態)
入力電力と漏洩電力波形の関係
送信時など、大電力の信号が入力され、受信機を保護するために能動的に動作している状態です。
- 入力信号の把握: 設計において最も重要なのは、入力される可能性のあるすべての高電力信号を正確に把握することです。
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- 通常動作電力: デュプレクサからの漏洩電力と、アンテナでのミスマッチによる反射電力の合計。
- Overload (過負荷電力): システム内でアーク放電などの故障が発生した場合に想定される最大電力。
- 帯域内外の干渉信号: 周辺の他のレーダーシステムや通信機器からの電波。
- 漏洩電力 (Leakage Power): 保護機能が働いている状態で、レシーバープロテクターを通過して受信機側に漏れ出てしまう電力のこと。この漏洩電力の波形は、主に「スパイク」と「フラット」の2つの部分から構成されます。
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- Spike Leakage(スパイク漏洩電力): 大電力パルスの立ち上がり部分で、保護機能が完全に働き始めるまでの短い時間に発生する、一時的に高いレベルの漏洩電力。
- Flat Leakage(フラット漏洩電力 ): 保護機能が安定して働いている間の、一定レベルの漏洩電力。
- ブレークダウン電力 (Breakdown Power):入力電力をさらに増加させても、漏洩電力が減少し始める点が必ずやってきます。漏洩電力が最大となる点の電力値(レシーバープロテクターがアクティブになるポイント)。保護装置がフルに機能し始める直前の、受信機側に漏れ出す最大の電力であると言えます。
回復時間 (Recovery Time)
送信パルスとリカバリータイムの関係
High Power StateからLow Power Stateへ遷移するのに要する時間です 。つまり、強力な送信パルスを出力した後、保護装置が元の「信号を遮断しない状態」に戻るまでにかかる時間のことです。一般的には静止時の挿入損失値の-3dB以内に戻った点までとして定義されます。
この回復時間が短いほど、送信パルスの直後に、より近距離のターゲットを探知できるため、レーダーの最小探知距離を決定する重要な性能指標となります。一方で、回復時間を短縮しようとすると、挿入損失・漏洩電力(Peak)の増加等、設計上のトレードオフが生じる可能性があります。