熱対策:TIM(放熱材料)の選び方について解説
LEDの性能と寿命を最大限に引き出すためには、適切な熱対策が欠かせません。そこで重要な役割を果たすのが、発熱体とヒートシンクの間に挟む「TIM(Thermal Interface Material:熱伝導材料)」です。
しかし、TIMにはシート状やペースト状、絶縁性の有無など様々な種類があります。さらに、データシートの熱抵抗値(K-in²/Wなど)の読み解き方や、熱拡散を考慮した実効面積の考え方など、実際の設計で頭を悩ませるポイントが多数存在します。
本記事では、Luminus社の解説記事より、TIMを選定するための実践的なノウハウをお届けします。厚みの影響から、カタログスペックだけでは分からない熱計算の落とし穴まで、設計者必見の内容です。
今回は、LEDシステムの信頼性を左右する最適なTIMの選び方と熱設計の基本について、分かりやすく解説した記事をご紹介します。
熱対策:TIM(放熱材料)の選び方
TIM(放熱材料)とは?
サーマル・インターフェース・マテリアル(TIM)は、サーマルスタック(熱的積層構造)の接合面(一般的には金属同士)において、熱の移動を促進します。例えば、CFT-90のようなLuminusの高出力デバイス、MCPCB(金属ベースプリント基板)を使用したL2アセンブリ(LEDモジュール)、またはスターボードから、ヒートシンクへ熱を伝達する際の接合面などがこれに該当します。
TIMが接合面のわずかな隙間を埋めることで、接合面を介した熱伝導が大幅に向上します。TIMは、ヒートシンクへの熱伝導を促進するために、高い熱伝導率を持つように設計されています。また、TIMの中には異方性を持つものもあり、これにより面内方向への熱拡散が向上します。以下の図は、適切な熱管理(熱対策)のためにTIMを必要とするLuminus製品の例を示しています。
TIMの種類
TIMにはさまざまな種類があります。以下では、一般的な種類について解説します。
- サーマルペースト / 放熱グリス
これは、部品を接合する前に接合面の片側に塗布する熱伝導性材料です。微小な隙間(ボイド)を埋める能力に非常に優れており、極めて薄いボンドライン(塗布層)を実現できます。ただし、放熱グリスは粘性のある液体の状態を保つため、量産工程で使用する場合、時間の経過とともに作業環境を汚染しやすい傾向があります。また、サーマルペースト自体には機械的な接着強度がないため、部品同士をボルトで固定する必要があります。 - サーマルテープ(熱伝導テープ)
その名の通り、ロール状やシート状で販売されている熱伝導性テープです。テープの両面が粘着面になっており、圧力をかける(加圧する)だけで部品を接合・組み立てることができます。接合に必要な圧力や、最大の接着強度に達するまでに必要な時間は、通常データシートに記載されています。サーマルテープの厚みは厳密に管理されており、多くの場合、製品の型番(部品番号)に反映されています。PSA(感圧粘着剤)タイプのサーマルテープの中には、極めて高い接着力を持つものもあります。このような強力なテープを使用した場合、無理に部品を分解しようとすると、通常は部品の破損につながるため注意が必要です。 - サーマルパッド(放熱パッド)
サーマルパッドは通常、粘着性が低い(あるいは粘着性がない)ため、ボルトと組み合わせて圧力をかけて使用するように設計されています。ヒートシンクに接合する部品の形状に合わせて、ダイカット(打ち抜き加工)することが可能です。導電性タイプと非導電性(絶縁性)タイプの両方が用意されています。サーマルパッドは動作中も固体の状態を保ちます。また、通常サーマルパッドの熱抵抗は、ボルトの締め付け圧力(加圧力)に依存して変化するという特徴があります。 - 相変化材料(PCM:Phase Change Materials)
相変化材料は、通常は粘着性のあるダイカット(打ち抜き加工)された固体であるという点で、サーマルパッドとよく似ています。サーマルパッドとの違いは、特定の温度に達すると材料の基材(マトリックス)の一部が液化し、その温度以上での動作中に流動して微小な隙間を埋めてくれる点にあります。 - グラファイトパッド(黒鉛パッド)
グラファイトパッドは異方性を持っており、厚み方向(貫通方向)の熱伝導率よりも、面内方向(水平方向)の熱伝導率がはるかに高いという特徴があります。これにより、熱拡散性能が向上します。また、グラファイトは導電性(電気を通す性質)を持っています。その他の点においては一般的なサーマルパッドと非常によく似ており、使用する際はボルトで固定(加圧)する必要があります。
これまで解説したTIMの選択肢を踏まえ、設計者は以下のポイントを検討・選択することになります。
- ボルト固定の有無 – 隙間を埋めるためには加圧(圧縮)が必要です。ボルトを使用すれば、持続的な加圧と部品の確実な固定が可能になります。一方、ボルトを使用しない設計の場合は、隙間を埋めてPSA(感圧粘着剤)の粘着力を十分に発揮させるために、組み立て時の加圧力(押し付け圧)が仕様として規定されています。
- 導電性か、非導電性(絶縁性)か
- 成形済み(プレフォーム)か、任意のサイズに手作業でカットするか、ペーストとして塗布するか
- ボンドライン(塗布層)を薄くするか、厚くするか
- リワーク(再作業・再剥離)が可能か、不可か
ここからは、TIMの熱特性について、いくつかの具体例を交えて解説していきます。
熱伝導率と熱抵抗 : 熱伝導率(k)は材料固有の物性値であり、単位は W/(m・K) で測定されます。一方、熱抵抗(R_th)は対象物の形状に依存する値であり、単位は K/W で測定されます。単純な平板(スラブ)形状における熱伝導率と熱抵抗の関係は、以下の式で表されます。
R_th = t/(k・A)(ここで、t は厚さ、A は平板の面積を示します)
R_thは、以下の式を用いた1次元熱解析において使用されます。
dT = P・R_th(ここでdTは平板両端の温度差、Pはワット単位の発熱量を示します)
このオームの法則とのアナロジー(類推)を利用し、熱抵抗を直列や並列に組み合わせることで、システム全体の熱性能(放熱性能)を見積もることができます。
数式から明らかなように、TIMの用途において「ボンドライン(塗布層)を薄くする」「面積を大きくする」ことで R_thを下げることができますが、これには実用上の限界があります。
厚み:ボンドライン(塗布層)を極端に薄くすると、システムにおいて予期せぬ電気的結合(カップリング)の問題を引き起こす可能性があります。導電性のTIMを使用した場合、ヒートシンクがMCPCBの基材と電気的に接続されてしまうことは明らかです。しかし見落とされがちなのは、これがMCPCBの薄い絶縁層(誘電体層)を介して、LEDへの容量結合(静電容量カップリング)を引き起こすという点です。
ボンドラインが薄いと、LEDが電気的な過渡現象(サージやスパイクなど)にさらされるリスクが高まり、結果として市場での突発的な故障(フィールド不良)につながる恐れがあります。非導電性のTIMであっても、容量結合は発生し得ます。サーマルパッドのデータシートに通常、誘電率(比誘電率)の値が記載されているのはこのためです。
熱対策の観点からはボンドラインを薄くすることは有効ですが、このような設計を行う場合は、システムレベルでのEOS(電気的過負荷)保護対策をあわせて考慮する必要があります。詳細については、”Electrical Stress Damage to LEDs and How to Prevent It“ご参照ください。
面積:面積を大きくすれば熱抵抗は下がりますが、難しいのは計算時に正しい面積(A)の値を使用するという点です。1次元の熱計算では、システムを構成する部品の各接合面において温度が均一であると仮定します。しかし、現実にはこのような単純化が成り立つことは決してありません。そのため、R_th(熱抵抗)の計算に使用する面積は、サーマルスタック(熱的積層構造)内における「実効面積」のみを考慮するように補正する必要があります。
極端な例として、1個の3030サイズのLED(3 mm × 3 mm)を、1 m²のPCB(プリント基板)とヒートシンクに実装し、その間に1 m²のTIMを挟むケースを考えてみましょう。
ここで、一般的な数値を当てはめてみます。熱伝導率k= 5 W/(m・K)、厚み t = 0.000127 m(5 mil)とします。
R_th(全面積)=0.000127 m/(5 W/(m・K) ×1m²) = 0.0000254 K/W
(※この値は実際の熱抵抗としてはあまりにも低すぎます)
R_th(LED面積)=0.000127 m/(5 W/(m・K) ×9 ×10⁻⁶ m²)
(※こちらは真の値には近づきますが、MCPCB(金属基板)内である程度の熱拡散が起こるため、実際より高すぎる見積もりとなってしまいます)
では、本格的なFEM(有限要素法)解析を使わずに、どのようにして熱計算の面積を見積もればよいのでしょうか? コンピュータによる解析手法が登場する以前から存在する「2次元熱解析」と呼ばれる手法があり、これが一つの指針となります。検索ツールを使ってインターネットで調べると、「2次元形状係数(2D Shape Factor)の手法」に関する優れた解説が多数見つかります。
最もシンプルな形状係数による解法は、各層を経るごとに有効な一辺の長さ(L)が2倍になり、その結果として面積が(2L)2(=4倍)になると仮定する方法です。したがって、面積Aを持つLEDパッケージがMCPCB(金属基板)に実装され、さらにその下にTIMが配置されている構造の場合、TIMの熱抵抗(R_th)計算に使用する面積は、LEDパッケージの面積の4倍となります。これにより、計算結果は以下のようになります。
R_th(形状係数面積) = 0.000127 m/(5 W/(m・K) × 4×9 ×10⁻⁶ m²)
この手法は非常に簡易的なものであり、得られるのはあくまで「桁感(オーダー感)」を把握するための解です。この概算にはボイド率(気泡や空隙の割合)を考慮する係数が含まれていないため、接合面が完全に密着しているという楽観的な前提に基づいている点にご注意ください。より精密な値が必要な場合は、専門家による本格的なFEM(有限要素法)解析を実施することを推奨します。
熱拡散:一般的な用途では、アルミニウムや銅などの2つの金属の間にTIMを挟み込みます。一般的なTIMの熱伝導率は 1 ~ 15 W/(m・K) の範囲であり、公称熱伝導率がそれぞれ 398 W/(m・K) および 235 W/(m・K) である銅やアルミニウムと比較すると極めて低い値です。また、TIMは通常、MCPCB(金属基板)やヒートシンク構造よりもはるかに薄く設計されています。
これら2つの要因(熱伝導率の低さと薄さ)が合わさることで、金属層と比較してTIM内部における面内方向(水平方向)の熱拡散が抑制されます。以下の図は、この現象を視覚化したものです。
熱流は常に等温線に対して垂直に流れるため、下の図にある赤色の矢印は、サーマルスタック(各層)内における熱流の方向を示しています。TIM(およびMCPCBの絶縁層)を通過する熱流は等温線と平行で垂直方向(直下)に向かうのに対し、TIMの上下の金属層では面内方向への顕著な熱拡散が見られます。同じ厚さであれば、熱伝導率が低いTIMほど、サーマルスタックのTIMより上側の層で大きな熱拡散が生じます。
データシート:ほとんどのサーマルパッドのデータシートには、材料の熱伝導率(W/(m・K))と、選択可能な厚みや圧縮率に基づいて事前計算された熱抵抗値(R_th)の表が掲載されており、それらの値は単位面積あたりで規格化されています。
例えば、以下のような記載が見られます。
熱伝導率 = 5 W/(m・K)(40 mil のテストサンプルにおける測定値)
10% 圧縮時:R_th = 0.41 K・in²/W
20% 圧縮時:R_th = 0.34 K・in²/W
30% 圧縮時:R_th = 0.3 K・in²/W
ここでは、想定する圧縮条件(通常は kPa 単位で表記されます)を選択し、見積もった実効面積で割ることで、これらの値を補正する必要があります。こうしたデータには世界共通の標準フォーマットが存在しないため、多くの単位換算が必要になることを覚悟しておく必要があります。締め付けトルク値とTIMの圧縮率との関係に関する詳細な解説については、Luminusヘルプセンターの記事”What size screw and torque should I use for a Luminus core board product with a compressible TIM?“をご参照ください。
まとめ
LED熱設計におけるTIM(熱伝導材料)選定の重要性とは?
TIM(Thermal Interface Material)とは、LEDシステムなどの発熱体とヒートシンクの間に挟み、空気層を排除して熱伝導を最適化する部材です。今回の記事では、最適なTIMを選ぶための重要なポイントを解説しました。
TIMの選定においては、単に「熱伝導率(W/(m・K))が高いもの」を選ぶだけでは不十分です。例えば、放熱性を高めるためにTIMを極端に薄くすると、MCPCB(金属基板)を介した予期せぬ電気的結合(容量結合)が生じ、LEDの故障リスクが高まる恐れがあります。
また、データシートに記載された熱抵抗値(K・in²/Wなど)を実際の計算に用いる際には、TIM全体の面積ではなく、実際に熱が通過する「実効面積」を適切に見積もることが求められます。TIMは金属と比べて横方向への熱拡散が少ないため、この点を見落とすと実際の放熱性能と計算値に大きなズレが生じます。
システムの寿命と信頼性を確保するためには、放熱性能と電気的保護、そして圧縮率などを総合的に考慮したTIMの選定と熱設計が不可欠です。