電気-LEDのデータシートからSPICEのI-Vパラメータを抽出する方法について解説
回路設計エンジニアの皆様、LEDを使用した回路設計において、シミュレーションの精度向上に課題を感じたことはありませんか?
LED回路をSPICEで正確にシミュレーションするには、正しいI-V特性のモデル化が不可欠です。しかし、データシートにはI-Vカーブのグラフはあっても、SPICEに必要なパラメータ(逆方向飽和電流IS、発光係数N、直列抵抗RS)が直接記載されていることは稀です。
今回のLuminus社技術記事では、データシートのグラフからこれらのパラメータを抽出する実践的な手法をご案内します。グラフの数値を読み取って表データ化し、シミュレータ上でダイオードモデルを実データにフィッティングさせるプロセスを、実例を交えて紐解きます。
精度の高い回路設計に役立つ、LEDデータシートからのSPICEパラメータ抽出手法について、分かりやすく解説した記事をご紹介します。
電気-LEDのデータシートからSPICEのI-Vパラメータを抽出する方法
SPICEは、ダイオードの順方向I-V特性を定義するために3つのパラメータを使用します。SPICEの用語では、これらは以下の様になります。
- IS – 逆方向漏れ電流(逆方向飽和電流)
- N – 発光係数(※他の分野では理想係数とも呼ばれます)
- RS – 直列抵抗
これらは、いくつかの留意点はあるものの、ショックレーのダイオード方程式(+直列項)に対応しています。
- PICEは数値計算手法を用いており、計算の収束を助けるための隠しパラメータが存在します。
- 他のダイオード特性(パルス応答や逆バイアス動作など)を定義するSPICEパラメータは独立して扱われており、モデルは概して単純化されています。
- SPICEが開発された当時、存在するデバイスはシリコンおよびゲルマニウムの拡散ホモ接合とショットキーダイオードのみでした。そのため、SPICEで使用されるデフォルト値は、現在でもこれらの種類のデバイスを反映したものになっています。
モデル定義で使用される「IS」および「N」の値は、ダイオードのターンオン電圧(立ち上がり電圧)のレベルと、I-Vカーブの「ニー(膝:立ち上がり部分)」の形状を決定します。また、直列抵抗は、高注入領域(大電流領域)におけるI-Vカーブの傾きを決定します。
これら3つのパラメータは、LEDのデータシートに記載されているI-Vカーブから抽出することができます。本記事では、Luminusのコンポーネント「SST-10-UV」を例に、この抽出手順をご紹介します。
図1.SST-10-UVのI-Vカーブ(データーシートから抜粋)
まず、上記のI-V特性グラフを数値化(デジタイズ)する必要があります。これには、以前の記事「Data Analysis – Digitize and Interpolate a Plot」で紹介した手法を用いることができます。385 nmのカーブに対してこの処理を行うと、以下の表のようなデータが得られます(※ここでは軸が入れ替わっている点にご注意ください)。なお、今回のデータについては特に補間を行う必要はありません。
図2.図1の385nmのI-Vカーブの数値化(横軸と縦軸が図1から比べて入れ替わっている事にご注意下さい)
ここでは過去の複数の記事で解説されている手法を使用しますが、簡潔にするため、以下ではそれらの参照先を記載するにとどめます。
これらのデータからSPICEパラメータを抽出する最初のステップは、私たちのダイオードモデルと照合(マッチング)できるように、表データをSPICEに組み込むことです。これは、伝達関数の表形式の定義(テーブル定義)を受け付ける電圧制御電流源「Gエレメント(G要素)」を使用することで実行できます。
以下の図は、電圧源、デフォルトのLED、および3点テーブル定義を持つ電圧制御電流源を挿入したプロトタイプモデルを示しています。G1の電圧ノードの極性が、電圧源と一致している点にご注意ください。SPICEにはこのタイプのソース(電流源)に対して2つの定義があり、ここではコンポーネント挿入メニューから「g2」を使用しました。この図は、単純なデフォルト要素を用いてモデルを作成した直後の結果を示す、途中の段階(中間ステップ)のものです。
図3.3点テーブル定義を持つ電圧制御電流源の挿入
表データは、「Component Attribute Editor(コンポーネント属性エディタ)」の「Value」フィールドに入力します。このエディタは、G1シンボルを右クリックすることで開きます。
図4.表データの入力方法
以下の図は、次の手順を実行した後の結果を示しています。
- 変更可能なIS、N、RS値を持つダイオードモデルを回路図(schematic)に追加します。ここでは、開始点(初期値)として青色LEDの値を使用しました。
- Gコンポーネント(Gエレメント)を使用して、目的のI-Vデータをプロットします。
- データに合わせてスイープ電圧を変更します。
ここでの目的は、表で定義されたデータと一致するように、これら3つのSPICEパラメータを変更(フィッティング)することです。より高い電圧(ISおよびN)が必要となるため、適切な傾きになるよう直列抵抗を微調整します。数値の上で右クリックしてモデルの値を変更し、シミュレーションを実行して、プロットペイン(グラフ表示領域)上の変化を確認してください。
図5.IS,N,RS値(初期値)を入力し、シミュレーション実行
5回の試行(パラメータ調整)を経て、設定したデータポイントの低領域と高領域の両方でデータに適合する、今回のパラメータセットを導き出しました。
図6. IS,N,RS値の調整後(5回の試行後)のシミュレーション結果
図7.データテーブルへ2つのデータ点追加による修正(最終結果)
最終結果です。ダイオードモデル「 .model LED-1 D IS=1.0E-21 N=2.7 RS = 0.15 」は、データシートのグラフから数値化(デジタイズ)したデータと良好に適合しています。このLTSpiceファイルは、ページ下部のダウンロードセクションから入手(ダウンロード)できます。
補足事項
- わずか3つのデータ点からこれらの値を直接計算する解析的手法も存在します。しかし私たちの経験上、結局はその計算結果も微調整することになるため、あらかじめ分かっているカーブの形状からスタートし、シミュレーションを繰り返し実行(反復)して最適なパラメータを見つける方が簡単です。
- LEDの場合、N(発光係数)の値は通常2〜10の範囲になります。Nの値が小さいほど、I-Vカーブの「ニー(立ち上がり部分)」がより鋭くなり、順方向バイアス領域におけるカーブの曲がり具合(曲率)が小さくなります。迷った場合は、初期値としてNを2〜3の間に設定してみてください。
- これらのパラメータはすべて相互に影響し合うため、どこを変更すべきか判断するにはある程度の経験が必要です。漏れ電流(IS)は立ち上がり電圧に、Nパラメータは曲がり具合(曲率)に、そして直列抵抗(RS)項は順方向バイアス領域の傾きに強く影響します。1つの値を大きく変更した場合、目的のカーブ(ターゲットゾーン)に戻すためには、通常、他のパラメータも合わせて調整する必要があります。
- SPICE上でリファレンス(参照)カーブをプロットできる機能は、多くの用途で役立つ強力な手法です。今回は電圧制御電流源として「G」モデル(Gエレメント)を使用しましたが、他の入出力の組み合わせに対しても同様に機能する別のモデルが存在します。
- 今回のモデルは、LEDの順方向バイアスカーブに適用されるものです。使用するモデルに一部のパラメータが含まれていない場合、SPICEは自動的に小型のシリコン・ホモ接合ダイオードのデフォルト値を適用します。これにより、時間領域のシミュレーション(トランジェント解析など)において誤った結果を招く恐れがあります。他のパラメータの推定方法については、今後の記事で解説する予定です。現時点での最善策は、類似デバイスのモデルから値をコピー(流用)することです。
- 今回の例ではデジタイズ(数値化)したデータを使用しましたが、ヒートシンクに取り付けたLEDとベンチトップ電源(直流安定化電源)を用いて、実際にI-Vカーブを測定することも可能です。手元にある特定のビン(ランク)のLEDを複数測定すれば、ループ計算やモンテカルロ・シミュレーション(いずれもSPICEエンジンでサポートされています)に適用可能なパラメータのばらつき範囲を把握するのに役立ちます。
- この手法はLED回路全体にも応用(一般化)できます。たとえば、多数の直並列構成(LEDアレイなど)がある場合、回路全体を測定してフィッティングを行うことで、システムモデル内の「負荷」としてそのまま使用することが可能になります。
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まとめ
LEDのSPICEパラメータ抽出手法とは?
LED回路をSPICEで正確にシミュレーションするためには、I-Vカーブを決定づける「IS(逆方向飽和電流)」「N(発光係数)」「RS(直列抵抗)」という3つのパラメータが不可欠です。しかし、これらはデータシートに直接記載されていません。
本記事では、データシートのグラフを数値化(デジタイズ)し、シミュレータ上でダイオードモデルを実データにすり合わせる(フィッティングする)手順を解説しました。ISは立ち上がり電圧、Nはカーブの立ち上がり部分(ニー)の曲率、RSは大電流領域での傾きにそれぞれ強く影響します。各パラメータの役割を理解した上で微調整を繰り返すことで、実際のデバイス特性に忠実なモデルを作成できます。
この手法を習得し、独自にパラメータを抽出できるようになれば、実動作に即した精度の高い回路シミュレーションが可能になります。