意外と知らないサーミスタの温度補償回路
みなさんはサーミスタを使って温度補償回路を組んだことがありますか?
今回はサーミスタの種類や重要スペックと、NTCサーミスタを使った温度補償回路について説明します。
サーミスタとは?
サーミスタ(Thermistor = Thermally sensitive resistor)とは温度変化に対し、抵抗値が大きく変化する半導体素子です。サーミスタには大きく分けてNTCサーミスタとPTCサーミスタの2種類があります。
それぞれのサーミスタについて簡単に説明します。
NTC サーミスタ(Negative Temperature Coefficient)
NTCサーミスタは、温度が上昇すると抵抗値が低下します。
そのため、NTCサーミスタに流れる抵抗値(電圧/電流)を見ることで温度を知ることができます。
PTC サーミスタ(Positive Temperature Coefficient)
PTCサーミスタは、温度が上昇すると抵抗値が上昇します。
NTCサーミスタとは違い、ある一定の温度に達すると、急激に抵抗値が上昇します。
サーミスタの用途
NTCサーミスタの使用用途
NTCサーミスタの温度によって抵抗値が低下する特性を利用して、温度を測定したり、温度によって変化する特性に補償をかけるといった用途で使用されます。
- 温度センシング
NTCサーミスタと抵抗による分圧回路の出力電圧と入力電圧の関係から抵抗値を求め、温度を測定します。 - 温度補償
NTCサーミスタと抵抗による分圧回路の出力電圧によって、温度による特性変化に対して補償をかける。非常に高い精度を求められる場合があります。
PTCサーミスタの使用用途
PTCサーミスタのある一定の温度を超えると抵抗値が急峻に上昇する特性を利用し、温度によって回路を遮断したり、突入電流を制限するといった用途で使用されます。
- 温度保護
- 過負荷保護
- 突入電流制限
今回はNTCサーミスタについて、重要スペックや温度補償時の使用法について説明します。
NTCサーミスタの重要スペックについて
本ツールに関連するアプリケーション
NTCサーミスタは主に3つの重要スペックがあります。
NTCサーミスタは重要スペックによって抵抗の変化が異なるため、これらのスペックを考慮して回路設計を行う必要があります。
R25[Ω]
“R25”は25℃または298.15Kにおける抵抗値を示したスペックです。
サーミスタは温度によって抵抗値が変化するため、標準的な環境温度での抵抗値は非常に重要なスペックとなります。
B定数[℃]または[K]
B定数は温度変化に対する抵抗値の変化を表します。サーミスタに使用されている材料に依存する値であるため、サーミスタの材料の定数ともいえます。
B定数が大きければ温度による抵抗値の変化が大きくなり、逆に小さければ温度変化による抵抗値の変化も小さくなります。
抵抗温度係数[%/℃]または[%/K]
抵抗温度係数は、サーミスタの温度変化に対する感度を示します。
1℃あたりどのくらいの割合で抵抗値が変化するのかを表す係数です。
NTCサーミスタは重要スペックによって抵抗の変化が異なるため、これらのスペックを考慮して回路設計を行う必要があります。
NTCサーミスタの使用例
NTCサーミスタを使用する場合、用途に応じて他の抵抗器や半導体デバイスと組み合わせて使用する必要があります。
精度を求めない場合は単純な抵抗との分圧回路で問題ありませんが、精密な温度検出や温度補償などを行う回路ではサーミスタの3つの重要スペックを考慮しつつ、複数の抵抗を組み合わせる必要があります。
今回は赤枠で囲った回路を例に説明します。
例:LCDのコントラスト電圧の調整
LCDなどは、温度の上昇によってコントラストを失います。
そのため、温度に左右されずに一貫した表示を行うためには温度補償回路を用いて、コントラスト電圧(VL)を調整する必要があります。
温度補償回路はアプリケーションの性能を向上させることができますが、選定する要素が多いため、回路を組むのに非常に時間がかかる可能性があります。
温度補償回路
温度補償回路を組むのは意外と大変
温度補償回路はサーミスタ単体ではなく、温度補償回路全体を考慮して組む必要があります。
そのため、温度補償回路を組む際には下記のような仕様を確認する必要があります。
温度補償回路の場合、抵抗器は2〜3つとサーミスタ1つを選定する必要があります。
さらに、選定後に温度変化によって出力される電圧が仕様通りになっているのかを確認する必要もあります。
また、サーミスタだけを変更した場合も、特性が変化してしまう可能性があることから、抵抗器と組み合わせた回路全体で考慮する必要がある点に注意が必要です。
サーミスタ/レジスタネットワークシミュレーションツール
VISHAY社が提供するシミュレーションツール
温度補償回路は回路を組むのも、その確認にも時間がかかりますが、VISHAY INTERTECHNOLOGY, INC.(以下、VISHAY社)ではこれらを手助けするサーミスタ/レジスタネットワークシミュレーションツールというWEB上で使用できるツールを用意しています。
サーミスタ/レジスタネットワークシミュレーションツールでは何ができるのか?
このツールでは適切な部品選定と回路シミュレーションを一括に行うことができます。
そのため、設計者は出力された結果が問題なければすぐに回路を組むことができます。
このように、VISHAY社のサーミスタ/レジスタネットワークシミュレーションツールを用いれば、非常に簡単にサーミスタ/抵抗の選定と温度補償回路を組むことができます。
まとめ
サーミスタとは?
- 温度によって抵抗値が大きく変化する半導体素子です
- NTCサーミスタ:温度上昇によって抵抗値が低下します
- PTCサーミスタ:温度上昇によって抵抗値が上昇します
サーミスタの用途
- NTCサーミスタは温度検出や温度補償回路に使用されます
- PTCサーミスタは高温時の回路保護に使用されます
NTCサーミスタの重要スペック
- R25: 25℃または298.15Kにおける抵抗値
- B定数: B定数は温度変化に対する抵抗値の変化を表し、大きければ高感度、小さければ低感度
- 抵抗温度係数:1℃辺りどの程度抵抗値が変化するかを表します
サーミスタ/レジスタネットワークシミュレーションツール
- VISHAY社が提供するWEB上で使用できるツールです
- 温度補償回路などのサーミスタと抵抗器を選定・シミュレーションまで行うことができます
担当エンジニアからの一言
今回はNTCサーミスタに注力して、使用用途や温度補償回路時の使用方法について説明させていただきました。実際に温度補償回路ではサーミスタ単体ではなく、回路全体で選定していく必要がある点は、かなりハードルが高いと感じますが、VISHAY社のツールはそれらを一括で行ってくれるため、非常に便利なツールであると考えられます。
是非みなさんもVISHAY社のツールを使った温度補償回路を組んでみてはいかがでしょうか。