はじめてのNAND フラッシュメモリ Part2 ~フラッシュ基礎編~
今回の記事は、NANDフラッシュ製品をはじめて取り扱うお客様やご検討いただくお客様を対象として、NANDフラッシュメモリを使用する場所、役割について、4回に分けて説明します。2回目となる今回(Part2)は、FLASHメモリの基礎について説明します。
はじめてのNAND フラッシュメモリ Part1 ~メモリ基礎編~はこちら>>
はじめてのNAND フラッシュメモリ Part3 ~知っておきたいNANDフラッシュメモリの特長~はこちら>>
はじめてのNAND フラッシュメモリ Part4 ~知っておきたいNANDフラッシュメモリ製品の機能 ~はこちら>>
フラッシュメモリのセル構造
フラッシュメモリはどんなセル構造?
- フラッシュメモリセルの構造
データを記憶する場所である”メモリセル”の構造は、通常のトランジスタ構造(ソース、ドレイン、コントロールゲート)の他に、電気的にどこにも導通していない板(フローティングゲート:FG)が、コントロールゲートの下にあります。
また、フローティングゲートの下には、薄いシリコン酸化膜(トンネル酸化膜:10nm程度の厚さ)があります。この酸化膜を通って、フローティングゲートに電子が蓄積されたり、引き抜かれたりします。
次に、フラッシュメモリセルのデータ記憶の仕組みについて説明します。
フラッシュメモリのデータ記憶方法
フラッシュメモリは、どうして記憶できるの?
- データ記憶の仕組み
データ記憶の仕組みは、メモリセルトランジスタの特性を変えることで実現しています。
トランジスタのコントロールゲートに与える電圧を徐々に上げて行くと、ある電圧でソースとドレイン間が電気的に導通します(電流が流れる状態)。この時のゲート電圧Vgを、しきい値電圧(threshold voltage:Vth)といいますが、メモリセルトランジスタのフローティングゲートに電子を溜めることによって、このしきい値電圧を変えることができます。この特性を利用して、メモリセルにデータを記憶しています。 - メモリセルへのデータ記憶(書き込み/消去状態)
フラッシュメモリのフローティングゲートに電子が溜め込まれると、メモリトランジスタのしきい値電圧Vthは、高くなります。このメモリセルの状態を書き込み(または、プログラミング)状態といいます。(図の右側:データ”0”の状態)
一方、フローティングゲートから電子が抜かれると、メモリトランジスタのしきい値電圧Vthは、低くなります。このメモリセルの状態を消去状態といいます。(図の左側:データ”1”の状態)
メモリセル1つに対し、前述したメモリセル状態のどちらかをセル周辺回路で実現し、その状態を維持することで、1つのデータ(”0”または”1”の1bit)を記憶することができます。
次に、フラッシュメモリセルトランジスタの読み出し動作について説明します。
フラッシュメモリのデータ読み出し方法
フラッシュメモリセルから、どうやってデータを読み出だすの?
- メモリセルの読み出し
メモリセルのドレインに定電圧を加え(例えば1V)、ONセルのしきい値電圧Vth(on)とOFFセルのしきい値電圧Vth(off)の中間電圧(Vgm)をメモリセルのゲートに印加します。 - フラッシュメモリセルがonセルの場合、ゲート電圧Vgmによりフローティングゲート下のシリコン基板にチャネルと呼ばれるエリアが現れ、ドレインからソースに向かってId電流が流れます(IdーVgグラフでは、Vgmの破線とonセルの曲線の交点(赤丸部)の電流Idが流れます)
- フラッシュメモリセルがoffセルの場合、ゲート電圧Vgmを印加しても上記チャネルは現れず、ドレインからソースに向かってId電流はほとんど流れません(Id-Vgグラフでは、Vgmの破線とoffセルの曲線の交点(青丸部)の電流Id(≒0)となります)
この電流Idをセンスアンプ(電流検知)回路で電圧に変換して、例えば電流Idが流れるONセル状態を”Highまたは1”、Id電流が流れないOFFセル状態を”Lowまたは0”としてデータを取り出します。
次に、NOR フラッシュメモリとNANDフラッシュメモリの違いについて説明します。
フラッシュメモリセルの構成(NORとNAND)
NOR フラッシュメモリとNAND フラッシュメモリの違いは何?
フラッシュメモリセルの構成は、前述した各端子に必要な電圧を印加できるよう配線で接続されていますが、その構成タイプはNOR型とNAND型の2種類です。最初に実用化されたセル構成は、NOR型のフラッシュメモリで、各メモリーセルに均等に電圧を印加しやすくセル電流も大きく取りやすい構成です。NAND型は、構成上メモリセルの密度を上げられるますが、NOR型に比べてセル電流が小さいため、読み出しに時間がかかり、書き込み状態を高精度に制御することが要求されます。
- NOR フラッシュメモリとNAND フラッシュメモリのメモリセル構成
主構成要素:メモリセル、ビット線、ストリングス、ソース線、ワード線、消去ブロック、電流検知回路(センスアンプ)
①NOR型:すべてのメモリセルがソース線(Vs)とビット線に接続されている
②NAND型:複数のメモリセルが直列につながり、その縁端をソース線(Vs)と(グローバル)ビット線にトランジスタで接続されたストリングを形成している
共通:
ソース線はメモリセルの消去単位でまとめられており、データを消去する際に、メモリセルに一括に消去電圧を加えられる構成(消去ブロック)を形成
ワード線は、ビット線と直行方向にビット線の数だけコントロールゲートに共通に接続(図解省略) - メモリセルサイズの違い
NAND型は、メモリセルが直列に接続されているのでソースとドレインが共用されかつ、ビット線につながる配線(コンタクト)の数も少ないので、メモリセル面積を小さくすることができます。
一方、NORはメモリセル1つ(または2つ)毎にドレインとビット線を接続する配線(コンタクト)が必要になるため、大きな面積が必要になります。同一プロセスで製造した場合、概ねNAND型の2.5倍程度必要とされています。
次に、NORフラッシュメモリとNANDフラッシュメモリの特徴について説明します。
フラッシュメモリセルの構成(NORとNAND)
NOR フラッシュメモリとNAND フラッシュメモリのセル構成(詳細)
実際のメモリセル構成は、複数のビット線で構成されており、その回路図を以下に示します。
- NOR フラッシュメモリの回路的特徴
メモリセルの電流パスは、センスアンプから見ると、セレクトトランジスタとビット線と選択メモリセルとなり、配線抵抗が小さいため、センスアンプによるON/OFF電流判定は素早く完了します。どのメモリセルもほぼ同条件でアクセスできるのでランダムなアドレスのアクセスをしても同様のパフォーマンスとなります。 - NAND フラッシュメモリの回路的特徴
メモリセルの電流パスは、センスアンプから見ると、グローバルビット線とセレクトトランジスタとローカルビット線と非選択メモリーセル(ゲート電圧をOFFセルのVthより高くして導通させる)を複数段と選択メモリセルとなり、配線抵抗が高く、センスアンプによるON/OFF電流判定は遅くなります。ただし、NANDフラッシュメモリのセル構成は、グローバルビット線上すべてにセンスアンプが配置されていますので、1回の読み出し(ワード線での選択)でワード線上のメモリセルをすべてセンシングしデータレジスタにデータを保存します。その後、必要なデータをクロックに同期して出力できますので、シリアルなデータの転送速度は速くなります。
NORフラッシュメモリとNANDフラッシュメモリの特性比較
NOR フラッシュメモリとNAND フラッシュメモリの特性は何が違う?
- NOR フラッシュメモリとNAND フラッシュメモリのデバイス特性まとめ
フラッシュメモリの主要な特性に対する、NOR フラッシュメモリとNAND フラッシュメモリのおおよその特性値を表に示しました。
特徴的なのは、NANDフラッシュメモリはメモリセル電流が小さいため、ランダムアクセス(ランダムなアドレスを指定してアクセスするスピード)はかなり遅くなりますが、その分メモリ容量が大きくなっています。
まとめ
NANDフラッシュメモリ製品(SD Card,eMMC,SSD等)は、NANDフラッシュメモリチップに加え、NANDコントローラチップおよびファームウェア(制御プログラム)を搭載し、NANDフラッシュメモリ単体では使いづらい特徴や性能をカバーしています。Part3では、NANDフラッシュメモリ製品の特徴や特性について紹介いたします。