はじめてのNAND フラッシュメモリ Part3 ~知っておきたいNANDフラッシュメモリの特長~
NANDフラッシュ製品をはじめてご検討いただくお客様を対象に、NANDフラッシュメモリについて4回に分けて説明しています。3回目となる今回(Part3)は、「知っておきたいNANDフラッシュメモリの特長と選び方」について説明します。
はじめてのNAND フラッシュメモリ Part1 ~メモリ基礎編~はこちら>>
はじめてのNAND フラッシュメモリ Part2 ~フラッシュ基礎編~はこちら>>
はじめてのNAND フラッシュメモリ Part4 ~知っておきたいNANDフラッシュメモリ製品の機能 ~はこちら>>
NANDフラッシュメモリの特長(1)
マルチレベルセル(Multi Level Cell)《多値化技術》
- マルチレベルセル技術(SLC/MLC/TLC)
メモリの開発は、如何にビット単価(チップ価格/メモリ容量)を下げるかに、しのぎを削ってきました。その手段としては、より細かな加工ができるプロセスを開発し、メモリセルの単位面積あたりのメモリ容量を大きくすることでビット単価を下げています。
では、ビット単価を下げる方法は、それ以外無いのでしょうか? SRAMやDRAMでは難しいのですが、不揮発性のフラッシュメモリにおいては、データの書き込み状態をうまく制御することで、1つのメモリセルに2bit以上のデータ(例えば”11”,”10”,”01”,”00”の4値=2bit)を持たせることでメモリ容量を大きくしビット単価を下げています。この複数のデータを持ったセルのことをマルチレベルセル(多値化)と言います。具体的には、データの書き込みレベル(メモリセルしきい値)を複数設定することでMLCを実現しています。
現在、2bitのデータを持つメモリセルをMLC (Multi Level Cell)、3bitのデータを持つメモリセルをTLC (Triple Level Cell)、4bitのデータを持つメモリセルをQLC(Quad Level Cell)と呼び区別しています。また、1bitのデータを持つメモリセルをSLC (Single Level Cell)と呼んでいます。
下図は、フラッシュメモリチップにデータを書き込んだ際に、メモリセルのしきい値がどのように分布しいているかを表した分布図です。横軸にフラッシュメモリセルのしきい値(V)を取り、縦軸はメモリセルのカウント数を表したグラフを示しています。SLCは1bit(2値)なので2か所、MCLは2bit(4値)なので4か所、TLCは3bit(8値)なので8箇所に分布しています。現在のNANDフラッシュにおいては、このマルチレベルセル技術は必ず使われコスト低減に貢献しています。
NANDフラッシュメモリの特長(2)
不揮発性メモリセル(non-volatile memory cell)
- 不揮発性メモリセルの特性
フラッシュメモリは、フローティングゲートに電子を溜めることでデータを記憶し、電源電圧が切れても、その電子は保持されています。再びデバイスの電源を入れると、記憶したデータを読み出すことができます。これが、不揮発性メモリの最大の特徴です。それでは、この電子はずっといつまでもフローティングゲートに保持されているのでしょうか?
答えは、ノーです。
フローティングゲートに保持されている電荷は、ある確率で少しずつ抜けていき、いずれは正しいデータが読み出せなくなります。では、その原因はなんでしょうか?1つは、フローティングゲートの絶縁状態を保っている酸化膜の劣化です。これは、メモリセルに対し書き込み(Program)と消去(Erase)を繰り返すことによって、酸化膜の絶縁性が低下することで電子が抜けやすくなります。電子による酸化膜の物理的な破壊や酸化膜中の電子トラップ(捕獲)がその要因と言われています。もう一つは、フローティングゲート内の電子のエネルギーが周囲の熱により高くなり、酸化膜のエネルギー障壁を越え電子が抜けやすくなります。
以上の理由から、フラッシュメモリ製品を適正に選択するためには、メモリセルへの書き込み/消去の回数と、デバイスの使用環境温度を意識することが重要です。
NANDフラッシュメモリの特性(1)
書き換え寿命(P/E cycle,Endurance)
- 書き換え寿命(P/E cycle,Endurance)
1つのメモリセルに対し、データ書き込み(Program)/消去(Erase)が何回できるかをあらわした特性で、頭文字をとってP/Eサイクル(又はEndurance:寿命)と言います。メモリセルに何度も書き込み/消去を繰り返すと、電子を保持しているフローティングゲート直下の酸化膜(絶縁膜)が劣化し、電子を保持できる能力が低下して、ある一定期間以上経つと読み出しが正しくできなくなったり、酸化膜破壊によりまったく書き込み/消去ができなくなったりします。この時のP/E回数を寿命(Endurance)としています。
現在、多値セル(MLCやTLC)を使ったNANDメモリ製品において、その寿命(P/Eサイクル)は、概ね3K回程度となっています。下図は、P/Eサイクルにより、ある一定期間(この場合1年)以上経つと、正しくデータを読み出せなくなる場合の一例です。メモリセルのしきい値は、時間が経つに連れて左にシフトします。その変化量は、P/Eサイクルが多いほど、大きく左にシフトしています。赤い点線より左にシフトすると正しく読めなくなります(セルの寿命と考えます)。また、1bitセル(SLC)では、多値メモリの10倍程度の寿命です。製品の仕様によって、値は変わりますので、データシートの確認が必要です。
NANDフラッシュメモリの特性(2)
データ保持(Data Retention)
- データ保持(Data Retention)
メモリのデータが正しく読めなくなる(読み出しエラー発生)までの時間を表しています。読み出しエラーは、フローティングゲート内の電子が時間とともに徐々に抜け、データを期待値通りに読み出せなくなることで起こります。(図A、図B)は、P/Eサイクル3000回のメモリセルのしきい値推移で、正しく読める期間は1年(DR=1年)であることを示しています。(注:データを1度書き込んで以降、再度データを上書きしない状態を想定しています。)
フローティングゲート内の電子は、デバイスの使用環境温度TaやメモリセルのP/Eサイクルに大きく依存する為、そのパラメータと合わせて考える必要があります。例えば、周囲温度Ta=55℃(平均),P/E=3Kcyc.の製品のデータリテンションが1年である製品は、P/EサイクルをP/E≦300cyc.とすると、そのデータリテンション特性は10年になります(図C)。また、周囲温度がTa=55℃(平均)→Ta=40℃(平均)にすると、例えばデータリテンション特性は6.4倍程度長く見積もることもできます(図D)。これらの依存性はNANDフラッシュメモリ製品メーカに確認が必要となります。
フラッシュメモリ製品の選択方法
CPUが必要なメモリ容量だけではダメ?
通常、メモリ容量はCPUから要求されるアドレス空間やソフトウェアが必要とするメモリ容量によって選択されています。当然、メモリ容量が小さい方が価格が安いため、小さい容量の製品が選択されます。では、NANDフラッシュも同じ方法で、選択しても良いでしょうか?
答えは、ノーです。
上記で説明しましたように、データリテンションが、P/Eサイクルや使用環境の温度によって変わって来ますので、採用検討段階で適切に見積もる必要がございます。
フラッシュメモリ製品の容量選択(1)
P/Eサイクル(Endurance)からのメモリ容量選択方法
- Data Retentionを気にしなくてよい場合
Data Retention期間内に、データにアクセスする(通電する)ような使用方法の場合、P/Eサイクルだけを考えて、製品を選択できます。これは、最近のNANDフラッシュ製品にはデータの保持状態を自動で監視する機能が搭載されており、通電している間にメモリセルのしきい値を元に戻す機能(AutoRefresh)が搭載されているからです。
例えば寿命がP/E=3KサイクルでDR1年のNAND製品の場合、使い方として書込み1GB/日 (1日<DR1年)のアプリケーションでは、年間書き込み量は、1GB/日x365日=365GB/年となります。10年間の可動を想定した場合、365GBx10年=3.65TBとなります。
この時、NAND製品のメモリ容量が8GBでNAND製品のセル寿命が3K回であるならば、8GB x 3Kcyc. = 24TB > 3.56TB となるので、NANDメモリの寿命に達しないと見積もることができます。
また、NAND製品の寿命として総書き込み量(TBW:Tera Byte Witten)で記載されている場合は、その値と比較し仕様内でのデバイスを選択します。
フラッシュメモリ製品の容量選択(2)
データリテンションからのメモリ容量選択方法
- Data Retentionを考慮する必要がある場合
Data Retention期間内に、データにアクセスしない(通電しない)ような使用方法の場合、P/EサイクルとData Retentionを考えて製品を選択します。
例えば、MLC/TLCのNANDフラッシュ製品のDRは、以下の期間無通電(Power_OFF)の状態でデータを保持します。
・周囲温度Ta=55℃,P/E≦3Kcyc.の場合、データリテンション(DR)は1年
・周囲温度Ta=55℃,P/E≦300cyc.の場合、データリテンション(DR)は10年
それに対して、搭載装置が要求する無通電時のDRが2年だった場合、P/E=301cyc~3Kcycでは、DRは1年となるので、P/Eサイクルが300回以下になるようにデバイス容量を大きくします。
先ほどの使用例(10年間で3.56TBの書き込み)で考えた場合、8GB製品でのP/Ecycは、3.56TB÷8GB=445cyc.となり300cycを上回ってしまいますのでDRを満足しません。このような場合、16GB品を選択することで、P/Ecycは、3.56TB÷16GB=223cyc.となり、P/Ecycは300cycに抑えられ、DRを満足することができます。