はじめてのワイヤレス給電
ワイヤレス給電とは?
電気で動作する電子機器は、その動力として電力を必要とします。
「ワイヤレス給電」とは、文字通り、電子機器の動力である電力を「ワイヤレス」=「無線」で供給する技術です。
以下の用語も「ワイヤレス給電」と概ね同じものを意味します。
<ワイヤレス給電とほぼ同じ意味の用語>
・ワイヤレス電力伝送、 無線電力伝送、 WPT、 Wireless Power Transfer、 Wireless Power Transmission
・ワイヤレス充電、無線充電、 非接触充電、無接点充電
本記事では、日本においてもっとも一般的な「ワイヤレス給電」で用語を統一します。
ワイヤレス給電の狙いとは?
「ワイヤレス給電」と対比する技術は「ワイヤード給電 : 有線での電力供給」です。
皆様がお使いの電子機器におけるコンセントにつなぐ電源ケーブルやACアダプタです。
電源タップにタコ足配線していませんか?
これをなくそう!というのが、「ワイヤレス給電」のコンセプトの一つ (無線送電) です。
また、「バッテリー : 二次電池」も関連する技術です。
皆様がお使いのスマートフォンやスマートウォッチ、ワイヤレスイヤホンのよう機器は、移動するため電源ケーブルはありません。その代わり、「バッテリー」にためたエネルギーで動作します。
「バッテリー」にためたエネルギーは使えば減っていきます。よってこのような機器は、「バッテリー」を交換するか、先の電源ケーブルやACアダプタに一時的につないで充電するか、の必要があります。
この有線による充電をなくそう!バッテリー交換をなくそう!というのも、「ワイヤレス給電」のコンセプトの一つ (無線蓄電)です。
ワイヤレス給電による未来の姿とは?
「配線のない世界を実現する」 これがワイヤレス給電が実現したい未来の究極の姿です。
情報の伝送は電力の伝送より先行して無線化が進んでいます。
30年前はイーサーネットケーブルでPCを接続していましたが、現在では Wi-Fi で大量の情報が伝送されています。同様に電話も昔はダイヤルと受話器がありましたが、現在ではスマートフォンで、電話だけでなく映画も見ることができます。余談ですが、スマートフォンの電話のアイコンは受話器がシンボル化されていますが、最近の子どもはそれが何なのかわからないようです…言われてみれば確かにそうかもと思いますね。
話は少しそれましたが、情報の無線化により取り残された電力の無線化を実現することにより、「配線のない世界を実現する」 これが究極の目標です。
ワイヤレス給電の構成要素
どんな「ワイヤレス給電」でも、送り側 (送電器 : Power Transmitter : PTx) と受け側 (受電器 : Power Receiver : PRx) で必ず構成されます。
送電器は外部から電力を供給してもらう必要があります。(通常これは有線です。)
受電器は外部へ電力を供給します。(通常これを負荷と呼びます。)
送電器 : 受電器 = 1 : 1 となる対の構成が基本形ですが、「ワイヤレス給電」の方式によっては、送電器 : 受電器 = 1 : N となるような場合や、送電器 : 受電器 = N : 1、送電器 : 受電器 = M : N となるような場合もあります。(方式に依存します)
送電器は系統電源よりAC100VもしくはAC200Vから電力を供給し、AC/DC、DC/DC を経て、DC/〇〇変換器で直流電力をワイヤレス給電に用いる物理的な媒体に変換し、○○放射器で空間に放射します。
受電器は〇〇吸収器でワイヤレス給電に用いられた空間の物理的な媒体のエネルギーを吸収し、○○/DC変換器で直流電力に変換したのち、充電器で蓄電素子に充電します。また、蓄電素子からDC/DCを経て負荷に電力を供給します。
ここで、ワイヤレス給電に用いられる物理的な媒体とは、例えば電磁波 (電波、光) で、波の性質を持つ媒体を主に利用します。
ワイヤレス給電システムの選定のヒント
具体的なワイヤレス給電システムの種類や特徴の議論に入る前に、選定するうえでのポイントについて先にまとめておきたいと思います。
ポイント1 : ワイヤレス給電で解決したい課題の明確化
まず、ワイヤレス給電を選定する以前に、「ワイヤレス給電で解決したい課題が本当にあるのかどうか」をよく考えることが重要だと思います。ワイヤレス給電はタダではありません。追加費用を払って導入するだけの意義があるのでしょうか?シーズ先行ではなく、ニーズから始めることが、成功の秘訣であると考えます。
ポイント2 : ワイヤレス給電の選定における妥協点の明確化
おそらく世の中に皆様が思い描く完璧なワイヤレス給電システムはありません。選定に際し何かしらの妥協は必要になります。その際、何が譲歩できて、何が譲歩できないのかを明確にしておくことも重要です。
以下に考慮すべき項目を列挙してみます。
| 項目 | 内容 |
| 設置条件 ・送電器-受電器間距離 ・送電器設置場所・設置方向の自由度 ・受電器設置場所・設置方向の自由度 ・送電器-受電器間の障害物の有無 ・送電器、受電器近傍における人体の有無 |
どんな環境で使いたいのか明確にしましょう。 どこでも使えるという具体性のない要求は、結果的にどこにも使えないものが出来上がる可能性があります。 制約条件や必須条件が明確であるほど、適切に選定することができます。 |
| 受電エネルギー (受電電力 × 受電時間) ・消費電力 ・バッテリー容量 |
ワイヤレス給電に適用したい機器の消費電力およびバッテリー容量等から必要な受電エネルギーを算出し受電シナリオ (受電時間) から必要受電電力を求めます。 消費電力プロファイルか最大消費電力、平均消費電力があるだけでも検討可能です。 |
| 効率 | ワイヤレス給電はアプリケーション側から見ると電源であり、カーボンニュートラルや環境問題が叫ばれている昨今においては効率を第1に考えるお客様が多いようです。 間違いではないと思いますが、重要なのは損失だと考えています。 例えば、10mWを受電するために20%の効率で送電したとします。この場合に必要な電力は50mWで40mWが損失です。この40mWは熱になります。 対して、10kWを受電するために90%の効率で送電したとします。この場合に必要な電力は11.1kW で 1.1kW が損失です。この1.1kWは熱になります。 何が言いたいかというと、大電力アプリケーションにおいて効率は最重要課題ですが、小電力アプリケーションにおける効率は同様に最重要課題でしょうか?ということです。 |
| コスト | 費用対効果の経済合理性は最重要課題の一つであると思います。 効果とのバランスもあるかとは思いますが、どの程度のコストまで支払うことができるかはあらかじめ考えておいた方が良いと思います。 |
| サイズ | アプリケーションにより様々かと思いますが、妥協できるサイズ感はもっていた方が良いでしょう。 |
| 各国法規制 ・人体に対する安全性 ・他システムへの干渉 |
法規制も重要なファクターで、国、地域によって規制が異なります。 まず想定する仕向地は整理しておくことをお勧めします。 そのうえで、サプライヤに確認してみましょう。 規制は主に①安全性、②他システムへの干渉を制限することを目的としています。 |
| 相互運用性 (Interoperability) | 一般消費者向けの場合、相互運用性の確保は重要ですが、それを実現するには標準化する必要があります。一般的に標準化は標準化団体で整理します。 特定の産業向けの場合、相互運用性の優先順位は低いと思います。 |
| 移動中の給電の要否 | 移動する対象への給電は必要でしょうか? 一般的にワイヤレス給電のシーズは静的 (Static) な給電から始まり動的 (Dynamic) な給電に拡張していく傾向があります。 |
ワイヤレス給電の主な種類と特徴
「ワイヤレス給電」は、無線通信と同様、その特徴により様々な種類があります。
ここでは、主な種類と特徴をまとめてみます。横軸を受電器の負荷で使用可能な電力 (受電電力)、縦軸を送電器と受電器間の距離とします。
「ワイヤレス給電」の種類 (方式) を語る場合、これらを横一列で比較したくなりますが、本記事ではもう少し整理して比較してみようと思います。
各方式のメリット、デメリットは以下をご参照ください。
ワイヤレス給電のメリットとは?原理や種類・方式など最新情報も併せて解説
ワイヤレス給電のデメリット・注意点や課題とは?|基本的な仕組みやメリットも解説
まず、距離50cm程度を境界として、50cm未満を近接型、50cm以上を長距離型と分類しました。
理由は近接型と長距離型ではその特徴や狙っているアプリケーションが大きく異なるためです。
次に、10mW と 50W、5kW を境界として領域を分けてみました。
こうすることで、上記グラフは8つの領域に分けることができます。ここから、各領域について求められる性能と選択可能な方式を比較してみたいと思います。
<①の領域 (50cm未満, 10mW未満)>
この領域は選択肢がありません。というより、需要がないものと思われます。
<②の領域 (50cm未満, 10mW以上50W未満)>
= 選択可能な WPT =
・小型の磁界結合方式
・小型の電界結合方式
= 主なアプリケーション =
・スマートフォン、スマートウォッチ、イヤホン、電動歯ブラシ等、一般消費者向け小型モバイル機器への充電用途
= 重視される特性、特徴 =
| 項目 | 内容 |
| コスト | 一般消費者向けのため、コストは最重要。 |
| 相互運用性 | 磁界結合は Wireless Power Consortium (WPC) が標準化している Qi 規格が存在するので、相互運用性という観点では磁界結合方式が有利。 |
| 効率 | 電力が高いほど効率は重要なパラメータ。同じ効率80%であっても、5W出力する場合、損失は1.25Wだが、15W出力する場合、損失は3.75W。損失は熱となり放熱対策が必要となるので、電力が高いほど効率は重要。電磁誘導は位置ズレに弱い欠点があるが、AppleのMagSafeやそれをベースとしたQi2は磁石の吸着により位置ズレを低減することで高効率を実現。 |
| 各国の法規制 | 日本では設置許可不要の高周波利用設備として利用可能。 海外でも同様に許可、免許等不要。 |
<③の領域 (50cm未満、50W以上5kW未満)>
50Wのものと5kWのものをひとまとめにするのは少し乱暴ですし、5kWで区切るのが良いのか、1kWが良いのか、10kWが良いのかいろいろとご意見はあるかと思いますが、本記事では電界結合方式の現状の上限付近として5kWをしきい値としています。
= 選択可能な WPT =
・中型の磁界結合方式
・中型の電界結合方式
= 主なアプリケーション =
・無人搬送車 (AGV)、配膳ロボット、搬送用ドローン等、産業用ロボットへの充電用途
・電動キックボード等、公衆向け電動モビリティへの充電用途
= 重視される特性、特徴 =
| 項目 | 内容 |
| 効率 | 電力が大きいことから効率は最重要特性。電流駆動型の磁界結合より電圧駆動型の電界結合の方が結合素子 (コイルや電極) の効率は良くなる可能性があるが、磁界結合より電界結合は高周波動作を要求するため、DC/RF、RF/DC 変換素子 (FET、ダイオード) への要求が高くなる。 |
| コスト | 効率と同様、結合素子は電界結合の方が安価に製造できる可能性があるが、DC/RF、RF/DC 変換素子は電界結合の方が高価な素子を要求する。 |
| インフラ | 送電インフラの構築のしやすさ、柔軟性、コスト、安全性も重要な指標の一つ。 |
| 各国の法規制 | 日本では高周波利用設備に該当し、個別の設置許可が必要。(2025/11現在) |
| 相互運用性 | 公衆向けは相互運用性の確保が Better 。 産業用は閉じた環境 (送電器と受電器がセットで使用される環境) であることから相互運用性の重要度は低い。 現状は各社各様で製品化が進められている状況。 |
| 移動中の給電の要否 | 産業用ロボット、電動モビリティへの充電が期待されていることから、移動中の給電への要望は高い。 |
<④領域 (50cm未満、5kW以上)>
= 選択可能な WPT =
・大型の磁界結合方式
= 主なアプリケーション =
・電気自動車 (EV)、商用大型電気自動車 (バス、トラック等) への充電用途
= 重視される特性、特徴 =
| 項目 | 内容 |
| 効率 | 電力が大きいことから効率は最重要特性。 |
| 相互運用性 | 電気自動車の場合、相互運用性の確保は必須。 国際的には IEC, SAE 等で標準化が進められており、国内ではEVワイヤレス給電協議会が設立され、標準化、制度化、普及活動を推進。 |
| インフラ | 一般向けの電気自動車をターゲットとする場合、充電インフラも最重要課題。 国内ではEVワイヤレス給電協議会が普及活動を推進。 |
| コスト | 一般向けの電気自動車は特にコスト意識は重要。 |
| 各国の法規制 | 日本では高周波利用設備に該当し、型式指定で利用可能。(~7.7kWまで) 7.7kWを超える場合は個別の設置許可が必要。(2025/11現在) |
| 移動中の給電の要否 | 電気自動車をターゲットとした場合、移動中の給電の要望があるが、国際標準化、インフラ、製品の完成度等と導入時期とのトレードオフ。 |
<⑤の領域 (50cm以上、10mW未満)>
= 選択可能な WPT =
・電波方式 (920MHz帯)
・光ハーベスティング (屋内)
= 主なアプリケーション =
・超低電力 IoT 機器 (温度/湿度/CO2等の環境センサ)
= 重視される特性、特徴 =
| 項目 | 内容 |
| コスト | 超低電力のIoT機器がターゲットであることから、コストは最重要。 光ハーベスティングは送電器を必要としないため有利。 |
| 各国の法規制 | 電波方式は国・地域により法規制が異なる。 日本は電波法下にて構内無線局として定義され、免許が必要。 米国では ISM機器 (47 CFR 18) もしくは無線周波デバイス (47 CFR 15) として 免許なしで運用可能。 光ハーベスティングに規制は存在しない。 |
| サイズ | 電波方式も光ハーベスティングも受電部 (アンテナ、PV Cell) のサイズが大きいほど受電電力は大きくなる。受電電力とサイズはトレードオフの関係にあるため、妥協点を見出す必要有。 |
| 相互運用性 | 電波方式も光ハーベスティングも受電器は特別な制御なくハーベスティングする方式であるため、特に相互運用性を考慮する必要はない。(一般論) |
| 移動中の給電の要否 | 電波方式も光ハーベスティングも受動的なハーベスティングであることから、移動中の給電は可能。ただし、静止中と同じ受電電力を期待することには無理がある。 |
| 送電器-受電器間の見通し | 電波式は電波の回折効果により見通しがなくても受電可能。 (ただし、見通しがある場合と見通しがない場合で同じ受電電力を期待することは無理がある。) 光ハーベスティングは見通しが必須。(見通しがあるときのみ受電する。) |
<⑥の領域 (50cm以上、10mW以上50W未満)>
= 選択可能な WPT =
・電波方式 (2.4GHz帯、5.7GHz帯、24GHz帯)
・レーザー方式
= 主なアプリケーション =
・低電力 IoT 機器 (低電力センサ、低電力デジタルサイネージ、スマートロック等)
・低電力デジタルデバイス (マウス、キーボード、イヤホン等)
= 重視される特性、特徴 =
| 項目 | 内容 |
| 各国の法規制 | 電波方式は国・地域により法規制が異なる。 日本は電波法下にて構内無線局として定義され、免許が必要。 2.4GHz帯、5.7GHz帯は920MHz帯と比較して厳しい条件が付加されているので 詳細をサプライヤに確認する必要有。 24GHz帯は制度化されていないので運用できない。 (2025/11現在) 米国では ISM機器 (47 CFR 18) として免許なしで運用可能。 レーザー方式は電波法の規制対象外。全世界標準の安全規格は対応要。 |
| コスト | 費用対効果の観点でコストは重要。 |
| サイズ | 電波方式は送電部、受電部 (アンテナ、PV Cell) 共にサイズが大きいほど受電電力は大きくなる。受電電力とサイズはトレードオフの関係にあるため、妥協点を見出す必要有。 レーザー方式の受電電力はサイズに依存しないため、超小型化が可能。 |
| 相互運用性 | 一般消費者向けを目指す場合は相互運用性を考える必要がある。 産業用は閉じた環境 (送電器と受電器がセットで使用される環境) であることから相互運用性の重要度は低い。 現状は各社各様で製品化が進められている (進められようとしている) 状況。 |
| 効率 | 電波方式もレーザー方式も、距離をとることに優先順位をおいたシステムであるため、本質的にシステム効率は悪い。 電波方式は距離の2乗に反比例して伝搬損失が増加する。 レーザー方式は伝搬損失がない。 受電電力が大きい場合、発熱の問題が生じるため、効率の重要度は増加する。 受電電力が小さい場合 (例えば 1W 以下)、効率を議論するよりも他の特性 (距離、受電電力) を重視して考えるべき。 |
| 移動中の給電の要否 | 多くのサプライヤは、静止中を最初のターゲットとして製品化を検討中。 移動中の給電は需要と時間が必要。 |
| 送電器-受電器間の見通し | 電波式は電波の回折効果により見通しがなくても受電できるポテンシャルはあるが、周波数が高くなるほど直進性が増すため回折の効果が期待できなくなる。また、法規制において見通しを前提として暗に要求する場合がある。 レーザー方式は見通しが必須。(見通しがあるときのみ受電する) |
<⑦の領域 (50cm以上、50W以上5kW未満)、⑧の領域 (50cm以上、5kW以上)>
この領域は選択肢がありません。
電波方式、レーザー方式、共に研究レベルでは技術的に実現することは可能ですが、十分な需要が見込まれないこと、満足のいくコストの見込みがたたないことから、現状製品化に向けた動きはあまり見えません。
防衛用途での製品化を検討している企業は存在します。
宇宙太陽光発電をターゲットとした研究も存在します。
まとめ
本記事では、一般的に説明されているワイヤレス給電の技術的説明とは異なるアプローチで選定のヒントをまとめてみました。
少し主観が入ってしまったことは否めませんが、世の中に散らばっているワイヤレス給電技術の解説とともに皆様のご参考になれば幸いです。
2025年11月
第一級陸上無線技術士
Expert
勝永 浩史
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