WPTと周波数 (1)
今回から数回に分けて、マイクロ波を用いた空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム(以下 WPT ) の周波数について考えてみたいと思います。
2022/5/26 に改正された省令においては WPT の周波数帯として 3 つの周波数帯が解放されました。
開放された 3 つの周波数帯と Transmitter の基本仕様を下記に示します。
なぜ 3 つの周波数帯が存在するのでしょうか?
仕様も 3 つの周波数帯で異なるようです。
どの周波数帯を使うのが良いのでしょうか?
ユーザーは何を基準に選択すればよいのでしょうか?
こういった疑問に答えるべく、まずは周波数を切り口としてそれぞれの電波としての特徴についてみていきたいと思います。
WPT は電波を用いて電力を伝送するシステムです。
電波は目には見えませんが、現代社会において電波は欠かせないものとなっています。
テレビ放送、携帯電話、Wi-Fi、Bluetooth、自動車の自動運転や追突を防止するためのレーダー、その他、あらゆるシーンでおそらく無意識に電波を利用しています。
こういった身近にある電波利用と WPT とで電波の特性として何か違いがあるのでしょうか?
実は電波の使い方が違うだけで大きな違いはありません。
WPT の 3 つの周波数帯のそれぞれの特徴は、皆さんが普段身近に接している既存システムから容易に想像することができます。
【普段利用している既存システムから想像できる WPT の 3 つの周波数帯の特徴】
総務省電波利用ホームページには以下のように記載されています。
<UHF (920MHz帯、2.4GHz帯)>
UHF の波長は、10cm~1mで、VHF に比べて直進性が更に強くなりますが、多少の山や建物の陰には回り込んで伝わることもできます。
伝送できる情報量が大きく、小型のアンテナと送受信設備で通信できることから、携帯電話や業務用無線を初めとした多種多様な移動通信システムを中心に、地上デジタルTV、空港監視レーダーや電子タグ、電子レンジ等に幅広く利用されています。
<SHF : マイクロ波 (5.7GHz帯)>
マイクロ波の波長は、1~10cmで、直進性が強い性質を持つため、特定の方向に向けて発射するのに適しています。
伝送できる情報量が非常に大きいことから、主に放送の送信所間を結ぶ固定の中継回線、衛星通信、衛星放送や無線LANに利用されています。この他、レーダーもマイクロ波の直進性を活用した利用システムのひとつで、気象レーダーや船舶用レーダー等に利用されています。
<920MHz帯>
携帯電話のプラチナバンドや RFID と近い周波数帯です。
プラチナバンドはそれまでの携帯電話の周波数帯と比べて低かったことから、建物の陰への回り込みが期待されていたのは比較的記憶に新しいのではないでしょうか。
<2.4GHz帯>
Wi-Fi や Bluetooth 等と同じ周波数帯です。
2.4GHz帯の Wi-Fi はいくつかの部屋をカバーすることができ、5GHz帯の Wi-Fi よりもカバレッジが広いことが特徴です。
皆さんに身近なシステムが多数ありこなれている周波数帯である事柄、比較的安価なシステムが構築できそうなことも期待できます。ただ、ISM 帯であることから、いろいろなシステムが混在しており、干渉という問題を解決する必要がありそうなことが予想されます。
<5.7GHz帯>
Wi-Fi や DSRC (ETC) 等と近い周波数帯です。
5GHz帯の Wi-Fi は、部屋をまたいでエリアをカバーする事は苦手です。
5GHz帯の Wi-Fi の特長である高速性というのはあまり WPT に関連付けることはできそうにありませんが、
様々な小型機器に搭載されていることから小型化という恩恵は受けられそうです。
この周波数帯も皆さんに身近なシステムが多数ありこなれている周波数帯であることから、比較的安価で、3つの周波数帯の中で最も小型なシステムが構築できそうなことが期待できます。
ただ、2.4GHz帯と同様に ISM 帯であることから、いろいろなシステムが混在しており、干渉という問題を解決する必要がありそうなことが予想されます。
<ここまでのまとめ>
・920MHz帯は建物の陰への回り込みが期待できそうです。
・5.7GHz帯は最も小型なシステムを構築できそうです。直進性の高さをメリットにしたいところです。
・2.4GHz帯はそれらの中間に位置することから、うまくいけば両者の良いとこどりができそうです。(コンセプトを誤ると中途半端なものになりそうです)
・2.4GHz帯と5.7GHz帯は ISM 帯であることから、干渉問題を解決する必要がありそうです。
今回は、普段利用している既存システムから WPT に割り当てられた 3 つの周波数帯の特長をぼんやりと想像してみました。
次回は周波数の切り口をもう少し掘り下げ、波長、アンテナにおける各周波数帯の違いをみてみようと思います。
第一級陸上無線技術士
Expert
勝永 浩史