商品基礎情報
MOKUを用いたレーザーロッキング:リアルタイムな制御系解析による最適化
レーザーの周波数は周囲の温度変化や振動によって常に揺らいでいます。精密さが求められる実験では、この揺らぎを抑えるために外部の基準(共振器など)に周波数を固定する必要があります。通常、このフィードバック系を構築するには、変調器、ミキサー、フィルタ、PIDコントローラなど多くの機材が必要ですが、それらのパラメータを最適化して制御系の安定性(位相余裕など)を確認するのは非常に困難な作業でした。
Mokuのレーザーロックボックス(Laser Lock Box)とマルチインスツルメンツモードを活用することで、1台のMokuの中で「レーザーロックボックス」と「周波数応答アナライザ(FRA)」を同時に起動します。レーザーを共振器にロックさせた状態で、FRAを使って制御ループ内に微小な揺さぶりを加え、その応答を測定します。これにより、ロックを維持したままフィードバックループ全体の転送関数(ボード線図)を直接取得します。
PDH(Pound-Drever-Hall)法による安定したレーザーロッキングを実現すると同時に、稼働中の制御ループのユニティゲイン帯域幅や位相余裕をリアルタイムで特定できました。これにより、理論値に頼ることなく、実際の実験系において最もノイズ抑制効果が高く、かつ発振しない最適なPIDパラメータを短時間で正確に導き出すことが可能になりました。
- 制御ループの定量評価
・ユニティゲイン周波数 約24kHz、位相余裕 90度以上という、極めて安定したロッキング状態を可視化しました。 - 物理的限界の特定(帯域制限の要因)
・約63kHzに存在するPZTの機械的共振を明確に捉えました。これにより、システムを不安定化させる「正帰還」の発生ポイントを特定し、安全なゲインの境界線を導き出しました。
・低周波ゲイン60dB(外乱抑制 -60dB)を達成。レーザー周波数ノイズを十分に抑え込み、長時間の安定したロックを維持できる能力を証明しました。
マイクロラジアン精度の位相計測:位相計による高精度位相検出と周波数解析
光学干渉計や精密な周波数同期の現場では、信号の位相変化を極めて高い精度で追跡する必要があります。従来のゼロクロス検出法などはノイズに弱く、ダイナミックレンジに限界がありました。
Mokuのフェーズメーターは、FPGAを用いたデジタル・フェーズ・ロック・ループ(DPLL)アルゴリズムを採用しています。これにより、入力信号のノイズを効果的に抑制しながら、最大4チャンネルの独立した位相・周波数・振幅をリアルタイムで追跡します。
直感的なマルチチャンネル・モニタリング最大4つの入力信号を同時にトラッキングし、それぞれの位相差や周波数の揺らぎをひとつの画面で管理できます。複雑なプログラミングを必要とせず、iPadやPCのUIから即座に計測を開始できるのがMokuの大きな利点です。
マイクロラジアンレベルの精度と安定性解析実測データからは、極めて低い位相ノイズ密度と広いダイナミックレンジが確認されました。さらに、Moku内部で直接アラン分散(周波数安定度)やスペクトラム解析を行うことができ、外部ツールを使わずにその場でシステムの性能評価が完結します。
デジタル回路検証の効率化
FPGAやマイコンを用いたデジタル回路設計において、SPI、I2C、UARTなどのシリアル通信プロトコルの検証は不可欠です。しかし、信号を送るための「パターンジェネレータ」と、それを受ける「ロジックアナライザ」を別々に用意し、さらにそれらを同期させて測定するのは、機材のセットアップだけで多くの時間を費やす課題がありました。
Mokuのロジックアナライザ機能であれば、こちらの課題を解決することが可能です。最大16チャンネルのデジタル入出力を備え、任意のデジタルパターンを生成しながら、同時にターゲット回路からのレスポンスをキャプチャします。
取得した波形は、ソフトウェア上で即座に解析可能です。バイナリやヘキサ(16進数)形式でデータ内容を表示できるため、物理的な信号のタイミング(セットアップ/ホールドタイム)と、論理的なデータ内容が一致しているかを一目で確認できます。
信号の生成から解析までを1つのソフトウェアで統合管理することで、トリガ設定やデータの比較が容易になります。これにより、通信エラーの特定や、設計したデジタル回路の動作確認(バリデーション)にかかる時間を大幅に短縮し、開発サイクルを加速させることができます。
宇宙探査に向けた極低温・超精密変位計測システムの開発
NASAが主導するLISA計画では、宇宙空間でレーザー干渉計を用い、重力波による微小な距離変化を測定しました。この実現には、地上でのシミュレーションにおいて、極低温(クライオジェニック)環境下でピコメートルオーダーという、気の遠くなるような精度での変位計測が必要でした。従来の計測システムでは、巨大なラック型の装置群が必要であり、ノイズの混入やシステムの複雑化が大きな壁となっていました。
フロリダ大学の研究チームは、Moku:Proの「マルチインスツルメントモード」を採用しました。1台のデバイス内で、フェーズメーターとロックインアンプを同時に、かつデジタル領域で結合して運用しました。干渉計から得られる微弱な光学信号をロックインアンプで抽出し、その位相変化をフェーズメーターで超高精度にトラッキングすることで、物理的な変位をリアルタイムで算出しました。
FPGAベースの柔軟性を活かし、実験の進行に合わせて信号処理フローを即座に調整することで、複雑なプログラミングを行うことなく、GUI上でロックインアンプのフィルタ帯域やフェーズメーターの追従速度を最適化しました。これにより、極低温環境下で刻々と変化する実験条件に対しても、ダウンタイムなしでの対応が可能となりました。
研究チームは、従来の計測器ラック数台分に匹敵する機能をMoku:Pro 1台に集約することに成功しました。デジタル信号処理によるノイズの低減と高いダイナミックレンジにより、目標とした超高精度な変位計測を実現。装置の劇的な小型化と信頼性の向上は、将来の宇宙ミッションに向けたシステム開発を大きく加速させる結果となりました。
光ファイバー特性評価の簡素化と高精度化
光ファイバーの品質管理や光ファイバーセンサーの研究において、ファイバー内の分散、損失、または外部刺激(温度や振動)に対する位相変化を正確に把握することは不可欠です。しかし、これらを精密に測定するには、高価な専用の光時間領域反射計(OTDR)や光周波数領域反射計(OFDR)が必要であり、セットアップの複雑さと導入コストが大きなハードルとなっていました。
研究チームは、Mokuのフェーズメーター機能を活用しました。レーザー光源からの参照信号とファイバーを通過した信号の位相差を、デジタル・フェーズ・ロック・ループ(DPLL)を用いて直接計測します。これにより、外部の複雑な復調用ハードウェアを介さず、1台のMokuの中で光信号の微小な位相変動をマイクロラジアン精度でリアルタイムに抽出しました。
位相計測に加え、Mokuの周波数応答アナライザを併用することで、ファイバー系の伝達関数を素早く取得。変調周波数をスイープさせながら、ファイバーの動的な応答特性をボート線図としてリアルタイムに描き出します。iPadやPCの直感的なUIにより、フィルタ設定やゲイン調整をその場で行いながら、最適な計測条件を迅速に導き出しました。
Mokuを導入した結果、数千万円クラスの専用計測システムに匹敵する位相分解能を、汎用的な計測プラットフォームであるMoku 1台のみで実現しました。さらに、ソフトウェアを切り替えるだけでオシロスコープやデータロガーとしても機能するため、ファイバー計測からデータ解析、トラブルシューティングまでをシームレスに行える「オールインワンのラボ環境」が構築されました。
量子演算のエラーを防ぐ:イオンのマイクロモーション計測
トラップされたイオンを用いる量子コンピュータや光格子時計において、イオンの量子状態を可能な限り安定させることは最優先事項です。しかし、トラップを形成する高周波(RF)電場の中心からイオンがわずかにズレると、電場によってイオンが細かく揺れる「マイクロモーション」が発生します。このわずかな振動がドップラーシフトや加熱を引き起こし、量子ゲート操作の信頼性を著しく低下させてしまいます。従来、この計測には複数の高価な外部機器と複雑な配線が必要であり、セットアップ自体の不安定さが計測精度を制限するというジレンマを抱えていました。
研究チームは、FRA(周波数ドメイン)ではなく、タイムドメインでのパルス計数統計に基づき、この複雑な課題に挑みました。トラップ系から出力される「RFトラップ駆動信号(TTL同期信号)」をMoku:Proのアナログ入力に、イオンからの蛍光フォトン(Scattered photons)を捉えた「PMT(光電子増倍管)のTTLパルス」を別のアナログ入力へ接続します。Moku:Proに搭載されたタイムスタンプ機能により、PMTパルスの到着時刻を、RF駆動信号を基準とした相対時間として極めて正確に記録。RF電場の周期に同期したフォトンパルスの到着時間分布(タイムヒストグラム)を統計的に解析することで、マイクロモーションによる周期的な振動(=ヒストグラム上の山)を、他のノイズ成分から明確に分離して評価する手法を確立しました。
Moku:Proの直感的なUI(Mokuソフトウェア)では、タイム&周波数アナライザ機能によって、取得されたタイムヒストグラムをリアルタイムで監視・解析できます。エンジニアは、イオンの位置を最適化するDC補償電圧を変化させた際、ヒストグラムの形状変化をボート線図ではなく、時間軸の山(ピーク)の変化として瞬時に捉えることができます。調整によって、ヒストグラム上のRF周期に同期した山を潰し、平坦(フラット)にするポイントを探し出すことで、イオンがトラップ電場の中心に位置する「ヌル点」を視覚的に、かつ数分で特定します。従来のように専用の高速パルス計数ボードや複雑なキャリブレーションが必要だったセットアップが、Moku:Pro 1台のソフトウェア機能で簡素化されました。
タイムコリレーション手法により、マイクロモーションの抑制精度が飛躍的に向上し、結果としてイオンの量子状態のコヒーレンス時間が改善されました。これまで経験と時間を要していたセットアップ作業が、Moku:Pro 1台による「タイムドメインでの可視化」によって劇的にスピードアップしました。この汎用性の高いアプローチは、NASA等のトップクラスの研究所において、量子コンピュータの拡張性を支える重要なキャリブレーション手法として高く評価されており、複雑な光学実験系を簡素化し、実験効率の劇的改善に貢献しています。