安全性:IEC 62778の理解と、KV,Bを用いた白色光の眼に対する安全性リスクグループの算出について解説
照明設計において、白色LEDの「ブルーライトハザード」評価は避けて通れない課題です。しかし、国際規格IEC 62471やIEC 62778は内容が複雑で、専門的な輝度測定や難解な計算に頭を悩ませている設計者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、Luminus社が提唱する画期的なアプローチをご紹介します。データシートに記載された「KV,B」という係数を用いることで、難解な輝度計算をスキップし、日頃から使い慣れている「照度(ルクス)」ベースで簡単にリスクグループ(RG)を判定できるようになります。また、規格が定める「小光源」と「大光源」の違いや、2.2mmという境界線の物理的な背景も紐解きます。
今回は、面倒な安全評価をシンプルにし、自信を持ってLED選定を行うための「IEC 62778規格の読み解き方とKV,Bを用いたリスク計算手法」について、分かりやすく解説した記事をご紹介します。
安全性:IEC 62778の理解と、KV,Bを用いた白色光の眼に対する安全性リスクグループの算出
眼の安全性は複雑なトピックです。本記事では白色LEDに焦点を当て、認証機関による白色光コンポーネントの試験において、リスクグループ(RG)を決定するほぼ唯一の要因となる『ブルーライト(網膜青色光)ハザード評価』について解説します。KV,B(またはKB,V)という概念を用いることで、照明設計者は、器具がRG2未満と評価され、注意喚起の表示が不要となる条件を推測することが可能になります。
背景として、下の表にIEC 62471で定義されている有害性と、各試験項目において一般的にリスクグループが割り当てられるLEDのタイプをまとめています。可視光光源の場合、まぶしさから目を逸らす『忌避反応(約0.25秒)』による保護効果が安全上のバッファ(ゆとり)となるため、RG2では注意喚起が必要ですが、RG1では不要とされています。一方、忌避反応が起こらない非可視光(赤外線・紫外線など)についてはこの限りではなく、RG0を超える場合は注意喚起の対象となります。
表1. IEC 62471に含まれるすべての算出項目に基づいた、リスクグループ別の曝露防止策(曝露に関する注意事項)に関するガイダンス
出典:Christophe Martinsons著『Photobiological Safety(光生物学的安全性)』、Handbook of Advanced Lighting Technology(Springer出版、2014年)より引用・改変
KV,B とは何でしょうか?
KV,B は、技術報告書 IEC/TR 62778:2014「光源および照明器具のブルーライトハザード評価のための IEC 62471 の適用」で導入された指標です。IEC 62778 は、「可視光スペクトル(380 nm ~ 780 nm)に主放射を持つすべての照明製品の、ブルーライトハザード評価に関する明確化とガイダンス」を提供することを目的としています。
IEC 62778 で改善された手法を用いることで、LEDコンポーネントの相関色温度(CCT)と全光束(ルーメン出力)の情報から、そのリスクグループ分類を推定することが可能になります。一部の結果は、追加の測定を行うことなく照明器具本体へと引き継ぐことができます。試験レポートにおいて、これらは「Unlimited(無制限)」と指定されます。例えば、IEC 62778 のレポート形式で「RG1 – Unlimited」と指定されたコンポーネントを使用すれば、その照明器具はいかなる条件下でも RG1 を超える(RG2以上になる)ことはありません。なお、IEC 62778 では RG0 と RG1 の区別は曖昧にされており、焦点は「どのような条件で RG2 になるか」という点に置かれています。
KV,Bの算出方法
KV,Bの数学的定義は以下の通りです。なお、単位は WB/lm(ルーメンあたりのブルーライト有効放射電力)で表されます。

各項の定義:
・WB:光源のブルーライトハザード加重放射電力(単位:W)
・φλ:白色光源の放射分光純エネルギー分布(単位:W/nm)
・λ:波長(単位:nm)
・B:IEC 62471で定義されているブルーライトハザード分光加重関数
・Km:波長 555 nm の単色光源における最大視感効果度(683 lm/W)
・V:標準比視感度(標準比視感度曲線)
KV,Bの算出において、φλ(放射分光分布)の絶対値の大きさは重要ではありません。なぜなら、計算過程で分母と分子の両方に現れ、相殺されるからです。分光分布(SPD)は正規化された形式で提示されることが多いですが、KV,Bの算出前にあえてスケーリングを行う必要はありません。
本記事のダウンロードセクションには、KV,B の計算方法を示すExcelワークブックの例を用意しています。簡単に言えば、分子についてはSPDにブルーライトハザード関数 B(λ) を乗じて合計し、WB の値を得ます。分母については、SPDに比視感度曲線 V(λ)を乗じて合計したものに、Km(683 lm/W)を掛けることでルーメン値を得ます。
この計算機には、中間計算の副産物として LER(放射視感効果度:lm/Woptical)も含まれています。LERが分かれば、特定のSPDにおける放射電力(ワット)と光束(ルーメン)を相互に変換できます。眼の安全性評価の計算では、プロセスの各段階で測光単位(lmなど)と放射単位(Wなど)の両方を使用するため、この変換が重要になります。
図1. 付属の計算ツールによるスクリーンショットです。Luminus社製「CLM-14-65-80-36-AC40」の KV,Bは、8.73 × 10-4 [ブルーワット / ルーメン] です。なお、ブルーライトハザード関数については、IEC 62471の付表に基づき、1 nm刻みで補間処理を行っています。
KV,Bの活用方法
IEC 62778 では、以下の追加定義が規定されています。

IEC/EN 62471 におけるブルーライトハザードの曝露限界値(EL)は、EB(WB/m2:放射照度)および LB(WB/sr・m2:放射輝度)の値に基づいています。したがって、算出された KV,B の値を用いることで、特定の光源のリスクグループを判定するために必要な「ブルーライト加重値」を決定することができます。EB と LB の両方の値が使用される理由は、曝露限界(EL)の本来の定義において「眼球の動き」が考慮されているためです。放射輝度(L)は、網膜上に結像(フォーカス)される光の点を考慮した曝露限界の基礎となります。大光源(面積の大きい光源)の場合、放射輝度は……

ここで、Isource は光源から眼に向かう放射強度(単位:W/sr)を指します。これは距離に依存しない値であり、光源の半値幅(FWHM)指向角や、データシートに記載されているいくつかの値から算出可能です。これらの計算方法については、関連記事「LED データシートからルクスを計算する方法について解説」で紹介しています。
一方、「見かけの光源面積:Aapparent source」は距離に大きく依存し、眼から光源を見る方向で計算されます。同じ放射強度(W/sr)を持つ光源であっても、面積の小さい光源は、面積の大きい光源よりも高い放射輝度(W/sr・ m2)を持つことになります。IEC 62471では、見かけの光源として使用できる面積に制限を設けています。これらの制限は、曝露限界(EL)の計算を簡略化するために、ラジアン単位の角度 α(アルファ)として表されます。
図2.眼の各部位と、放射輝度(L)および放射照度(E)が適用される波長範囲を示した図。(出典:Christophe Martinsons著『Photobiological Safety』、Handbook of Advanced Lighting Technology、Springer刊、2014年より改変)
小さな光源(点光源など)の場合、計算上の真の放射輝度(放射強度 I を実際の面積で除した値)は使用されません。なぜなら、算出された非常に高い値は、0.25秒を超える時間においては生物学的にあり得ないと考えられているからです。これは、網膜上の焦点が一点に固定されないためです。小さな光源の像の焦点は、眼の奥にある網膜上を絶えず動き回っています。そのため、小さな光源については、代わりに受熱面における放射照度 EB が使用されます。
これは厳密には角膜への入射光束を指しますが、小さな光源のブルーライト計算においては、放射輝度 Lの代用(代替指標)として用いられます。
図3.正方形および長方形の光源に対して、視角αを算出するための IEC 62471 推奨手法です。小さな光源におけるαの下限値(閾値)は 0.011 rad です。一方、大きな光源の上限値は 0.1 rad とされています。眼の安全性に関する仕様規定や計算において、αは立体角Ω および光源サイズの代用(指標)として用いられます。
図4.放射輝度(L)と放射照度(E)の区別を可視化した図です。放射輝度の算出には、光源から放射される放射強度(W/sr)と、光源側を向いたときに見える「見かけの光源面積(m2)」が用いられます。
KV,Bを用いる最大のメリットは、相関色温度(CCT)を入力変数として、さまざまな一般化(傾向の把握)ができる点にあります。その一例を下の図に示します。これは、「小さな」白色光源における「臨界照度(Eth)」とCCTの関係をプロットしたものです。このグラフは、RG1とRG2の境界となるブルーライト放射照度の閾値である EB = 1WB/m2 に設定して作成されています。KV,Bは次のように表すことができるため、

EB = 1 と設定すると、照度閾値である Eth は 1/KV,B [lx] という結果になります。多くの分光分布(SPD)についてこの 1/KV,B を算出すると、一連の軌跡(Locus)が得られます。それが下の図にオレンジ色の丸印で示されているプロットです。
図5.IEC 62778の図C.2を再現したものです。青線は元のプロットをデジタル化したもので、グレーの階段状の曲線は表C.2に基づくものであり、2倍の安全率が組み込まれています。オレンジ色の丸印は、さまざまなCRI(演色評価数)および黒体軌跡からの距離を持つ、Luminus社製COBコンポーネントを用いて計算された結果です。
関連記事「LED データシートからルクスを計算する方法について解説」では、全光束(ルーメン)と距離の入力値を用いたルクス計算の例を紹介しています。具体的な数値例を挙げると、前述のExcelスクリーンショットに示された6500 Kの白色LEDの場合、KV,Bの値は 8.73 × 10-4 [(WB/m2) / (lm/m2)] です。この 8.73×10-4の逆数を計算すると、1145.5ルクスとなります。
CCT(相関色温度)がより温かみのある色温度に移行するにつれて、臨界照度(Eth)の閾値は上昇します。例えば、3000 Kの光源の場合、RG2が発生する放射照度は3000ルクスとなります。これは、検討中の作業面において照度が3000ルクス未満である照明器具なら、すべてRG2を下回る(=RG1以下である)ことを意味します。温かみのある光源は1ルーメンあたりのブルーライト含有量が少ないため、これは直感的に明らかではありますが、下の図を作成した一連の分析によって、この関係性が実用的な形で数値化されています。
これは照明器具の設計者にとって、非常に強力な(価値のある)結果です。IEC 62471-2において、リスクグループ1(RG1)以下に分類される白色光源は、警告ラベルの表示が義務付けられていないからです。
白色光を用いた照明器具の典型的なユースケース(使用例)として、作業面で500ルクス(またはそれ以下)を目標とすることが挙げられます。上の図(グラフ)によれば、最も高い相関色温度(CCT)であっても500ルクスの閾値を超えることはありません。したがって、従来のIEC 62471に基づくGLS(一般照明サービス)試験において、ブルーライトによるリスクグループがRG1を超えることはありません。
これまでの議論において「小光源(small source)」の計算結果を用いてきたのは、大光源で使用される「放射輝度(L)」よりも、「照度(E:ルクス)」の方がはるかに直感的に理解しやすいためです。
IEC 62778には、人間の目の生理機能に起因する多くの特殊なケースが規定されています。なかでも「小光源」と「大光源」を区別する主要な要因の一つとなっているのが「眼球の動き」です。IEC 62778の規格内には、本記事のグラフと同様のプロットとして、y軸に放射輝度(L)の閾値を設定した図も提示されています。
IEC 62778には、いくつかの簡略化がなされています。その一つは、IEC 62778における試験距離が常に200 mmと規定されている点です。また、小光源と大光源を区別するために用いられる視角 α(アルファ)は、常に0.011ラジアンに設定されています。距離が200 mmの場合、このαは直径2.2 mmの固定値となります。
直径2.2 mmの円をはみ出す(覆い尽くす)光源は「大光源」とみなされ、その円の中に収まる光源は「小光源」とみなされます。リスクグループの限界値を決める根拠は、異なる「真の放射輝度」の値に対する、露光時間(曝露時間)の限界に基づいています。
IEC 62778においては、直径2.2 mmの円の範囲内のみを考慮すれば事足ります。大光源(面積の大きい光源)の場合、この2.2 mmの範囲が、真の放射輝度 LB を算出する際に用いられる面積となります。
図6.IEC 62778において、小光源と大光源を区別するために用いられる直径2.2 mmの円を示したLEDの画像です。Luminus製品の場合、製品番号に面積コードが含まれており(SST-10は1mm2、SST-90は9mm2など)、SST-20が小光源(Small source)に分類される最大の製品となります。離れた光源やLEDアレイについては、IEC 62778の附属書D(Annex D)で規定されています。Global Lighting Associationのホワイトペーパー “Optical and Photobiological Safety of LED, CFLs and Other High Efficiency General Lighting Sources” では、さまざまな白色光源技術におけるリスクグループ・レベルの多数の比較データが掲載されています。また、その技術付録(Technical appendix)も一読の価値があります。
IEC 62778における計算では、以下のように複数の単位が混在して使用されます。
- cd/m2(カンデラ毎平方メートル):初期段階で「RG0 Unlimited(無制限)」を判定するために使用されます。
- WB/m2 または WB/(m2・sr):光源が小光源か大光源かに応じて、「RG1」および「RG1 Unlimited」を判定するために使用されます。
- ルクス(lx)および距離の閾値:RG1とRG2の境界条件である EB = 1 WB/m2に基づいて算出されます。
この意思決定マトリクス(判定フロー)を以下に示します。試験機関では直接測定が行われ、すべての数値がソフトウェアで処理可能です。一方で、設計者が概算を行う場合に必要な計算は、検討対象の光源のルクス値を求めることだけであり、あとはIEC 62778の図C.2(図5)を参照するだけで済みます。最も基本的なレベルで言えば、「光源が視界にあり、眼の位置におけるルクス値がそのCCT(色温度)の臨界ルクス値を超えていれば、その光源はRG2である。そうでなければRG2未満である」と判断できます。
図7. IEC 62778の図7をもとに作成されたフローチャート
完全を期すため、Luminus社のさまざまな白色製品に関する計算値の表とグラフを以下に示します。
表2. さまざまなSPD(分光分布)の算出値一覧
図8. 表2にまとめたデータのプロット(グラフ)です。回帰線(近似曲線)を用いることで、CCT(相関色温度)からKV,Bを算出することができます。
まとめ
「KV,B」を活用したブルーライトハザード評価とは?
IEC 62778の規格は、小光源と大光源の境界線(2.2mm)や輝度と照度の使い分けなど複雑な光学理論で構成され、照明設計者にとって大きなハードルでした。
しかし、本記事で解説した係数「KV,B」を使えば、難解な輝度計算をスキップできます。本来、KV,Bは厳密なスペクトルから算出されるものですが、Luminus製品であれば、本記事のグラフを用いて色温度(CCT)から「実用的な目安」を簡単に割り出せます。
この目安を用いて「1 ÷ KV,B」を計算するだけで、安全なRG1に収まる限界ルクス値(臨界照度 Eth)の当たりをつけられるため、あとはその照度を下回るように設計するだけです。
複雑な安全評価を使い慣れた「ルクス」に変換し、開発の初期段階で手軽にリスクの目安を把握できる、極めて実用的なアプローチなのです。